最終
この作戦は次の日も行われた。今日がとりあえず最終日。宇津木桜の出番である。
「やっと最終日か」
依頼者の児島はやる気を見せない。
「封筒も用意してきました」
宇津木は自分の鞄から手紙入りの封書を取り出した。
「まあ、かわいい封書。気合入っているわね」
格好も気合が入っているように見える。いつもはホワーッとした宇津木の目が今日はキラキラとしていた。
通勤の者の流れが落ちつき始めた。いよいよ例の彼女が現れる時間だ。石丸たちは山田のほう見ている。まだ、合図はない。
山田が動いた。右手を小さく動かし、指差す。2人が一斉にそっちを見る。遅れて、児島が見る。
「おはようございます、ごくろうさまです」
来た、うわさの彼女だ。一人一人、挨拶している。
「……ごめんね、行って来る」
「あ、うん」
宇津木はなぜか謝って小走りでパタパタと山田のところに向かった。
彼女がちょうど一人前の警備員に挨拶をして次に行こうとする時に、宇津木は山田のところに到着した。
「山田クン、おはようございます」
「ごめんね、こんな馬鹿なことに付き合ってもらって」
「いえ……」
こっそりとそういう会話をしたところで、宇津木は止まった。手には小さいハートの書かれたピンク色の小さい封書を持ったまま。
うわさの彼女が近づいてくる。
「桜ったら、なにしているの」
離れたところから見ている石丸はハラハラである。
うわさの彼女がもう3mと言う時、突然宇津木は手紙を両手で差し出した。
「これ、読んでくもださい」
宇津木の声は狭い通路にちょっと木霊した。工事の音も一瞬止んだような気がした。
「あ、ありがとう」
山田は慌ててその手紙を貰う。
「おはようございます」
うわさの彼女だ。二人の横で立ち止まる。
「あ、ごめんなさい」
宇津木はうわさの彼女と目が合ってしまった。宇津木は慌てて逃げ出すようにその場を離れた。
「あ、あの……」
山田は何を言うかも考えずに思わず声を出してしまった。
「本気みたいね」
うわさの彼女は去っていく宇津木を見ながらつぶやいた。
「え?」
「じゃね、がんばってね」
そうにっこり笑って左手を振って去っていった。
その時、山田はそこに光るものを見つけていた……。
戻った宇津木はちょっと泣いていた。
「桜、どうしたの? 何があったの?」
石丸の問いに対し、宇津木は小さく答えた。
「邪魔しちゃった……」
「桜……」
「でも、渡せた……」
宇津木はずっと全身に力が入ったままだったようだ。今は逆に全身の力が抜けてしまっていた。
石丸に肩を抱えられゆっくりと駅を後にした。荷物は児島が持っていった。
*
山田はそのまま、昼過ぎまで予定通りバイトの警備を続けた。その後そのまま授業に出た。
授業中、最後に左手に光っていたものが思い出される。
『あれは確かに指輪』
みんなになんて言えばいいのだろうか。山田は頭をみんなになんてあやまればいいのだろうか。みんなにどんな顔で会えばいいのだろうか。
山田は頭を抱えながら授業を受けていた。
ぜんぜん頭に入らない授業だが、刻々と時間は進む。今日最後のこの授業が終われば、みんなに会うことになる。
『こっそり帰るのは、ありかなぁ』
そんな弱気を出した時、気になる言葉を山田は思い出した。
『……そう言えば、あの人が言っていた本気って、なんだろう?!』
その時、鞄の脇ポケットに入っている、『サクラ』であるしのぶ、麻子、石丸、宇津木の4人から貰った手紙に目が行った。
山田は何気なく開けてみた。
to 山田クンへ
突然手紙を書くことになって
慌てて書きました。
ですので、ちょっと変なところが
あったらゴメンなさい。
白紙だと思っていたその手紙には、言葉が綴られていた。
マネージャーになった時、
「初めまして」ってアイサツしたけど、
実は初めてじゃないの、
知ってましたか?
それは、しのぶの分、麻子の分、石丸の分、宇津木の分、と、つながっていた。
いつも ヨウコ と一緒で変なヤツ
って思っちゃっていますか?
まだまだ二人で話す勇気が
ありませんでした。
一つ一つは短かったが、一つの思いが綴られていた。
でも、今は、もっと、あなたの
ことが知りたいです。
山田は授業中にもかかわらず、講堂を飛び出した。後ろから教授の声が聞こえたような気がしたが、足は止まらなかった。止まることはできなかった。
よければ、今度の日曜、
映画行きませんか?
桜
☆おわりなの☆
最後、行頭にスペースを入れた関係で、携帯ではうまく見れないかも……ごめんなさい。