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第11話 デモン襲来

 あの後悠斗はボクを抱えて走り続けた。そしていつの間にか入り組んだ街中の路地裏――暗くジメジメとした光の届かない場所に逃げ込んでいた。


 「はぁっ、はぁっ……っぜっ、ぜぇっ、ぜぇっ、げほっげほっ!! さ、さすがに巻いただろ……!?」

 「だ、大丈夫……?」


 20分程ボクを抱えて走っていた悠斗は今にも死にそうな息遣いだ。でも一体なんでこんな事を。ボクは悠斗の息が整うのを待つ。なんであんなに焦ってたのか事情を聞かないと。


 


 しばらく待っていると、次第に息の整ってきた悠斗が語り始める。


 「はぁっ、ふぅ……。 いきなりごめん。さっき君と別れた後さ、家に帰る途中にコンビニ寄ろうと思ったんだけど……。 コンビニの前に変なヤツがいたんだ。」



 ……変なヤツ……? そのまま目線で悠斗に話の続きを促す。



 「なんというか、目の焦点が合ってなくてさ。こっち見つめてたんだけど、俺を見てないっていうか。んでそいつの回りになんか黒いもやもやした霧みたいなのが漂っててさ。」

 


 「っ……続けてっ……!!」


 

 悠斗の証言は黒魔法による催眠もしくは、実体の無い魔物が人間に憑依した時の症状に似ている。トラックの事件から感じていた違和感――それが悠斗の話をしっかり聞いておけとボクに警鐘を鳴らしている。


 


 「あ、あぁっ……。 俺、気味悪くなってさ。コンビニに入らずに帰ろうと思ったんだよ。そ、そしたらその男が急にギロッてこっちに焦点合わせてさ……。急に追いかけて来たんだよっ!! 逃げてる内に男の体からどんどん黒い触手みたいなのが出てきてさっ……!! もう無我夢中でっ…… こんな事言っても信じられないだろうけど。」



 一気に捲し立てた後、少し肩を落とす悠斗。こんな話、確かに普通の人なら信じないだろう。だけど――

 




 「信じるよ。」


 ボク達が異世界で戦っていた魔物――通称デモンは3種類に別れる。実体を持たない憑依型、獣型、人型の3つだ。 



 ……今の悠斗の説明は憑依型デモンが人間に憑依した時の状況に酷似している。



 実体を持たないデモンは魔力を目に集中させた魔力視を使わないと視えない。何故悠斗に魔力視が使えたかは分からないが、悠斗は恐らく魔力を持っているのだろう。



 デモンは魔力を持つ人間に吸い寄せられる。此等から考えられる事は、憑依型デモンが魔力を持つ人間に憑依したが、より強い魔力を持つ人間である悠斗を認識した為に宿主を乗り換えようとしたって事だ。



 

 現実世界に魔力がある時点で魔力を持つ人間が存在する事は考えていた。



 ……魔法を使う条件は魔力を持ち、才能があり、知識がある者だ。



 魔力だけが存在して才能もしくは、知識が存在しないから、一般的に魔法が普及していないのだろう。 


 

 だが、デモンにとって魔力は餌だ。デモンは大気中のマナを吸収出来ないので、人や魔力を持った動物に寄生もしくは、それらを食す事で命を保っている。 



 現実世界の人達は自衛手段を持たず、ただデモンが好む餌だけを持っている。考えるだけで寒気のする話だ……。



 でも、こんな事が昔から起きているならもっと大事件になっているはずだ。どうして今まで何事もなく―― 


 「し、信じてくれるのかっ!?」

 

 

 思考に耽っていると悠斗の声が聞こえる。



 っ……!!そうだ。今は早く悠斗を安全圏に逃がさないと!!デモンは鼻が効く。ここまで逃げてきたけど、まだ安全とは言い切れないっ! 美味しそうな魔力を辿ってどこまでも追ってくるのが奴らだ。



 「うん。それよりも早く――」


 ザッ――


 「…………オマエ、ウマソウダ…………。」

 「ッ!! もう追って来やがったっ!!」


 

 触手が6本、男の回りに蠢いている。それらは一様に悠斗に向けられている。恐らく中級の憑依型デモンだ。生身じゃ逃げ切れない。



 …………躊躇っている暇はないっ!


 

 「其は純白の光 願いを糧に――顕現せよ 魔力解放」


 光が、純白の加護がボクを包みこむ。白地のドレスに群青色のケープが換装される。魔力が――溢れ出す。



 それと同時にデモンの憑依対象がボクへと切り替わるのを実感する。6本の触手、焦点の合わない男の顔が此方へ向けられる。


 隅々まで調べるように、ボクの体中を男の目線がギョロギョロと這い回る。異様な光景だ。


 

 でも、不思議と恐怖はない。不良達に囲まれた時にはあんなに怖かったのに。


 

 「大丈夫。悠斗はボクが守る――」


 


 惚けている悠斗に大丈夫だという意味を込めて微笑む。力が溢れてくる。やれる!!


 

 「…………ギギ、……オマエノ、ホウガ…………ウマソウダ!!」

 「悠斗は逃げてっ!!」


 男がボクに向かって迫ってくる。もう悠斗が狙われる心配は無いだろうが、戦闘の余波で悠斗を傷つけてしまうかもしれない。そう思ってボクは悠斗に逃げるよう言いつける。



 6本の触手がそれぞれボクに向かって伸びてくる。悠長に構えている時間はないっ!!


 「天翔ける翼を――ウインドブーツ!!」

 「水環の守護よ――サークリットシールド!!」



 敏捷性を上げつつ、対魔障壁を貼る。憑依型のデモンは、人間を通して通常攻撃を、触手を通して精神及び魔法攻撃を行う。



 そして一定以上の精神干渉を許すと、自我が奪われデモンの寄生を許す事となる。 



 倒すためには、宿主を無力化した上で解呪呪文を唱えるか、宿主を殺す。そうすると本体が出てくるので滅却呪文を唱える。



 もちろん殺す事は出来る限り避けたい。寄生されているのは一般市民なんだ。彼に罪はないだろう。



 一番厄介な宿主の無効化はいつもベル達がやってくれていた。でもここに皆はいない。宿主を無効化し、解呪、滅却まで全てボク一人でやる必要がある。



 ――考えろっ! 攻撃力がほぼ皆無のボクでどうすれば相手を無効化できるかをっ!!


 

 「……ギギッ!!」


 

 触手が迫ってくる。憑依型デモンの精神束縛マインドバインドだ。物理的攻撃力は無いが、あれに当たると身体能力が低下する。 



 喰らう毎に触手が避けにくくなり、最終的に触手によって拘束される。 そうなったら最後、そのまま精神を侵食され意識を乗っ取られる。――此方の負けだ。


 


 ただでさえ足りない敏捷値を、加護魔法で補っているボクだ。触手に当たる訳には行かないっ!



 

 迫り来る触手を強化した敏捷値に任せて回避する。でも――



 ……避けれるけど、攻撃手段が思いつかないっ……!



 断続的に繰り出される触手攻撃。



 

 何の策も無く、持久戦は無謀だ。体力が尽きて動きが鈍くなったら、ボクは……。



 ……逃げるか? でもボクを見失った後に、コイツがまた悠斗を見つけたら……。くそ、焦りばかりが募っていくっ……。


 

 








 ――……いいかユウキ。後ろに居るヤツ程冷静じゃなきゃいかん。戦況を良く見て、何が最善かを理解する。お前の判断がパーティを殺し、又生かすのじゃ――


 「……!?」



 頭に思い出される記憶……。支援魔法を習う前、後衛の心構えとして一番始めにローディ師匠が教えてくれた言葉だ。始めはその言葉の本質を理解していなかった。旅に出て戦闘を経験してもそうだった。



 デモンに怯え、役に立たないボク。そんなボクの支援が無くても、皆が全てやっつけてくれたからだ。


 でも、始めてベルが怪我をした時に気付いた。


 ――ずっとこの気持ちのまま旅を続けていたら、いつか誰かが死ぬ。


 

 それからボクの考えは変わった。誰も死なせない。ボクが考えて適切な支援をすれば、皆を守れる。それだけの能力がボクの支援魔法にはあった。



 ボクは守ってもらうだけじゃなくてボクなりのやり方で皆を守れる事に気付いたんだ。



 (……こんな基本的な事を忘れていたなんて。)



 戦闘中は常に冷静に。それがボクが人を守るための最低条件だ。



 今は一緒に戦う仲間は居ない。でもここでデモンから逃げたら、守りたい人達が傷つくかもしれない。




 冷静になれ――優希。守るために……!!




 

 スイッチが変わる。普段のボクが成りを潜め、自分を含めて戦場を俯瞰で視ているような感覚。 異世界で皆と共に戦っていた時の感覚が蘇る。




 ――右上から1本、時間差で更に2本。 左足を狙っているのが2本。残り1本が待機中……。男との距離は……。



 出来るだけ正確に触手と男の立ち位置を把握する。そうした上で最小限の動きで触手を回避する。



 余裕を持って回避出来たおかげで、男の詳細を観察する時間が出来る。




 ……寄生された男は痩せぎすでひょろ長い体型をしている。憑依型デモンの肉体的戦闘力は宿主の身体能力に依存する。



 といっても人間が本来持つセーフガード。体を守るために運動能力を抑える機能が解除されているので、並の人間よりは戦闘力があるはずだ。

 

 このまま一方的に遠距離攻撃をされていてはジリ貧だ……。



 最小限の動きで触手を躱しながら男に近づく。


 

 ある程度接敵した時点で男が鈍器のようなものを出してくる。次の宿主であるボクを殺してしまうとデモンは食事が出来ない。



 ……恐らく足などを鈍器で強打し、機動性を奪う算段だろう。



 そうはさせない。 近距離で男の鈍器を避けつつ隙を伺う。


 


 次第に男の動きは大味になり、振り回した鈍器を制御仕切れず……。



 ……男の足がもつれた。今だ!!


 「束縛せよ――バインドッ!!」


 光のロープが男の両手足を拘束すると同時に地を蹴って後方に翔ぶ。……バインドの有効距離は10メートル。



 対象と繋がったロープを握っている限りその効果は持続する。当てるために近距離に入ったが、拘束さえしてしまえば距離を取るに越したことはない。


 このまま解呪詠唱に入ろう――。触手による攻撃も詠唱の間なら対魔障壁で十分防げる。


 「人を惑わす厄災よ――今めが……っくぅ……!!」


 ダメだっ……! 解呪詠唱に集中して、バインドの拘束力が少しでも弱まると、身体能力の差でこっちがロープで引っ張られる。とても抑えられない……!!



 予想外の事態に少し動揺してしまう。



 「ギギ……、オトナシク、シロ……」


 「っく……!!」


 


 バインドも対魔障壁も長くは持たない。次は敵も安々とバインドに掛かってくれないだろう。ここで解呪出来ないと、打つ手がなくなるっ……。 




 「――これ、握ってればいいのか?」

 「……ぇ!?」


 

 悠斗だ。悠斗がボクの手の上から両手でバインドを握っている。逃げてなかったのか……。 



 いや、こいつの性格なら誰かを置いて逃げるなんて出来ないよね……。 悠斗を危険に晒したくないけど、この際仕方ないっ!!


 

 「ボクの回りを回転している円環の内側に入って、この光のロープを握ってっ!!」

 「お、おう!!」


 

 対魔障壁の中に入った悠斗がボクを後ろから抱きしめてロープを握る形になる。すごい安心感がある。大丈夫やれるっ!!


 

 「人を惑わす厄災よ――今女神の力に導かれ、解き放たれよ――ディスペル!!」



 男から黒い醜悪な物体が逃げ出すように出てくる。憑依型デモンの本体だ。幽霊みたいで相変わらず怖い……。



 

 ……でも、逃がさないっ!!




 「邪を消し去るは母なる光――アセンション!!」


 「ギ、ギギギ、ギアァアァアアァアアア…………!!!!」



 



 「や、やったか……?!」


 耳障りな断末魔と共に消滅するデモン。悠斗がフラグが立ちそうなセリフを呟いているけど、もう大丈夫だ。や、やった……勝ったんだ。


 安心したからか力が抜けて、バインドが消滅する。引っ張られまいと二人で必死に踏ん張っていたので――


 「う、うわぁあっ!!」

 「わわっ!!」



 バシンと大きな音を立てて地面に仰向けに倒れるボク達。



 「っつ~~~!!」

 「ご、ごめんっ、大丈夫!?」

 「だ、大丈夫っ!」


 ボクは悠斗がクッションになって何のダメージも無いけど、受身も取れないままコンクリートに激突した悠斗は背中を相当強く打っただろう。


 ……本当に大丈夫なのかな?


 「本当に大丈夫? ちょっと見せて……」


 体を回転させて悠斗の方に向き直るボク。悠斗の大丈夫は信用ならない。昔っからすぐ意地はって我慢するんだから。


 「いやほんとに大丈夫だから!!」


 両手前につき出して、診察を拒否しようとする悠斗。



 むにゅ


 「……ん?」


 その手はボクの胸を鷲掴みにしていて……。


 


 

 「あ、あのさ?……わざとじゃ……?」



 「こ、こ、この……ばかあぁぁぁーーー!!」


やっと初戦闘。上手く書けたか不安です。次で第1章終了予定。

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