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第5話

『雷門!』


『仲見世通り!』


『浅草寺ーーー!』


 結局、無難な観光スポットを回ることにした僕とセシリアさん。

 休日の浅草は人で溢れていて、異国の言葉や笑い声が入り混じり、どこかお祭りのような熱気が漂っている。


 その喧騒すら新鮮なのか、セシリアさんは目に映るものすべてを逃すまいと、忙しなく視線を動かしていた。


「すごい……。どこを見ても、全部“日本”ですね……!」


 初めて訪れる浅草の雰囲気に、彼女は終始はしゃいでいる。

 石畳を踏みしめるたび、揺れるスカートの裾。

 時折こちらを振り返っては、無邪気な笑顔を向けてくる。


 その無邪気さ……あどけなさ……。

 まるでアニメのヒロインを現実に引きずり出してきたみたいで、心が勝手に浄化されていく。


 ――にしても、私服姿……素晴らしい。


 柔らかいアイボリーのワンピースは派手さこそないが、清楚で上品。

 細身のブラウンベルトがきゅっと締まったウエストラインを強調していて、

 素朴さの中に、確かな女性らしさが浮かび上がっている。


 一言で言うと――もう、たまらん。


「海堂さん! あの煙、なんですか!」


 指さされた先には、もくもくと白い煙を立ち上らせる常香炉。


「えーと……“常香炉”って言うらしくてさ。あの煙を浴びると、身を清められるらしいよ」

「そうなんですね! 一緒に行きましょ!」


 いや、セシリアさんは十分清い存在だと思うんですけど……。

 って、ちょっと、手引っ張らないで!


 ――てか、柔らかっ。


「クンクン……なんか独特な匂いですね……」


 煙に顔を近づけ、犬みたいに鼻をヒクヒクさせている。

 仕草ひとつひとつが無防備で――


 ……可愛い。


(もしや……これはデートでは?)


 ――いやいや!

 これは観光案内だから!

 勘違いするなよ? 海堂俊一!


 こんな可愛い子とデートなんて、烏滸がましすぎるだろ!


 ……でも。

 こんな可愛い子と、浅草を並んで歩いてる現実は――


(奇跡みたいなことも、あるんだな)


「どうしたんですか? 変な顔して…………」

「ごめんごめん……ちょっと考え事を……」

「――もう! せっかくの休日なんですよ? しっかりしてください!」


 頬を膨らませて抗議する姿すら愛らしい。

 しかも、距離が近い……。

 冗談抜きで心臓に悪い。


「でも、なんで急に日本観光なんですか?」

「え? な、なんというか……そ、その……」


 歯切れが悪い。

 いつもははっきり物を言うセシリアさんにしては珍しい。


「さ、最近、日本のアニメにハマってまして!」

「ああ、なるほど! 日本のアニメ、面白いですもんね」

「そ、そうなの! ははは……」


 なるほど。

 そういう一面もあるのか。


 ――だったら。


「海堂さん! あれはなんですか!」


 瞳を輝かせ、空を指さすセシリアさん。

 視線の先には、雲を突き抜けるように聳え立つ巨大な塔。


「ん?……ああ、あれはスカイツリーっていう電波塔だよ」

「スカイツリー…………」


 その名前を反芻するように呟き、彼女は静かに塔を見つめた。

 どこか懐かしむような横顔。

 人混みの中で、その表情だけが切り取られたみたいに、やけに印象に残る。


「セシリアさんの世界にも、ああいう建物、たくさんあったんじゃないですか?」


 かつて垣間見たことのある、彼女の故郷――

 18番世界〈インフィット〉。

 地球とは異なる科学で発展した、近未来的な世界。


「……そうですね。少し、懐かしい気持ちになってしまいました……」


 わずかに伏せられた視線。

 そこに混じる寂しさを、僕は見逃せなかった。


 ――よし。

 ここは同僚として、人肌脱がねば。


 僕は、セシリアさんの手を取った。

 今思えば、かなり大胆な行動だったと思う。


「セシリアさん! 東京は、まだまだこんなもんじゃないですよ!」

「え、ちょっと……海堂さん!?」

「アニメ好きなんですよね? だったら――」


 そのまま手を引き、人混みを掻き分けて駅へ向かう。


 ――そう。

 アニメの聖地。


 秋葉原へ!

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