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この作戦は次の日も行われた。今日は石丸洋子の出番である。
「だからなんで俺まで」
依頼者の児島はやる気を見せない。石丸はちょっと緊張しながら鞄からちょっと大きめのハートの書かれたかわいい封筒を出す。
「うーん、らしくないかな。私が渡す封筒にしては……」
それを聞いた宇津木は自分の鞄から手紙とリボンを取り出した。
「洋子、これ使って」
そう言って石丸のショートヘアーを纏め、右横にちっちゃいサイドテールを作り、そこにリボンをした。そして、フリフリ付きのカーディガンを出して羽織らせた。
「げ、なんつう格好……」
石丸は真っ赤になった。石丸は児島と目が合った。
「な、なによ。笑えばいいじゃん」
「……いや、意外に似合うなって」
「意外って何よ!」
ぱーん。
山田はちょっと遠くから何かがはじけるような音を聞いた。
流れが落ちつき始めた。いよいよ例の彼女が現れる時間だ。石丸は山田のほう見ている。まだ、合図はない。
人通りがパラパラになってきた時、山田が動いた。右手を小さく動かし、指差す。2人が一斉にそっちを見る。遅れて、児島が見る。
「おはようございます! ごくろうさまです!」
来た、うわさの彼女だ。一人一人、挨拶している。
「……」
児島は静観した。
「洋子、今よ」
「あ、うん」
宇津木の合図で石丸はパタパタと山田のところに向かった。
彼女がちょうど一人前の警備員に挨拶をして次に行こうとする時に、石丸は山田のところに到着した。
「あれ、なんか、素敵な格好ですね」
「いえ、桜が無理やり……」
「さっき、なんかはじけるような音がしたけど……」
「いえ、児島が変なことを……」
こっそりと会話をして、例の封筒を受け渡しし、石丸はコソコソとうれしそうなフリをして、その場を離れた。封筒にはでっかいハートが書かれている。山田はその封筒にビックリしているような顔をしてみせる。
「おはようございます。まあ。ふーん」
うわさの彼女が、山田の前で立ち止まった。そして顔を見上げている。
「あ、ごめんなさい。また、明日」
そう言って立ち去って言った。
「よーし。だいぶ変化あり!!」
隠れていた児島はガッツポーズ。帰ってきた石丸は、リボンとフリフリを取りながら大きく深呼吸して一言。
「ふー、よしよし。しかし、なんか告白の予告練習みたいで、思った以上に緊張するー」
その時、宇津木だけが、ちょっと複雑な表情を見せていた。
次回、最終です。