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第4話 家に帰ろう

 結局悠斗が帰りにアイスを奢ってくれると言うので今日の事は許すことにした。アイスでボクの心の傷がチャラになるから安いもんだよね。 異世界は甘味が少なかったから甘党のボクにとって久々のスイーツは楽しみだ。そう思うと今朝感じた恥ずかしさや怒りも簡単に収まっていく。



 ちなみに悠斗が遅れた理由はやっぱりネトゲだった。猫耳ボクっ娘のヒーラーとPTを組んで狩りに行って、解散した後にアニメや漫画の話で盛り上がったらしい。


 その猫耳ヒーラーさんは、現役女子大生のピチピチのお姉さんらしくて、もう少しでメルアド教えてもらえそうだったのにと悠斗は悔しがってた。


 悠斗…………それ、中身いい年したおっさんだよ……。


 それからは大した波乱も無くあっという間に授業が終わり、放課後になった。帰り支度をしていると、気まずそうな顔で悠斗が近づいてくる。


 「アイス奢るって言ったけど、今日部活のミーティングだったわ。2時間ぐらいかかるから、……明日でもいいか?」


 悠斗は野球部所属だ。子供の頃からリトルリーグに所属していて、2年にして既にエースナンバーを任さている。 昔から運動神経が良くて、アホだけど明るい性格なので野球部でも上手くやってるんだろう。


 「うん、大丈夫! また暇な時にでも奢ってくれれば。練習頑張ってねっ! 」


 適当な奴なのに約束などは変に律儀に守ろうとするので、変に気を使わせては悪いと思ってそう答えておく。


 「わりーな。 じゃあまた明日!」


 そう言って急ぎ足で教室を出て行く悠斗。今日は終礼で配布物があって時間がかかったので、部活の時間に遅れそうなんだろうね。


 さて、ボクも夕飯の材料を買いに業務用スーパー寄って早く家に帰ろう。今日は授業が7限まであったので、もう5時を回っている。暗くなるまで帰らないと悟兄がうるさいからね。



 学校を出て気持ち早めに歩きながら近くの業務用スーパーに向かうボク。業務用スーパーは学校の近くにあるのだけど、家とは反対の方向にある。学校の裏門から出てちょっと歩いた所に大きな公園があって、そこを通り抜けて、少しいった所にあるのだ。


 「お兄ちゃん、もっとゆるくけってよぉ~。」

件の公園を通りかかると2人の小学生ぐらいの子供がサッカーボールで遊んでいる。可愛いなあ。兄妹かな? 少女の方が少年に向かって口を尖らせて叫んでいる。


 少し歩く速度を緩めて2人の様子を眺めていると、少年が明後日の方向にボールを蹴ってしまった。少女が急いでとりにいく。勢いよく飛び出したボールを追って公園に隣接した車道に飛び出して…………。


 「危ないッッ!!」


 車道には大型トラックが走行している。今すぐ気づいてブレーキを踏まないと間に合わない!! 少女はトラックに気づいたが、恐怖からか固まってしまって動けないでいる!!

 


 「其は純白の光 願いを糧に――顕現せよ 魔力解放」


 走りながら早口で魔力解放の詠唱を唱える。魔力解放により、眼鏡を含む衣類が消え、ドレスとケープが強制換装されるが気にしている場合ではない。お願い!間に合ってっ!!

 

 「守れッ! プロテクション!!」

 「天翔ける翼を――ウインドブーツ!!」


 少女に物理障壁を貼りつつ、自身の敏捷性を上げる魔法を掛ける。詠唱をほとんど省いたので、物理障壁はそう長く持たないだろう。大型トラックの運動エネルギーには恐らく耐えられない。障壁が突破される前に少女を助けるッ!!


 「ガガガガッ――」


 障壁とトラックの先端が衝突する音が辺りに鳴り響く。物理障壁はトラックの運動エネルギーを吸収しているが、障壁の減衰速度が速すぎるッ! ブレーキを踏んでない? 運転手は何してるの……!?


 「ウインドブーツ!! |限界突破ッ!! 」


 強化された敏捷性で更に無理をして翔ぶように距離を詰めるボク。ケープが風に煽られ舞い上がる。


 衝撃に恐怖する少女を両手で抱えると同時に、パリンッと物理衝撃が割れる音がする。そのまま横っ飛びにその場から離脱。


 


 なんとか、間に合った――。

 

 そのまま何事も無かったように通り過ぎていくトラック――は突き当たりの道を左に曲って姿を消した。


 おかしい――トラックの運転手が不可解すぎる。ボクの物理障壁は衝突時、相手に物理的ダメージは与えられないが、かなりの不快感があるはずだ。


 仮に居眠り運転をしていたとしても、その衝撃と違和感で起きるはず……。 それでも何のリアクションも無く、アクセルを踏み続けるなんて……。


 「うぅっ……。 ひっぐっ……ぐすっ……。」


 いや、今はそれどころじゃない……!


 ほっとしたのか、どこか怪我をしたのか、腕の中で少女が泣き出しそうだ。ボクは出来る限り優しく少女の頭を撫でつけながら、声を掛ける。

 「怖かったね。 もう大丈夫だからね。 どこか痛い所ない?」


 自分の何倍もの大きさのトラックに轢かれそうになる。想像を絶する怖さだろう。少女は目に涙を溜めながら、ロングスカートを捲くり膝小僧を露出させる。擦りむいて血が出てる。大した傷じゃないけど、結構痛そうだ。


 「治してあげるね? 痛いの痛いのとんでいけ~!」

 (白き百合の花よ――傷つきし者に癒しを。 ヒール!!)


 言霊を使わずに頭の中で治癒魔法をイメージする。治癒効果は落ちるが、擦り傷には十分すぎる効果があるはずだ。その後状態を確認する魔法で、少女に目に見えない異常が無いかの確認もする。


 「うぇっ……? あ、あれっいたくない……? おねえちゃんが……なおしてくれたのっ?もしかしてまほーしょーじょなの!?」



 お、おねえちゃんって……。さっきまで泣きそうな顔をしていたのに、痛みが消えたせいか、キラキラした目でこっちを見てくる少女。


 こんな女の子に嘘をついてまで魔法の存在を否定出来るだろうか……。 う、ううっ……ボクには無理だ……。


 「そ、そうだよっ。お姉さんはま、まほう使いなんだ。」

 「すごぉーいっ! まほーしょーじょ!!どらみちゃんみたい!」


  

 どらみちゃん……。日曜の朝にやってるような、子供向けの魔女っ子アニメだ。昔、ネトゲ廃人兼、重度のアニヲタの悠斗の家で観た事がある。


 「ありがとう。でも車道に急に飛び出しちゃいけないよ? 危ないからね?」


 女の子の手放しの賞賛にお礼を言いつつも、さっきの行動を諭しておく。交通マナーは大事だよっ。お母さんにもらった大事な命、大切にしなくちゃ……!


 「ううっ……。 ごめんなさい。」


 本当に反省しているようで、少し震えながら頭を下げている。怖かったってのもあるだろうけど、素直な子だなあ。 


   

 「分かったならよしっ。 じゃあボクは行くね。」

 「えっ……おねーちゃん……行っちゃうの……?」


名残惜しそうにボクを見つめる少女の頭をぽんぽんっと撫でるとボクは足早にその場を離れようとする。


 少女の顔に後ろ髪を引かれるような気持ちになるけど、あまり長い間この姿でいたくない。大分落ち着いた色合いになったけど、明らかに女の子の服装なのは間違いないんだからっ。


 その時、少女と一緒に遊んでいた兄らしき人物が息を切らして、こちらに駆け寄ってくる。

 

 「茉莉花っ! だいじょーぶか!」

 「お、おにーちゃん!! 怖かったよぉぉ!!」

 「茉莉花っ! 良かったっ無事で……!!」

 「おにーちゃん、おにちゃああん!! うわああぁぁぁんん……!!」


 ボクの前では泣かなかったけど、兄に飛びついて大声で泣きじゃくる茉莉花ちゃん。やっぱ兄ってのはすごいよね。ボクも帰ってきて女の子になっちゃって、訳分からなくなった時に入ってきた悟兄に飛びついて散々泣いたし。


 妹をしっかり守らなくちゃだめだとか、色々言いたい事もあったけど、兄妹の抱擁に水を差すのも気が引ける。これ以上人目に付きたくもないし、ボクは残った敏捷強化の力で素早く路地裏に離脱した。


 「あたたたっ ちょっと無理したせいで全身筋肉痛だよ……。」


 今魔力を封印すると、全身筋肉痛で動けないだろうね。そのまま路地裏で魔力を循環させて痛みを回復させる。筋肉痛も治癒魔法の応用で治せるんだけど、1時間以上かかりそうだ。



 この格好で買い物するわけにもいかないし、一応人目に付かないように守護結界を張りながら、その場に座り込む。


 「動けるようになってから買い物して帰ったら、8時前かな……。はぁ……。」


 残業が無かったら悟兄が帰ってる時間だ。きっと怒られる……。


 無事治療が完了し、魔力を封印して買い物を済ませた頃には7時を20分程回っていた。お、重い……。業務用スーパーで買いすぎたせいか、家まで30分ぐらいかかりそうだ。


 


 両手に詰まったレジ袋大を引っさげて帰路を急ぐ。家の近くまで帰ってきて近所のコンビニを通りすぎようという時、ボクを呼び止める声があった。


 「おーっ! 優希! えらい遅いな?」

 「あれ? 悠斗?」


 ビニール袋を引っさげて、コンビニから出てくる悠斗。


 「ミーティング終わって、帰りにコンビニで漫画立ち読みしてた。 んでアイスの件思い出して、買ってお前の家行こうと思ってさ。 丁度良かったわ。 優希ここのアイス好きだろ?」


 そう言いながらドイツ後っぽい名前の高級感溢れるアイスを取り出す悠斗。


 「えっ! これ1個300円ぐらいする奴じゃん! いいの?」

 「いいよ。俺と悟さんの分も買ったからお前ん家で一緒に食おうぜ。 」

 「悟兄の分まで!?ここのアイスすごい好きだから嬉しいっ! ありがとう悠斗!」


 ほんとここのアイスを美味しいんだよね。突然湧いてでたデザートにウキウキしながら悠斗と帰路に着く。


 悠斗がいつの間にかさり気なく荷物を持ってくれていて、足取りも軽い。この甲斐性があって何故未だにこいつに彼女が出来ないのか疑問だよ。


 

 8時前。ようやく家に着く。そういえばアイスの嬉しさで忘れてたけど、悟兄に怒られる恐怖があったんだ……。


 「ねぇ悠斗。 悟兄帰ってたら、今まで悠斗の家で遊んでた事にしてくれない……?」

 「ん? いいぜ?」


 あれ?簡単に了承してくれた。今日は妙に優しいな。どうしたんだろ悠斗。まぁ悠斗という味方も得て、扉を開けるボク。


 そこには鬼がいた――――。




 「優希……?」

 「ひぃっ!?」


 玄関で仁王立ちをしている悟兄。口元は笑ってるけど、目が全然笑ってない。


 「えらく遅いじゃないか……。 7時頃からメールと電話をしたが返事がないし……。」

 「あ、あのね……。 ゆ、悠斗の家で遊んでたら時間忘れちゃって……。」

 「本当か? 悠斗?」


 

 首をスライドさせて悠斗を見る悟兄。眼光がやばい。ボクも冷や汗が止まらないよっ。


 


 「いや、普通に今そこで偶然会いましたよ。」

 「ちょ、ちょっと悠斗! 話がちがっ……!!」


 いきなり裏切る悠斗。顔には面白い事を見つけたような悪ガキの笑みが張り付いてる。まさか!最初っから裏切るつもりでッ!! 妙に優しいと思ったんだよっ!!

 

 

 「ほう?兄ちゃんに嘘つくなんていい度胸だ……!」

 「い、いやっ! そ、そのっ! そ、そんなつもりはなくてっ!」


 悟兄が怖い、怖すぎるっ!助けてもらおうと悠斗の方を見ると、ボクの怯える姿を目を細めて眺めている。あ、あいつ~!!


 「優希は夕飯の支度をほったらかして外で遊ぶような子じゃない。悠斗に頼んでまで何を隠してる? 言わないと久しぶりにお仕置きするぞ?」


 「ひ、ひぃっ!!」


 怖いけど、悟兄が真剣にボクの心配をしてくれている事が伝わってくる。うん。やっぱ下手に隠そうとせずちゃんと話そう。悠斗の前だから魔法の事は言えないけど。


 

 「…………トラックに轢かれそうになっている女の子を助けてたので遅れましたっ。」

 



一瞬の沈黙――



 「「んなわけねーだろっ」」

 「にゃ、にゃんで!? 本当のことだよーーっ!!」

 「嘘つくならもう少しマシな嘘つけよ……。俺が朝使った妊婦の言い訳より酷い出来だな……。」

 「まぁとりあえず今夜お仕置きだな。」


 正直に話したのに!!だ、誰か助けてぇぇえええ!!!


   


  「ふぇぇっ……。 悟兄ぃ。 もう許してぇっ……怖いよぉ!!」

  「しっかり反省するまで許さん。」

  「も、もう十分反省したよぉ! や、やだやだっ! そ、そこらめぇっ! 」


  夕食とアイスを食べて悠斗が帰った後、ボクは夜更け過ぎに暗闇の中、兄の膝の上で……







 無理矢理ホラー映画を観させられていた――


 ボクは怖いものが本当にダメなのだ。異世界でグロいものとかには結構耐性ついたけど。お化けとか実体が無くて夢に出てきそうなものは、本当にダメ。


 それを知っている悟兄は、ボクが悪さをするとお仕置きと称して、ホラー映画鑑賞会を行う。体は兄の膝の上で固定されて、目を閉じたり、首を背けたりすると、視聴時間が伸びる。


 「ひぃぃ!! そこ開いちゃだめぇっ!! いっちゃう、逝っちゃうよぉぉっ……!!」


 戸棚に隠れていた幽霊が、中年男性を食い破る。も、もう許して……。



 夜中の1時頃。ホラー映画が終わって、グロッキーなボクに兄が話しかける。


 「女の子を助けたって、魔法を使ったのか?」

 「えっ? 信じてなかったんじゃ……?」

 「俺誰だと思ってる。お前が嘘ついてるかどうかなんて簡単に見分けられる。」


 なんかすごい格好良い事言ってるけど、それじゃあお仕置きいらなかったじゃん。ひどいよ悟兄ぃ……ボクの安息を返してよ……。

 

 そんなボクの心中を察したのか悟兄が口を開く。


 「お仕置きは悠斗と口裏合わせて嘘つこうとした事に対してだ。 俺に嘘つくのは許さん。」

  


 …………余計な事するんじゃなかった。


 「お前の能力や魔法っていうのはこの世界では特殊だ。 あまり使わないほうがいい。」

 

 悟兄はいつもボクの事を第1に考えてくれている。ボクの力が露見する事。トラブルに巻き込まれる事。そういうのを心配してくれているのだろう。でもね、悟兄。


 「それは分かってるつもり。ボクも力があるからって全ての人を救えるとは思ってない。それは異世界の旅で散々思い知らされた。 でも、自分の見てる範囲、手の届く場所にいる人は守りたい。 今日の女の子、兄妹で公園に来てたんだ。」


 「っそうか――」

 

 「目の前で家族が死ぬのは辛いから……。」


 「ああ……。そうだな。」


 ぽんぽんとボクを撫でてくれる兄。ホラーを観た後で当分寝れないと思っていたのに、強い睡魔が襲ってくる。


 悟兄。今までずっと悟兄に守ってもらうばかりで弱っちいボクだった……。だけどボク、今は誰かを守れる力があるんだよ。守られてるだけじゃない。ボクだって悟兄や皆を――――


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