噛まれました。
一方その頃、ゾンビハンティングで鍛え上げられた脚力や情報処理能力などを駆使して、全速力で犬を飼うためのセット一式を購入したバースと麗華は、裏庭で両手を地面に着いて打ちひしがれていた。
「いやぁ、それがさ。
もうびっくり。
あいつ滅茶苦茶はえぇの」
躯呑の話しによると、あの謎の生物はアレクサンドリア家の庭から驚くべき速度で逃げ出したらしい。
「オーウ、マイ、ガッ!」
「………父様、お気持ち大変良くわかります」
「あたしからすれば、アンタらが何に熱くなってるのか、サッパリわかんないよ」
突然、孤児院の中の、具体的には台所にいるアレクサンドリア芽衣の口の辺りから悲鳴が発せられる。
デジャブを感じながらも台所に駆けつけるバースと麗華。
「いやぁ、来ないでえ!」
A太の後ろに隠れる芽衣。
A太の前には、あの謎の生き物が、でんっとふてぶてしく座り込んでいた。
説明しよう!
アレクサンドリア芽衣は、犬と猫が大の苦手である!
以上、説明終わり!
「ハッハッハッ! 悪いな瑛太君。
ウチの芽衣は動物が苦手なんだ!
こんなに可愛いのになぁ。
勿体無い…」
「可愛くなんてないっ!」
芽衣の激しい否定に、A太も頷く。
「まあ可愛く無いのは確かですね。
別段怖くも無いけど」
そう言って、生き物を撫でようと手を伸ばすA太。
キシャアァー!
「ひいっ!?」
伸ばした手を、謎の生き物が口を大きく縦に裂いて噛みちぎる。
生き物は肉と血を口から吐き出すと、目にも止まらぬ速さで何処かへ去って行った。
「お、おいおい、見かけによらず凶暴だな。
今度見つけても、あいつを飼うのはやめておこう。
大丈夫かい、瑛太君?」
「こんなの舐めとけば治ります」
「消毒とかは要らないのかい?」
「そんなの沁みて痛いだけですよ。
ほら、治った」
元通りに手をくっ付けて、A太はぶらぶらと振ってみせる。
「それより芽衣さんの心配をした方が…」
「ああっと、そうだった。
芽衣、立てるかい?」
「無理」
「はっはっはっ。
こういう時の芽衣は、相変わらず甘えん坊だな」
「うるさい」
俗に言うお姫様抱っこで、バースは芽衣を寝室まで運ぶ。
「これはアレかな?
ナイトプロレスパーティーが始まるのかな?
わくわく」
「………まだ昼だからナイトは要らない」
それから暫くして、日が暮れ始めた頃、閉店間際のマツモトミヨシ素穂市支店はちょっとした騒ぎになっていた。
例の謎の生き物が店内に入り込んだのである。
「お客様の命がかかっている。
見つけ次第撃て!」
松原の怒号で、猟銃を構えた男達がストア内に侵入する。
その中には松浦宏の姿もあった。
松浦は客を素早く外に退避させ、冷静なクリアリングで生き物の姿を探す。
「見つけたぞ!」
「追え、逃がすな!」
声の位置に向かって走る松浦。
ズドンという音が誰かの猟銃から響き、事態が終わりを迎えた事を告げる…
「うそ……だろ?」
「どうなってやがるんだ!?」
はずだった。
松浦が駆けつけたそこでは、謎の生き物が飛び散った自分の肉片を掻き集めて、自分の肉体を再構成していた。
生き物が飛びかかる気配を察して、松浦は男達の間に入る。
ガキン!
間一髪で松浦は、生き物の噛みつきを猟銃で防いだ。
「液体窒素入りの消火器を持って来て
下さい。
なるべく早く!」
激しい攻防の末に、男達は無事生き物を氷漬けにすることに成功した。
「店長、この生き物は…」
「ああ、間違いない。
奴を打ち倒すための鍵になりうるだろう」




