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第12話 作戦会議

 

 「ほんっとすいませんでしたっ!!」

 「もういいよ……。」



 ちょっと疲れ気味に返事をするボク。蒸し返されると余計恥ずかしくなる。悠斗に胸を触られるのはこれで2回目か……。


 

 一回目はさらしの上からだったけど、ほんとラッキースケベというかなんというか。ボクの精神値がガリガリ削られていくよ……。



 そんな事を考えていると悠斗が感心したような声を上げる。


 

 「いやぁ、でもさっきの凄かったなぁ……。 俺は見抜いたぜ。あんたの正体をっ!」

 「……!?へっ!? ぼ……わ、わわわ私はふ、普通の一般女子高生よっ!?」

 「隠すな、隠すな。 いつも通りボクでいいよ!」

 「ふぇ……!?」



 何?!見抜いた? いつも通りボクでいい? バレたの!? アホ悠斗のくせにボクの正体バレちゃったの? 



 そう考えるとボクの顔は真っ赤になる。悠斗の前で女の子の姿で女の子口調でしゃべって……あぁ、もうだめだ死のう。


 「顔真っ赤しちゃって可愛いなあ、ボクっ娘魔法少女ちゃん……!!」

 「…………っへ?」

 「いやさ、素だとボク口調で喋って、変身してさ!! 魔法使って戦うとかまじで分かってるなぁ!! 現実でボクっ娘魔法少女に会えるとか、夢みたいだわ!! 」

 


 興奮しながら捲し立てるように喋る悠斗。あぁ、だめだこいつ。アホだとは思ってたけど筋金入りのおバカさんだった。



 ……バレてないのは嬉しいんだけど、なんかもう悠斗のこと心配になって来ちゃったよ。こんな調子でこの先の人生大丈夫なのかな…………。


 


 

 「いや、でも待てよ……?なんで俺の名前知ってたの? さっき言ってたよな? 『悠斗はボクが守る』って…………。」

 「っへ!?…………そ、それは!?」


 

 あの時はデモンを前に必死だったから、そんな事言ったかも知れない。ボクのばかぁ…………。



 「あっ、俺電車の中で自己紹介してたっけな? あははっ!!」

 「……………………。」




 もう何なんだろうなぁ……。


 とりあえず一通りの悶着が終わり、悠斗と今後の事を話す。先程の魔物、デモンの生態と、悠斗自身が一般人より明らかに多くの魔力を有していて、狙われやすい事。それらを順序立てて説明していく。


 

 「というわけで、君の魔力を封印しようと思うの。」

 「封印?」

 「そう、さっき説明した通り、デモンは魔力を多く持つ人間に吸い寄せられる。そして君は魔力を持っている人間で、更に魔力保有量が明らかに人より多い。 でも魔力回路を閉じてしまえば、体から魔力が流れないのでデモンに探知される事はない。 さっきデモンが急に私を狙ってきたのは、私が魔力解放した事によってデモンがより美味しい獲物を認識したからなの。」

 

 「……もうボク口調でしゃべってくれないの?」

 「……真面目な話してるんだから……怒るよ…………?」


 悠斗の前でこれ以上ボロというか、目の前にいる少女と白峯優希を関連付ける動作をするのは良くない。だから女口調を徹底する。……アホ鈍感だから多分バレないと思うけど…………。


 


 「なぁ、魔力を封印すると魔法は使えなくなるのか…………?」

 「元々使えなかったんだから、問題ないでしょ? 体に悪影響は全く無いから安心してっ?」

 

 


 魔法とかファンタジーに憧れる気持ちは分かる。ボクもサブカルが好きなオタクの端くれだからね。


 でもファンタジーは幻想だからこそいいのだ。それが現実になってしまったら、見たくないものまで見なければならなくなる。


 そして現実のファンタジーは、楽しい事より、目を背けたくなる事のほうが圧倒的に多い。 デモンが存在すると分かった今、魔法という存在は危険だ。 悠斗にこちら側に足を踏み入れて欲しく無い。


 


 「君はどうするんだ……? 君は魔法が使えて、毎日一人で今みたいな化物と戦ってるんじゃないのか…………?」


 心配そうな、遠慮しながらも気遣うような目でこちらを見てくる悠斗。


 「ううん…………。違うよ。私はデモンと正面から戦う力も無ければ、戦う意思もない。 今日はたまたまデモンに遭遇しちゃったから戦っただけ。 進んであんなのと戦うつもりなんてないよ…………? 私は自分が無事ならいいのよ。」


 「でも、俺を助けてくれた。 今日会ったばかりの俺を。 君の説明を聞く限りだと、俺を放って逃げていたら狙われるのは俺だけだったんだろ? なのに君は、わざわざ自分が狙われるように魔力解放をした。違うか…………?」


 悠斗…………。何が言いたいの?


 「違う私は君を……」

 「悠斗」

 「えっ…………?」

 「風守悠斗――俺の名前だ。さっき呼んでくれただろ? 上でも下でもいいから名前で呼んでくれよ。」


 たしかにずっと君呼ばわりは失礼かもしれない。でもボクの名前は言えないよ…………?


 「分かったわ。風守くん……。でも、ごめんなさい…………。」

 「いいよ。 君の名前は聞かない。 人間に名前を言ったらカエルにされちゃうんだろ?」

 


 し、真剣な話してると思ったら……調子狂うなぁ。 


 「…………。と、とにかく話を戻すよ? 安全のために君の魔力は封印する。私は自分からデモンと戦う気は無いし、普段から魔力は封印してるから大丈夫。風守くんに心配してもらう必要はないの。 」

 


 「…………いやだ。」



 どうして、どうしてなんだ悠斗……。お願い。分かってくれよ。面白半分で首を突っ込んでいい事じゃないんだよ…………。


 


 「なぁ……俺に魔法を教えてくれないか?」

 「…………」

 「浮ついた気持ちで言ってるんじゃないんだ。君の話から察するに、今回は難を逃れて、俺も安全を保証されるんだろうけど、俺には家族、友達、一杯守りたい人がいるんだ。もしその人達が、化物に狙われたら? その時俺には何も出来ないだろう。」


 


 悠斗の言いたい事は痛い程分かる。大切な人を目の前で失う。自分の無力さがそうさせる。自分の不甲斐なさがそれを止められない…………。


 


 「多くは望まない。この手の届く範囲でいい。 ヒーローになりたいわけじゃない、俺は俺のそばいる大切な人達を守りたいだけなんだ…………頼むっ!!」



 

 座りながら頭を下げる悠斗。大きく頭を下げすぎて土下座みたいになっている。……本当は悠斗に魔法なんて覚えて欲しくない。




 でも、もし悠斗が魔法を使えなくて誰か大切な人を亡くしたら…………。その時は悠斗はどうするだろうか。



 絶望に打ちひしがれるだろうか?怒りで自暴自棄になるだろうか?魔法を教えてくれなかったボクを…………恨むだろうか?


 


 気がつくと悠斗は顔を上げて真剣な眼差しでボクを見つめていた。中学の時、ボクが苛められていた事を知った時、悠斗は怒らなかった。声を挙げる事も無かった。



 ただ今と同じ真剣な目でボクの事を見て、ボクを守ってくれた…………。



 一度決めた事はやり遂げる。そんな覚悟と決意が宿った目だ。デモンの存在を知った悠斗はボクが教えなくても独学で魔法を学ぼうとするだろう。


 そして誰かを守るために一人でもデモンと……。


 



 「…………わかったわ。でも、一つ条件がある。」


 「……何だ?」


 「絶対に魔法を自分の為だけに使って。 自分と自分の本当に大事な人のためだけに。」


 「…………」



 ヒーローになりたいんじゃない。悠斗はそう言った。でも悠斗はボクのヒーローだ。



 ……だから怖い。あの時、何も言わずにボクを助けてくれたように、困っている誰かのために力を使う事に躊躇が無いんじゃないかって……。



 これは都合の良い幻想(ファンタジー)じゃない。冷徹で残酷な現実(リアル)なんだ。



 取捨選択しないと、自分が死ぬ。誰も彼も守る事は出来ないんだよ。





 ボクが教えた魔法が、与えた力が、いつか悠斗を殺すんじゃないか。そう思ってしまう。



 でも教えなければ悠斗は一人で中途半端な魔法を覚えて、デモンに殺されてしまうかもしれない。



 彼はもう知ってしまった。だからボクは悠斗に枷をつける。言葉の枷を。



 顔を上げて辺りを見渡せば、いつの間にか随分と日が傾いていた。もうすぐ夜の(とばり)が落ちそうだ。その中で悠斗が真摯な眼差しで此方を見つめている。



 「さっき言った通りだ。 俺は自分と大切な人を守れればそれでいい。 君の約束を守ると誓う。 」




 そう言って小指を差し出してくる悠斗。 




 ……昔から大事な約束事をする時はそうだったね。   



 ――悠斗の小指に自分の小指を絡ませてぎゅっと握る。



 

 細くて長い、だけど野球部で鍛えられているせいか、豆だらけで皮の厚い指。今はこの指の誓いを、悠斗の真摯な目を……。




 「わかった……風守くんが一人前になるまで、私が魔法を教えるわ。」



 「……!! ありがとうっ!!」


 ……嬉しそうに笑う悠斗。その純粋な笑顔が逆にボクを不安にさせる。





 ねぇ悠斗。本当にこの約束守れる? 君に自分の命との損得勘定で目の前の誰かを見捨てる事が出来る?





 これで良かったのか、そんな事は今のボクには分からない。


 


 ――西の空に慌ただしげに夕日が沈む。迫り来る闇がそっとボク達の影を飲み込んだ。




 1章 3年ぶりの地球 完

 ここまで拙作にお付き合い頂き有難うございました。閑話挟んで2章へ続きます。


 今章の反省点や課題などは後々活動報告に挙げておこうかと思います。

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