感動しました。
「どうしたんだい? 瑛太君。
そんなにぼーっとして。
ま、まさか何処か具合でも悪いのかい!?」
バースに自分の顔を覗き込まれていたことに、A太は暫くの間気がつかなかった。
「ああ、いや、何でも無いです」
「そうかい?」
顎に手を当てて、何かが分かったかのようにハハーンと声を上げるバース。
「まあ、ウチは美人揃いだからなぁ!
見惚れるのも無理は無いさ!
ガッハッハッハッハッ!!」
その様子を見て、芽衣は態とらしく肩をすくめる。
取り敢えずA太は笑う事にした。
「ほら、あんたら、クッキー焼いたからコッチ来な。
お嬢様方も」
「「「「「「はーい!」」」」」」
テーブルには、もう既に三人の子供が着いていた。
「あ! 生首お手玉妖怪だ!!」
「………いいえ、英雄です」
「本人の前でそういう話をするなよ。ほら、困ってるだろ」
A太はひらひらと手を振る。
「妖怪だなんて、失礼極まり無いです!
この方は身を呈してこの孤児院と麗華お姉様を守って下さったのですよ!
謝りなさい、木葉!」
「うえ!? だって妖怪そのものだったじゃんアレ!
少なくともあんなの人間には無理でしょ。
ってか紗季の言い方だとまるで妖怪が悪口みたいに聞こえるよぅ。
ほら、全国の良い妖怪さん達に謝って」
「ぐ、ぐぬぬ」
木葉についてのデータを、A太が脳内メモリに書き込む傍、荘司郎が「ま、普通は悪口で使う物なのだが」と、余計な一言を呟く。
「うっせぇよお前ら。
黙ってクッキー食え。
美味いぞ」
バースとA太以外で、唯一男性らしい格好をしている短髪の少年だった。
彼の言葉に従って、全員が黙ってクッキーを貪りだす。
A太はその様子を見て、彼が子供達の取りまとめ役であることを推察した。
A太も恐る恐るクッキーの端を齧った。
「……うまい」
それはA太にとって食文化の革命と言える一口だった。
さっくり、しかしてしっとり。
カリッ、コリッ、サリッ。
ふんわりと後から香るバニラ。
甘過ぎるわけでも、味気ないわけでもない絶妙な味加減。
それらの全てが、A太にとっては未知の体験だった。
「うまい!」
説明しよう!
与那城瑞希は料理が下手くそである!
でも料理をするのは大好きである!
以上、説明終わり!!
A太は涙を流しながらクッキーを貪った。
「ああ、クッキーって本当はこんな味だったのか…」
「今迄どんな食生活を送って来たんだお前は」
荘司郎の冷静なツッコミに、麗華が対応する。
「………あの瑞希姉さんの子供だから、今まで相当凄まじい生活をして来てると思う」
その発言に、子供達が驚きの声を上げる。
「えっ!? あの与那城の?」
「ああ、えっと、成る程なあ。
うん、悪いけど納得したわ」
「そ、そんな、瑛太様が、あんな女の、こ、子供だなんて…!」
「てか、結婚できたん? あの人」
ところ変わって、ここはとある国際空港。
「ふ、ふえ」
与那城瑞希は苦悶していた。
「ふえ、えええっ」
クシャミが出るかどうかの瀬戸際。
粘膜内で巻き起こる、埃と鼻毛のせめぎ合い。
「ふえええええっ………」
衆人環視の中、与那城瑞希は…
「…ぃく、しょ、ん、でっ、何か面白い本売ってない?」
「お客様、当店は餃子の専門店ですので…」
「あっそ」
見事クシャミを寸前で堰き止めたのであった!
さて、ところ戻ってアレクサンドロス孤児院。
その巨大な裏庭で、麗華、躯呑、木葉の三人が、一匹の生き物を囲っていた。
「なにこれ? 新種!?」
「さあ?
でも、少なくともあたしは知らないねぇ」
「………」
犬と人と猫を足して三で割ったような顔。
鳥の羽のついた鼠のような身体。
この世の何とも形容し難い形状の三本足。
何もかもが謎の生物であった。
「んで、どうすんのさ、これ?」
「うーん…………煮る!」
「食うのかよ!
毒とかあったらどうすんだよ?
ってか、本当にこれ、何なんだよ?」
「………」
麗華は無言で手を伸ばすと、謎の生物の首と思われる部位を軽く撫でた。
「………可愛い」
「いや、麗華姉、そりゃねぇわ」
「麗華お姉ちゃんって、時々変なものを好きになるよね」
「………」
「で、どうすんだよ、これ…」




