崇拝されました。
バースがメイド服の少女の腕を軽く引っ張る。
少女達の中でも一回り小柄な少女だ。
「ほれ、ご挨拶だ。
教えた通りにやってみな」
「むー…」
少女がバースの後ろに隠れてしまう。
「ははっ、済まんな瑛太君。
この恥ずかしがりやさんは、鈴音ちゃんだ。
宜しく頼むぜ」
無駄に高度な回り込み技術で、瑛太が鈴音の背後に立つ。
戦場仕込みである!
「可愛い名前だね。
僕は瑛太。
よろしくね」
本人なりの精一杯の笑顔を浮かべ、A太は握手を求めて手を差し出す。
デュふふだとか、キシシだとかいう複雑な異音を漏らしながら。
「むー…」
顔を顰めて唸り返す鈴音。
嫌われてしまったかと、A太が手を引っ込めるその寸前。
「むーたいりく、ばんじゃいっ!!」
突然鈴音はバンザイをした。
頭を掻くバース。
「あー、流行ってるみたいなんだ。
彼女の中では」
「…そうですか」
何と返せば良いのか、A太が悩みに悩んでいるところに、また別の少女が割って入る。
「なんだいなんだい、あたしは除け者かい?
って、そのおにーさん誰ん?」
「こら、いきなり誰は失礼だろう?
今日からここに住むことになった…」
「与那城瑛太です」
「そう、瑛太君だ」
「へぇ。
与那城……ってなんか聞き覚えあるな。
あたしはクノってんだ」
「くの?」
「そう、からだって書いてク、あと酒呑みの呑。
そんで躯呑。
変な名前だろ?」
差し出される右手。
「だから、よく覚えて貰える。
結構気に入ってんだ」
へへっ、と、まるで少年のように左手の人差し指で鼻をこする躯呑。
ふむ、これはこれでフェティッシュだなと、わけのわからない事を考えながら手を延ばすA太。
しかし、その手は躯呑の手に触れる前に、別の誰かにがっしりと掴まれてしまう。
「はうあっ!」
「あっ、てめぇ!
横取りしやがった!」
それはそれは、クリッとした瞳の大きな可愛らしい少女だった。
A太のストライクゾーンに剛速球がぶち込まれる!
「と、とと、突然ですが貴方の事をお慕いしています、私、紗季と言います!」
「お、お慕いって言われても、まだ僕達初対面ですよね?」
「は、はい!
でも、バースさんに話を聞きました!」
そういえば、バースが子供達に、有ること無いことを吹き込んでいたなと思い出す。
「与那城、えっと、瑛太様、でしたよね!」
「様?
はい、そうですけど」
両手でがっしりと掴まれたA太の右腕が、ブンブンと上下に激しく振られる。
「ああ、瑛太様!
素敵なお名前です…。
先生のお話しを聞いて、私はとてもとてもとっても感動しました!」
ブンブンブン。
「特に麗華お姉様を、身を呈してお守りなされようとするそのお心の清らかさにはいたく感動いたしましたですます!」
ブンブンブンブン!
「あ、でもその前に、この孤児院を救って、私達を救ってくださってありがとうございます!」
ブ!ブ!ブ!ブ!ブ!ブン!
「ありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうござっ!?」
パシっ!
超高速運動を繰り返す紗季とA太の手を、比較的この中では大柄な少女が止める。
「長い。
あと、宗教じみてて気持ち悪い」
スレンダーな体つきにオーバーニーソックスが映えるその少女の正体は、
「兄貴!
ナイスツッコミ!
いつもながら容赦ねぇぜ!」
躯呑の兄、荘司郎である!
……ん?
兄?
少女?
少女のお兄さん?
何かがとち狂っている!
「何も狂っていない。
私は少女の男で、躯呑の兄だ」
「兄貴、誰に向かって喋ってんの?」
突如キシャーッと荘司郎を威嚇しだす紗季。
それに対して、カバディカバディと威圧を高める荘司郎。
「おいおい、喧嘩は程々にしてくれよ?」
慌てて止めに入るバースを見て、A太は奇妙な疎外感を覚える。
「そういや初めてかなぁ、同じくらいの歳の子に会うの」




