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次の日の朝、児島と宇津木と石丸と石丸の友達のしのぶの4人は、早くも警備する山田を少し離れたところから見ていた。もちろん通勤の者の流れが生まれる前である。
「ねむい、なんで俺まで」
依頼者の児島はやる気を見せない。担当のしのぶはちょっと緊張している。石丸は鞄からちょっと大きめのハートの書かれたかわいい封筒を出す。
「どう、しのぶが渡しそうな封筒にしたよ」
しのぶが返事をする前に、石丸の話は次へ。
「桜、手紙は?」
「あ、はい。書いてきたよ」
「どれ」
石丸が見ようとすると、宇津木は慌てて隠す。
「あ、だめぇ」
宇津木はそう言って、石丸の持っていた封筒を取り上げ、手紙を中に入れ、封をしてしまった。
「あ、はい。あ、いえ、しのぶさん、お願いします」
一度石丸へ渡そうとし、最終的にしのぶに渡した。
「あら、らしくないスピーディーな動きね」
石丸は目を丸くしている。
「ねむいよ、帰っていいか、俺ぇー」
児島は相変わらずだ。
暇そうにしているバイト中の山田を見ていると、どんどん通勤の者が増えていく。そして、あっという間に流れが出来る。山田はその流れから一つ頭を出している。
「うわー、俺、こんな中、毎日通勤したくねぇなぁ。ラッシュに関係ないところに就職してぇなぁ」
児島が流れを見てそうつぶやく。
「学生の時、そう言っている人ほど、ラッシュで会社行っているんだって」
「へー」
石丸の出典不詳の情報に対し、宇佐美は感心の声をあげた。
山田は頭しか見えないが、流れに飲まれ、ちょっと苦しそうだった。
流れが落ちつき始めた。いよいよ例の彼女が現れる時間だ。児島たちは山田のほう見ている。まだ、合図はない。
人通りがパラパラになった時、山田が動いた。右手を小さく動かし、指差す。3人が一斉にそっちを見る。遅れて、児島が見る。
「おはようございます! ごくろうさまです!」
来た、うわさの彼女だ。確かに、一人一人、挨拶している。元気がいいし……
「うお、かわいい」
児島は思わずつぶやく。目が覚める。その瞬間、石丸が足を踏む。
「いてっ。なんだよ」
「別に!」
「しのぶさん、お願いします」
「あ、はい」
バタバタである。
彼女がちょうど一人前の警備員に挨拶をして次に行こうとする時に、しのぶは山田のところに到着した。
「すみません、こんな馬鹿なことに付き合ってもらって」
「いいえ。ちょっと楽しいです」
こっそりと会話をして、例の封筒を受け渡しし、しのぶはコソコソとうれしそうに、その場を離れた。封筒にはでっかいハートが書かれている。山田はその封筒にビックリしているような顔をしてみせる。
「あら。おはようございます! ごくろうさまです!」
うわさの彼女の挨拶に『あら』が付いた。
「よし」
隠れて児島と石丸はガッツポーズ。宇津木もちょっとうれしそうだ。帰ってきたしのぶは達成感が溢れている。
「しのぶ、100点! 初日に変化あり、よ」