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第1話 異世界と変態とボク

 先程までの喧騒が嘘のように、不気味なほど静かな戦場。魔王の底冷えするような殺気と、それに対峙する彼等の燃え滾るような闘気だけが雄弁にモノを語る。


 永遠に続くと思われたそのにらみ合いだったが…………。



 「なるほど、ここが俺の墓場らしい――」

 魔王はその一言と共に全身から放たれる禍々しい殺気を霧散させ、地面に崩れ落ちた。


決まっていたのだ――


 パーティー1の防御力を誇る将軍騎士のダンカンが攻撃を引受ける。

 この世の全ての魔法を知ると言われた、大魔導士ローディが上級魔法を連発して魔王の注意を引く。

 そこに純白の乙女の支援魔法で、身体能力が2倍に強化されて聖属性のついた勇者ベルリオーズの、全闘気を込めた聖剣奥義が決まった。


 魔王を魔王たらしめる神の宝玉を勇者の聖剣が抉り抜いたのである。


「純白の、乙女の、加護か…………。 お、俺の…………暗黒障壁が、一撃、で…………。」


致命傷を受けて暗黒闘気によって維持されていた体がどんどん崩れていく魔王。しかしその顔には先程まで見てとれた冷たさ、殺気、人間への憎悪はまったく見受けられない。


 魔王のどこか安らかで、ほっとしたような顔に戸惑う勇者一向。彼はもう助からないだろう。神の宝玉をはめ込まれた時点で、その人の命は宝玉に同期する。宝玉を失った時点で、彼の命は尽きる運命にある。魔王であるから倒したが、彼も一人の人間であった。


皆がどうすればいいか分からず立ち尽くす中、純白の乙女は一人穏やかな笑みを浮かべて魔王に近づいた。


「誰が乙女だあぁぁぁ!! ボクは男だぁーーーっ!!」





 




 3年前――現役男子高校生であったボク、白峯優希は異世界イェーンザイツに召喚された。


 月曜日のいつもより長く感じる授業を終えて、週間少年誌を買い家に帰ったボク。部屋着に着替えてソファに寝そべって、アイスを食べながら買ってきた漫画を読もうとした時にそれは起きた。


 白い光につつまれたボクは気がついたら王様やら騎士やら中世テイストのコスプレ集団のど真ん中にいたのだ。


 現実が受け入れられずひとしきりパニくった後、髭がカールしているギャグ漫画寄りの王様からボクが召喚された経緯を聞かされた。


 曰く――悪の根源である魔王の出現により人類滅亡の危機である。

 曰く――魔王討伐には信託の勇者と純白の乙女の導きが必要である。

 曰く――魔王を倒すと、魔王の持つ宝玉の力が一人一つの願いを叶えてくれる。


 この時点でボクの胸は高鳴った。あれ?これボク勇者じゃない?異世界に召喚されてすごい力で無双して女の子にモテモテハーレムの異世界転移のテンプレじゃないの?願いって何?! 超絶イケメン高身長ゴリマッチョになれるのかな……。


 多分顔も若干にやけてた。男の子だったら誰しもヒーローとハーレムに憧れるものだよね?ボクも小さい頃はドラ○エごっこで兄と玩具の剣を振り回して勇者に憧れた立派な男の子だ。願いを叶えてくれるってのも大きい。夢が拡がるよ!!


――だが次の瞬間、王様の無慈悲な言葉がボクに突き刺さる。


 「よって異世界より其方、つまり純白の乙女を召喚し、勇者一行の魔王討伐の旅に同行してもらおうというわけじゃ。」


 「え…………!?」 


 ボクヒロイン枠で呼ばれたの!? ていうかボク男なんだけど!! まさかと思い股間に手を忍ばせると、長年連れ添った相棒が我が物顔でそこに存在した。


 うん、大丈夫だ。男だよね? 童顔とか女顔とか身長低いとか色々悲しみを背負ってるけど、生物学的にボクは男だ。


 「あの、ボク男なんですけど…………。」


 ある程度落ち着きを取り戻した後、ボクは王様にありのままの事実を報告した。


 「「「えっ………………?」」」


 王様含め王国の偉そうな重役達は、そろえてポカンと口を開け、間ぬけ面を晒した。次第に事の重要性?を理解したのか大臣の一人が声を荒げ始める。


 「どうなさるおつもりか王!? 勇者に魔王を倒せる加護を与える事が出来るのは、《純白の乙女》ですぞ!! 召喚術を間違えたのではないですか!!」


 「い、いや、間違いなく、かのじ…………彼から《純白の乙女》の力が感じられる。 伝承では乙女となっておったが、力があれば性別など関係なかろう。」


 「民は納得致しませんぞ!! 召喚に失敗したと思われ、国を見限る者や、謀反を起こすものが現れるやもしれませんぞ!!」


 「……………………い、いや此奴、その辺の貴族令嬢より可愛い顔してるし女みたいに小さいし、女物着させて着飾れば、バレなくね?純白の乙女の正装であるプリンセスケープも光のドレスも着こなせるであろうよ。」


 「「「……………………確かに。」」」



 勇者でなく乙女に間違えられたボクは未だに放心していた。中学の頃、学園祭の演劇でお姫様の役を無理矢理やらされた事を思い出すよ・・・・・・。


 当時好きだった子には「私より可愛い子となんて付き合えないっ!!」っていうわけの分からない理由でフラれたし。ボクに可愛いとか女っぽいとか乙女って言葉は禁句なんだ。軽いトラウマだよ!



 暫くブツブツと過去の思い出にふけっていると何やら周りが騒がしい。「おぉ………………。」とか「これはまた、なんとも…………。」とかよく分からん感嘆詞ばかり聞こえてくる。


 さっきからボクの回りでゴソゴソ布がスレる音してるけど人がトラウマに耽っている間に何してるのかな!?


 虚ろに天井を見つめていたボクは、我に帰って辺りの様子を伺おうとすると、王様が口を開いた。


 「ユウキと言ったな。其方には勇者ベルリオーズと共に魔王討伐の旅に出る事を命ずる。尚、旅先では今着ているプリンセスローブ、光のドレスもしくは女物の服以外の着用を禁じる。これは王命である!! 繰り返すこれは王命であるっ!!」


 



 …………は、はひっ…………? ろーぶ? どれす…………? 今着ている?? 


 ふと自分の胸元に目を落とすボク。薄桃色で絹のような手触りの膝丈上の清楚なカジュアルドレスに白を基調としたフード付きケープ。いつの間にか(魔法か何かで)伸ばされた黒髪。あは、あははははは・・・・・・。




 ボクの横で今まで静観を決め込んでいた勇者ベルリオーズがボクの気持ちを代弁するかの如く呟いた。


 「こりゃぁ、男の娘ですわ…………。」

  


 

 

 以来、国民を欺くためという名目で――半分は国王や仲間達の遊び半分で――男の娘の格好をしつつ、1年間ローディ師匠に魔法のイロハを習い、力を蓄えた。


 そして《純白の乙女》としての素養が十分に引き出された頃、ボクは勇者ベル、大魔導師ローディ先生、将軍騎士ダンカンと共に魔王討伐の旅に出た。


 魔王の刺客や卑劣な罠。数多くの試練を乗り越えるうちにボク達4人は強い絆で結ばれていった。最初はいきなり異世界に呼ばれて、しかも勇者じゃなくてお姫様みたいな格好を強要されて、この世界や住人達を恨んだりもした。


 でもお互いの背中を、命を預け合う。そんなかけがえのない仲間を手にしたら考えは変わった。おばかでどうしようもない奴等だけど、そんな皆のためにこの世界を救いたい。そう思えるようになったんだ。そして魔王城も目前という所まで迫ったある日――



 「俺もう男の娘でもいいわ。大事なのってココだよね」

 胸を叩きながら優しい目で呟くベル。


 「ックックック…………ユウキは儂が育てた。女性のマナーを教える時の、イヤイヤ言いながら恥ずかしがるユウキでご飯3杯いけるわい。」

 いやらしい顔つきでしゃべるローディ師匠。


  「ガッハッハッ!! ユーキっていい匂いするよな。模擬戦の時触ってみるとなんか肌も柔らかくて気持ちいいし!!」

 笑いながら大きな声でセクハラ発言をするダンカン。


 やたらあちこち体触られると思ったらあれセクハラだったんだ…………。

 


うん、絆とか、かけがえのない仲間とか色々恥ずかしい事言ったけど全部気のせいだったよ! こいつら変態だった!  どうしようもない変態だったよ!!


 




――それ以降、数多くのフラグを全力でへし折り貞操の危機を回避しながらセクハラに耐え、今に至るというわけだ。




 色んな願いはあるけど、このまま国に凱旋したら本気で掘られかねない。魔王を倒した今この瞬間、宝玉の力で現実に帰る。この方法以外でボクが綺麗な体でいられる事はないだろう。



 そうこう考えているうちに魔王が消滅し、宝玉だけが浮遊する。



――勇者達よ。我に届きしもの達よ。然らば、願うがいい。其方達の強き願いは私が叶えよう。


 神らしき人物の声が聞こえる。ついに、ついにこの時が来た。さらば変態ども!! い、いや、焦るんじゃない落ち着くんだボク。まだだ、まだ笑うな…………。


 転移は対象者とそれに触れているものを対象に行われる。それは恐らく神の願いによる転移でも同様だろう。ボクは現実世界――地球に帰るつもりだが、それに皆がついて来たら元も子もない。


 つまり転移が完了するまでに変態共に触れられてはいけないんだ。幸い、奴等は自分の願いに夢中でボクの事を気にかけていない。少しずつ変態共と距離を拡げる。今だ!!


 (ボクを地球に…………日本に帰してください…………!!)


 淡い転移特有の光がボクを包み込む。



 その時点で異変に気づいた3人がしまったという顔をする。今更気づいても遅いよっ!!この距離ならボクに触れようとしても間に合わない!慌てて追いすがる3人。笑顔でその様子を見守るボク。



転移が完了する寸前、積年の恨みを皮肉に乗せてボクは最期のお別れを口にした。


「じゃあ皆! またねっ!」


 もうこの変態達に会うこともないだろう。貞操は守られた。満面の笑顔と成し遂げた幸福感と共にボクの体は光に包まれて消え去った――










 「くそっユウキどうして!? 」

 「っち! 儂とした事が!! ぬかったわ!」

 「ガハハハッ ユーキは先に城にでも帰ったのかぁ?」


 三者三様、優希の消失にバラバラの疑問、感情を持つ彼等だったが、そのひと時前に夢想していた事は概ね同じ内容であった。

 

 (ユウキが女の子だったらな…………)

 (ユウキが娘であったら、もっと苛めがいがありそうじゃなぁ…………)

 (ユーキが女だったら、もっと柔らかくていい匂いすんのかなぁ…………)


布擦れ音は、優希が放心している間に従者達が《純白の乙女》の正装に着替えさせる時に起こったものです。 ハイレベルな解釈をする紳士がいるかもしれないので一応の補足。

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