焦りました。
生き物を囲む輪の中には、いつの間にかバースが増えていた。
「オウ、ファンタスティック!
なんて愛らしい生き物なんだ!!」
「………同感」
感動する二人を遠巻きに眺める木葉。
「やっぱ親子なんだなぁ…」
「………ウチの子にしよう、父様」
「ザッツァライ!
そうと決まれば、ホームセンターへゴーだ!」
土煙りを立てて走る二人。
躯呑が一人ごちる。
「芽衣ちゃんの許可が降りるとは思わないんだけどねぇ。
ま、いっか。
知ったこっちゃないね」
その頃A太は、台所で芽衣にクッキーの焼き方を教えてもらっていた。
「そうそう。
そこはなるべく急いでかき混ぜるんだよ」
「はい」
シャカシャカシャカシャカ。
「そうそう、上手いじゃないか。
要領が良いね、アンタは。
あの妹の息子だとは思えないよ」
芽衣の発言にA太は衝撃を受ける。
芽衣が瑞季の姉だということは、少なくとも芽衣は三十三歳を越えていることになる。
冷静に考えれば、麗華程の大きさの娘がいるという時点で、それなりに芽衣が歳を召していることは察する事が出来るはずだが、まあそこはA太独自の思考回路の賜物である。
「昔から要領悪かったんですか?
ウチの…母さん」
母さんと瑞季を呼ぶ直前で、少しの間A太の口が固まった。
「ああ、酷いもんだったよ。
ピアノも歌もバレエも絵も、料理もそろばんもスポーツもぜーんぶ駄目だった。
なんというか、頭は良いのに不器用なんだよね、あの子は。
ま、それ以前に人間として破綻してるんだけどさ」
「人の母親を、子供の前でそんな風に言える貴方も、人としてどうかしてると思います」
「ははっ、言えてるね。
うん、私もどっかおかしいんだよ。
…あの家のせいにするつもりは無いけどね。
というか、あんた瑞季の子じゃないだろう?」
「え?」
A太の脳内に警鐘が響く。
『良いか?
もしこれからお前が一人で外に出るような事があれば、その時は周りの人間全員に、自分は与那城瑞季の息子ですと嘘をつけ。
それは絶対にバレちゃいけない嘘だ。
もし誰かにバレてしまったら、その時は……………』
A太の思考にノイズが混じる。
「なんてね」
「へ?」
芽衣はカカッと笑うと、包丁を手に取った。
「確かに全然似てない親子だけど、戸籍上そうなってるらしいから、あんたは間違いなく瑞季の子なんだよねぇ。
何か信じらんない!
ううん、信じたくないんだろうねぇ」
芽衣にバレないように、A太はそっと溜息をつく。
「きっと父親に似たんだろうねぇ。
どんな父親かは知らないけどさ。
……ねえねぇ、どんななんだい?
イケメンかい?」
「多分、ジョニーデッブとアーノルドシュワルツァネガーとマイクジャクソンを足して三で割らない感じの人です」
「…そこまでコテコテだと、逆に不細工になってそうだね」




