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第9話 スイーツバイキングへ行こう

 6000字近くになったので、今日は2話に分けて投稿します。

 あの後、ボクが落ち着くまでちょっと時間がかかったけど、そのままスイートパラダイスに行く事になった。




 悟兄はボクを心配して帰ろうとしたけど、とんでもない! 今日の苦労は全部スイートパラダイスのためなんだからっ! 命に変えても行くよ。


 


 ファッションビル前の広場からしばらく歩くと、目的の店に到着する。



 バイキングの店というと、安価で大衆化されていているイメージだけど、ここの店は普段は高級スイーツ店だ。 


 大人っぽく色を抑えたシックな内装に少し尻込みをしてしまう。



 「入るぞ。」


 悟兄が自然にボクの手を取ってエスコートしてくれる。



 今まで女の人と付き合ったって話聞いた事ないけど、どこでこういう気配りを身につけているんだろう……。



 悟兄は身内の贔屓目を除いてもいい男だと思う。でも誰かと付き合ったという話は聞いた事がない。


 大学の頃にボク達の両親が亡くなったから、早く卒業して働かないと駄目だと考えた悟兄。 


 そのために4年のカリキュラムを3年で終わらせて、その間に大手企業の内定も取ってきた。



 ……当然大学時代は女の子と遊ぶ暇なんて無かったと思う。中高は男子校だったし……。




 社会人になってからは、仕事ですごく忙しそうだ。 仕事が終わっても真っ直ぐ家に帰ってボクのご飯を食べるし、付き合いで飲みに行っても、終電までには絶対に家に帰ってくる。



 きっとボクのせいだろうな…………。


 …………悟兄には幸せになって欲しい。可愛くて優しくて、悟兄を支えられるような女の子と結婚して自分の幸せを掴んで欲しい。


 でもその事を考えると、なんだか胸が苦しくなる。 悟兄が結婚して家を出たらボクは一人だ。



 ――ボクの事はいいから、彼女の一人でも作りなよ――


 悟兄の優しさに甘えて、その一言すら言えない自分が嫌いだ。



 …………あぁ、さっきあんな事があったからか、ちょっと不安定になってる。すぐネガティブになる昔からの悪い癖だ…………。



 「受付終わった。 行くぞ優希。」



 悟兄が声をかけてくる。 …………そうだよ。せっかくのスイーツバイキングなんだ。切り替えよう! 茜とバカを見習うって決めたんじゃんか!! 



 後先の事を考えても仕方がないよね……!



 悟兄に先導され扉を潜って店内に入ると、そこには色とりどりの様々な高級スイーツの山が、所狭しと並んでいた――




 …………ここは天国かな? 



 ケーキ、タルト、ムース、スフレ、プディング、ティラミス、コロネ、アイス、パフェ、ドーナツ、ワッフル!! なんでもあるっ!!




 「う、うわぁ~~!! 右見ても左見てもスイーツだらけっ! なんでも置いてあるよぉー!!」


 「ちょっと落ち着け……。」


 

 苦笑しながらボクを嗜める悟兄。……でもこんな素敵な場所ではしゃぐなっていうのが無理だよ! 


 ……ボクも、お昼ご飯の時にはしゃぐ茜を悪く言えないかもっ……。



 「全種類食べてみたいけど、このお腹あんまり入らないからなぁ……。」


 

 元々少食なんだけど、女の子になってからもっと胃が小さくなったみたい。スイーツは別腹だけどそれでもそんなに沢山は食べられない。


 「残っても俺が食べてやるから食べたいヤツ片っ端からとってけ。」


 そういう悟兄。ほんとに大丈夫かな? そう言ってくれるならお言葉に甘えて……。


 「頂きまーすっ」


 次から次へとケーキを食べるボクの正面で顔を青くしている悟兄。結局お言葉に甘えて、ほぼ全種類のスイーツをとってきた。


 全部食べようと思ったら一つのスイーツにつき1か2口ぐらいしか食べれないから、必然的に悟兄のお皿に見ていて胃が痛くなる量のスイーツが乗っていく。

 


 「お、お前は限度ってもんを……」

 「甘いものに関しては自重しないよっ? 悟兄も知ってるでしょ……?」

 「……ははははっ…………」


 壊れた悟兄を放っておいてスイーツを物色するボク。あぁ、このティラミス美味しすぎっ。家で再現出来ないかなぁっ!? 


 このパイシューも中のカスタードがすごく濃厚で美味しい。隠し味に使ってあるラムレーズンの香りがカスタードのしつこさを抑えていて食べやすい。レシピが知りたいよぉ~!! 


 あぁっ、このタピオカマンゴージュースも美味しいっ!! スムージーマンゴーのまろやかさにタピオカのコリコリした食感がマッチしてるよっ!


 


 「よっ、よく甘いもの食べながら甘いもの飲めるな……。」


 横でケーキーの山をコーヒーで流し込みながら始末する悟兄。


 何かもよく見ずに次から次へとスイーツを手に取っては口へ放り込んでいる。


 「悟兄、ちゃんと味わって食べなよ……」


 「…………」


 さて、次は何食べよっかなぁー!



 結局バイキングの制限時間2時間ギリギリまで使ってスイーツを堪能したボク達。ほんっと楽しかった。美味しいもの一杯食べれて幸せだよ~。


 

 やっぱ甘いものは最高だねっ。 悩みとか、うじうじした気持ちとか、全部吹き飛ばして幸せな気持ちにしてくれるっ!!



 …………悟兄は青ざめた顔で口元を押さえながらボクの横を歩いている。


 ちょっと無理させすぎたかな……。 



 少し歩調を早めて、悟兄の前にくるっと踊り出る。悟兄を見上げてボクは口を開いた。


 

 「悟兄。今日はありがとうね。色々気を使ってくれてっ。すごく楽しかったし、感謝してるよっ!さとにぃ大好きっ!」


 「……ッ!!」


 スイーツを食べて幸せな気持ちになれたから普段恥ずかしくて言えないような事まで言ってしまう。


 「上目遣いでそれは反則だろ……。」

 「……?何か言った?」



 悟兄が顔を覆いながら何か呟いたようだが聞こえなかった。代わりに乱雑に頭を撫でられる。感謝の気持ちに対する返事かな?


 「お礼に今日は晩ご飯好きなもの作ってあげるよっ? 何がいい?」

 「甘くないものならなんでも……。」

 「もーっ、ちゃんと考えてよっ!」


 

 そんな会話をしながら駅へと向かう。もう4時過ぎだし、夕食はあまり重くないものがいいかな。スイーツでお互い胃がやばそうだし。



 鴨そばとお吸い物とかでいいかな? 意見を伺おうと悟兄の方を見ると、急に悟兄のケータイに着信が入った。片手を挙げてボクに断って電話に出る悟兄。


 

 「はい、白峯です。はい。いつもお世話になっております――」


 仕事の電話かな?悟兄は優秀なプログラマーで、大手企業に勤めているけど半分独立している。悟兄本人に直接クライエントからの依頼がある事も少なくないのだ。


 「はい。お時間を頂ければ、修正出来ますが――。えっ、今日まで、ですか?」


 こちらちらっと見ながら電話を続ける悟兄。悟兄の職場は、ここのオフィス街の一角だ。


 

 チラっとこちらを見たのは、ボクを気遣ってくれているのだろう。あんな事があった後だし、一人にしたくないのかもしれない。 


 

 「気にしなくていいよ? まだ4時過ぎだし、夕飯の買い物して帰っても6時までには帰れるから。お客様は大事にしないとっ!! 」

 

 

 腕で小さくガッツポーズを作りながら小声で悟兄に伝えるボク。信頼が大事な商売で大事な顧客を蔑ろにしちゃだめだよ!


 

 「はい。分かりました。至急修正パッチを作成し、送りますので――はい。では、失礼致します。」


 電話を切ってこちらに向き直る悟兄。申し訳なさそうな顔で口を開く。


 「悪い優希。 急な仕事が入った。 大丈夫か?一人で帰れるか?」

 「大丈夫。 さっきの事ならもう大丈夫だから。 お仕事頑張ってね! 今夜は鴨そばだよっ!」

 「ありがとう。それは楽しみだ。 それじゃ行ってくる。」



 そう言って軽く手を挙げて、オフィス街に消えていく悟兄。さて、ボクも早く地元に帰って食材買って、夕飯の準備をしなきゃ。



 その場で悟兄が見えなくなるまで見送ったボクは、人混みに流されるように駅に向かって歩きだした。


 主人公が情緒不安定。 

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