涙空
こんにちは、または
初めまして!*。*゜
『涙空』を手にとって
いただき、ありがとうございます。
初めての小説とも
あって、読みづらい箇所も
あるかもしれません;;
切ない系統が苦手な方は
全力ダッシュをお願いします^^
大丈夫な方は、どうぞ最後まで
お楽しみいただけたらと
思います^^
―――大好きだった、たったそれだけだった……
:
僕の名前は、神原マオリ。
ごく普通の、どこにでも居るような、何の変哲もない男の子。
僕には、双子の姉がいて、その子の名前はマツリ。
…この子も、ごく普通の女の子なのだけど…。
僕はその子に、小さな恋をしていた……
:
最近、冬を間近に感じる。
僕は、上着の上からそっと肩を抱く。
雪が降り出していたから、僕の学校では毎年行われる雪祭りの準備をしていた。
雪祭りを取り仕切る文化委員に所属している僕は、放課後、学校に残って先生の手伝いをしていた。
「……………。」
少し手が空いて、僕は背後を振り返る。
後ろには、マツリちゃんの姿がある。
寒いから先に帰ってて、と言ったのだけど、マツリちゃんは健気に僕を待っててくれていた。
「…ごめんね、寒くない?」
「大丈夫だよ。」
そう答えるマツリちゃんは、マフラーを頬まで巻き付けていた。
そんな格好で「寒くない」と言われても、「本当に?」としか問い返せない。
しかし、問い返そうとした僕の言葉を、野太い先生の声が塗りつぶす。
「神原ー、こっち手伝ってくれー」
「あ…はい。」
さすがに先生の言うことを無視できず、僕はとりあえずマツリちゃんに向き直る。
「…ちょっと待っててね。」
「うん。」
僕の言葉に、マツリちゃんは小さく笑った。
やっと準備が終わった頃には、空はもう真っ暗だった。
「遅くなって、ごめんね。」
「ううん。」
僕らは校門を出て、真っ暗な道を歩き始める。
灯りと言うものは、近くに申し訳ないくらい小さな灯りを灯している街灯くらいだった。
「…雪祭り、楽しみだね。」
「うん。」
何気ない会話。
それだけで、何故か心臓の鼓動が早くなる。
…どうしてだろう。
マツリちゃんは、ただの姉弟なのに…。
家に着く。
家の中はしんと静まり返っていた。
……当然だった。
僕の両親は共働きで、朝は早くて帰ってくるのは真夜中だった。
僕らと顔を合わせるのは、祝日くらいだけれど、「疲れてるから」と言って2人とも寝てしまっている。
でも、寂しくはなかった。
…マツリちゃんが、居てくれたから。
「じゃあ、ご飯にしよう?」
「…うん。」
だから、晩ご飯とか朝ご飯とかは2人で作る。
……大半はマツリちゃんが作ってくれるんだけど。
今日のご飯はプレーンオムレツ。
それを口に運ぶ僕を、マツリちゃんは不安そうに見ている。
「…おいしい?」
そう、不安そうに訪ねる。
「うん、おいしいよ。」
僕が笑って答えると、マツリちゃんはやっと自分もオムレツを食べ始めた。
2人だけの、静かな家の中。
なかなか顔を合わせられない両親。
そんな生活も悪くないと思っていられるのは、傍にいつもマツリちゃんが居てくれるからだった…。
そして、雪祭り当日。
前日に雪が降ったから、グランドは白一面に輝いていた。
「マツリちゃん、雪だるま…作らない?」
僕は、しばらくその景色に見入ったあと、マツリちゃんを呼んだ。
マツリちゃんも素敵に雪化粧されたグランドに見入っていたけど、僕の声にはっと我に返った。
「うん。」
2人で雪玉を転がす。
体は大きめに、頭はその半分くらいの大きさに。
……ころころころころ……
……ころころころころ……
「…そう言えば、もうすぐクリスマスイブだね。」
ふと、思い出したようにマツリちゃんが呟いた。
「…そうだね。」
クリスマスイブが、僕らの誕生日だった。
クリスマスイブまで、あと少し。
僕は、やっと出来上がった雪玉を、もう一つの雪玉の上に乗せた。
僕たちが作った雪だるまは、ちっぽけだった。
木の枝とビーズで作った表情は、笑っているような、泣いているような、不思議な表情をしていた。
……もうすぐ、雪祭りは終わる。
「来年もまた、一緒に雪だるま作れたら良いね。」
帰り道、ぽつんとマツリちゃんが呟いた。
「そうだね。」
「うん。」
言ってから、気付いた。
来年になっても、一緒にいるんだから。
「………どうして来年も、なの?」
「え?」
「離れていったりしないのに。」
僕はごく普通の事を言っただけなのに、マツリちゃんは少し頬を赤くしていた。
「…え………と……。…そ、そうだよね。一緒なんだよね……」
そう、誤魔化すように笑う。
その言葉に僕は疑問を持ったけど、特に気にしてないふりで笑った。
マツリちゃんの笑顔の中に、ちょっと悲しそうな表情があったのを、僕は知らなかった。
雪祭りが終わって数日も経たないうちに、僕らの学校では冬休みが始まった。
僕らの誕生日はいつも冬休みの間にあるから、クラスメイトには祝ってもらえない。
……でも悲しくはなかった。
だって、マツリちゃんが居てくれるから……。
最近、マツリちゃんと一緒にいると、すごく苦しかった。
胸が締め付けられるように…。
……どうしてだろう。
どうして、こんなに苦しいんだろう…。
――――――「マオリくん?」
突如、肩をたたかれた。
びくっとして振り返ると、そこには心配そうな表情を浮かべたマツリちゃんが立っていた。
僕の突然の挙動に驚いたのか、困惑した表情と心配そうな表情とがないまぜになったような表情を浮かべて固まっていた。
「…あ…、ごめん…」
「あ……ごめんね…。」
僕が謝ると、マツリちゃんも謝り返す。
これを続けてもきりがないから、僕はマツリちゃんに問いかける。
「どうしたの?」
「…あ……えっと…」
マツリちゃんは言いかけて、言おうとしていたことを忘れたらしい。
うつむいて、必死で思いだそうとしていた。
僕はただ黙って待つ。
こんな時に声をかけても、余計にマツリちゃんが焦るだけだから。
「……あ…えっとね…」
そうしていると、やっと思い出したのか、マツリちゃんは顔をあげた。
「誕生日の日にね……2人で出かけたいな、って思って……」
自信なげに言うマツリちゃん。
「うん、いいよ。」
僕がそう言って笑うと、マツリちゃんも安心したように笑みを浮かべた。
2人だけの誕生日。
クリスマスイブの日は、両親は帰ってこない。
……僕は、誕生日にあんなことがおこるとは知らずに、ただ心を踊らせていた。
……クリスマスイブ。
明日がクリスマスだという所為もあって、町や繁華街はいつもより人が多い。
僕とマツリちゃんは、はぐれないように手をつないでいた。
手から伝わる、マツリちゃんの体温。
指先を伝わって、感じる。
心臓の鼓動が早くなる。
手をつないだだけなのに……。
久しぶりに2人だけで外出して、マツリちゃんは少しだけ、はしゃいでいた。
僕も少しだけ、はしゃいでいた。
ウィンドウショッピングをしたり、クリスマスソングをうたったり。
「……お誕生日おめでとう、マツリちゃん。」
「……マオリくんも、お誕生日おめでとう。」
2人で言い合う『おめでとう』。
それが何だかくすぐったくて、僕たちは何分間か、意味もなく笑っていた。
そうしている間に、時間はどんどん過ぎていて、知らない間に辺りは真っ暗になっていた。
「……もう帰ろう。」
「うん…。」
僕の言葉に、マツリちゃんは名残惜しそうに答えた。
暗い夜道を、急いで帰る。
2人とも防寒具を身につけていないから、とても寒かった。
ただ、つないだ手だけが、温かかった。
……そして今日、気付いた。
マツリちゃんと居ると、どうしてこんなに苦しいのか……。
……それは、僕がマツリちゃんに恋をしているからだって。
ついさっきまでいたお店の人が言っていた。
誰かを好きになると、胸が締め付けられるように苦しいんだって。
……だからきっと、僕もマツリちゃんが好きなんだ……。
そんなことを考えているうちに、家の近くの横断歩道にさしかかっていた。
いつもは利用する人で混雑する横断歩道も、今は人気がない。
居るのは、僕たち2人だけ。
押しボタンを押して、信号が変わるのをただ待つ。
そうしていると、不意にマツリちゃんが口を開いた。
「……ねぇ、マオリくん。」
「……え?」
僕は、隣にいるマツリちゃんに目をやる。
「……私のお願い、聞いてくれる…?」
「…え……?」
一瞬の、沈黙。
マツリちゃんは真剣な瞳で、ただじっと僕を見ていた。
マツリちゃんのこんな表情は初めて見て、僕は少し身構えた。
「……あのね、マオリくん……。」
「………。」
打とうとした相槌は、口から出なかった。
「……ずっと、私の傍に居てくれる…?」
思いも寄らない、言葉。
「……え………」
「…ずっと…私の傍に居てほしいの…。」
マツリちゃんは頬を赤くして、うつむいた。
何て答えたら良いか判らないくらい、僕の頭の中は混乱していた。
嬉しいはずなのに、素直に喜べない自分が、そこにいた。
信号が変わった。
僕は何も答えないで、信号を渡った。
手が離れて、マツリちゃんが慌てて渡り出す。
……その時だった。
背後で、重く鈍い、クラクションが鳴り響いたのは……。
僕は慌てて後ろを振り返る。
明るい車のライトが、暗い夜道を照らした。
目に飛び込んできたのは、明らかに信号無視をしている大きなトラック。
…そして、トラックを見て立ちすくんでいるマツリちゃんの姿だった。
一秒がとても長く感じた。
まわりの景色すべてが、スローモーション再生で見させられているように。
……やるべきことは判っていた。
僕の体は、意志とは逆に行動していた。
真っ直ぐマツリちゃんに駆け寄って、突き飛ばした。
マツリちゃんは道路に倒れ込み、状況が飲み込めないようで、ぼぅっとしていた。
ほっと息をついた僕の体に、激痛が走った。
―――「マオリくん!!!」
ぼぅっとしていたマツリちゃんが突然叫んだ。
僕の体は宙を舞う。
小さな人形みたいに。
………やっと状況が理解できた。
僕はトラックに跳ねられたんだと。
どしゃ、と酷く鈍い音を立てて、僕の体は地面に叩き付けられる。
激痛の中で、意識が薄れてきたのがぼんやり判った。
途絶えていく景色の中で、目に入ったのは………。
道路や景色を塗りつぶしてゆく真っ白な雪と……
その血を赤く、赤く染め上げる大量の血と……
僕の顔を覗き込んで、ぽろぽろ涙を流しているマツリちゃん……だった。
意識はどんどん薄れてゆく。
トラックの姿はない。
走り去ってしまったんだ……。
広い横断歩道の真ん中で、マツリちゃんは僕の顔を覗き込んでいた。
「…やだ……やだよ……マオリくん……
返事、して……。」
マツリちゃんの目から流れる涙は止まらなかった。
それも凍ってしまいそうなくらい、辺りは寒かった。
「……マオリくん……来年も一緒に雪だるま作ろうねって、言ってたのに…」
………ごめん。
ごめんね、マツリちゃん……。
僕も泣きたかった。
…でも、もう泣けない。
ごめんね……。
来年も一緒に作るはずだった雪だるま…
来年も一緒に迎えるはずだったクリスマスイブ。
マツリちゃんのお願いだって、聞いてあげられなかった…。
………あと…………。
――――――――「……大好き、……」
最後、それを呟いたあと……。
まぶたが重くて、ただ激痛の中、僕の意識は暗闇に投げ出された。
「マオリく―――――――ん!!!!」
マツリちゃんの泣き叫ぶ声だけが、耳に残った。
ちゃんと、言えれば良かったのに。「好きだよ」って、たった一言。
…どうして、そんな簡単なことが言えなかったんだろう…。
……いまだから言えるんだ。
マツリちゃんのお願いも、聞いてあげられる……。
…僕は何処にも行かないよ。
…ずっと傍にいるよ。
ずっとずっと、僕、傍に居るからね…。
『涙空』を最後まで
読んでいただき、
ありがとうございました。
読みづらかったかも知れませんが、
最後まで読んで下さった皆さん
ありがとうございました。
感想とか頂けると
もう泣きそうです。←
ありがとうございました!!