捨てられました。
「……と、いうわけで、お前は今日から一人で生きろ」
説明しよう!
今、首根っこを掴まれて窓から捨てられそうになっている彼がこの物語の主人公。
その名もA太だ。
ちなみに本名は与那城瑛太だ。
彼はここ、与那城細胞研究所から産み出された人工生命体である。
なんやかんやをどうにかこうにかして作り出された彼は、産まれながらにして死んでも死んでも生き返る不死身の肉体を手に入れた。
要するに凄いのである!
不死身の肉体を持つ彼は、生物兵器や実験体等に利用出来ないかと長らく模索されて来たが、
本人がさっぱり戦いたがらなかったり、体の仕組みが人間とはまるで違うために実験の結果が信用出来なかったり、
そんな具合にさっぱり役に立たない事が判明してしまった!
施設側からしてみれば、維持費の掛かる生ゴミを冷蔵庫に保管しているようなこの状況。
日々ろくでもない研究に明け暮れるこの施設にそんな余裕があるはずもなく、結果A太は廃棄処分されることになった。
現実は非情である!
「勘弁してよ!
産まれてこの方施設の外になんて、一歩も出たことがないんだよ!?
そんな引きこもりニートが一人でなんて生きていけるわけ無いじゃないか!」
「いけるだろ?
死なないんだから」
「あ、いや、ほら、今のは言葉の綾というか何と言うか…」
更に説明しよう!
今A太君の首根っこを捕まえている彼女は、与那城瑞希研究室長。
A太の産みの親である。
現在32歳独身、最近の悩みは近所の激安スーパーマーケットが潰れてしまったことだ。
やはり現実は非情である!
「せ、せめて、FF1○をクリアさせてよ!
今ザァナルカンドに入ったばっかりなんだよぅ!」
「お前のゲームでどんだけ電気代喰ってるか、わかって言ってるのか?」
「じゃ、じゃあせめてもうちょっと下の方で捨ててくれない?」
「ヤダ、めんどくさい」
ポイッ。
窓からA太君が放り投げられる。
「こんの行き遅れゴリラババアがあぁぁあっ!!」
因みにA太が捨てられたのはビルの7階の窓から。
つまり即死である!
さて、折角の機会なので、A太の不思議な生態についてじっくりと観察してみよう。
民間人への影響を考慮して、誰もいない河川敷に投棄されたA太君は、美しい放物線を描いて下へと落下していく。
落下するA太の瞳孔を良く見てみよう。
実はもうこの時点でショック死を起こしていることが良くわかる。
A太は人型をしているので頭が重い。
なので、自然と頭の方を下にして落下していく。
今度はスローモーションで良く見てみよう。
入水する直前に目に光が戻っているのが良くわかる。
A太は驚くべき速さで死と生を行き来しているのだ。
折角生き返ったのだが、現実はクソゲーである。
無敵時間なんてものは存在しない。
生き返った直後にA太の頭部は川底へと衝突し……おっと、これ以上は見せられない。
十八禁になってしまうからである!
「ふう、死ぬかと思った。
いや、死なないけどさ」
見事生き返りを果たし頭を振って水気を飛ばすA太。
「いてっ」
A太の頭部に雑な折り目の紙飛行機が突き刺さった。
「なになに?」
ずぶしゃっ!と頭部から紙飛行機を引き抜きそれを広げるA太。
「えっと、
『交番に行ってこれを見せろ。
川峰県 素穂市 舟四里 3-22』
……なにこれ、なんかの暗号?」
実はちゃっかりと住居を用意していた研究室長。
溢れ出んばかりの親心である!
が、しかし…
「そもそも交番って何だろ?」
残念ながらその厚意は届きそうも無いのであった!
不死身の世間知らずA太の、壮大なる旅が今幕を開ける!!