第2話
(あー、ほんと面倒臭い…………)
転生者の経過報告書の作成なんて必要か?
いくら世界の均衡保つ為とはいえ、人の私生活覗き見するなんて……。
この世界の転生者なんて、ハーレムしちゃってんじゃん……。
……うっわ。えーすっご。
え、勇者だとこんなこt――――
「海堂さん、何してるんですかー?」
――バタンっ!!!
咄嗟にノートPCを閉める。
……間に合った……か?
「どうしたんですか? PC急いで閉じちゃって」
「ううん? なんでもないよカイン君! どうかした?」
よし、セーフ。
危うく、他人の愛の営みを純粋なカイン君に見せてしまうところだった……。
それに、いくら仕事とはいえ
こんなところを眺めている奴だと思われたら先輩としての威厳が――
と、思考を巡らしているところを遮られる。
「先日は、ありがとうございました!」
あぁ、あの暴走勘違い魔王のことか
結局、勘違いだと気付いたあとは冷静になってくれて
カイン君に任せたんだけど……
そういえば結構時間かかってたな。
「いや全然大丈夫だよ! むしろその後大丈夫だった? 時間かかってたみたいだけど……」
「はい! 最終的に貴族の幼女に転生することになりました」
貴族の幼女……だと?
あの、スケルトンキングみたいな魔王が?
転生は何が起こるかわからないな…………
「そ、そっか……それは良かった」
「はい!ありがとうございました」
深々とお辞儀をするカイン君
まぁ大したことないから、そこまでお礼言われなくても
いいんだけどな
「――で、すみません、それとはまた別件なんですが……」
「ん? どうかした?」
「いや、女神様の要望にあった転生者がなかなか見つからなくて……」
「なるほど。ちょっと要望書見せて――」
ふむふむ。1301番世界:ユドガブルの女神の要望書か……
――えーっと! まずは顔よ顔! とびっきりのイケメンを用意しなさい
――そして、何より仕事できるやつがいいわ! 魔王を倒してもらうんだから当然よ
――精力は強めがいいわね……。せっかくチートスキル授けるんだから子供はたくさん作ってくれないと!
――まぁ、性格はこの際だから妥協してもいいわ……
――いい!? ちゃんと要望書出してんだから優遇しなさいよ! いいわね!?
なんで、神ってこんなに偉そうなんだろ…………。
ま、神だからか。ここにいると感覚バグってしまうな。
「どうですか? なかなか、僕の担当世界にはいい人材がいなくて…………」
「まぁ、カイン君の担当世界は4桁後半が多いんもんね」
「そうなんですよ。 上位世界に転生させたてもバフ問題が…………」
数多にある世界だが、基本的には序列がある。
と言っても、ただ世界が出来上がった順番なのだが(ちなみに地球の存在する世界は9番目で9番世界と呼ばれている)
古くからある世界、つまり数字の小さい世界が序列が上である。
上から下に転生する際はバフがかかる(要は基本スペックが高く転生できる)が、その逆は存在しない。
世界毎の理の違いでそうなるらしい。
(うーん……カイン君の担当世界から探すより、こっちから探した方が早いか)
「じゃあ、9番世界から1人斡旋しようか?」
「え! いんですか!?」
瞳を輝かせ喜ぶカイン君。
尻尾が生えていたら、ブンブンだろうな。
チキショー、反応がいちいち可愛い。
「いいのいいの。9番世界は転生したい人ばっかなんだから……えーと、一瞬向こう向いてくれる?」
「え? あ、はい……」
カイン君がみていない隙にPCを開いてクローズボタンを連打!!!
よし、デスクトップ画面に戻った。
「もういいよ」
「? もういいんですか?」
「うん。 ちょっと探すから待っててー……」
転生検索アプリを開く。
必要条件を入力すれば、簡単に転生者がピックアップされる便利なアプリだ。
どれどれ…………。
スクロールする途中で、1人の人物に目が止まった。
「この人なんてどうかな?」
「東堂 蓮さん……職業――アイドル?」
「そう! 9番世界はね、カイン君の世界でいう踊り子みたいな人がいるんだよ」
「そうなんですね! そのアイドルの方が条件にぴったりなんですか?」
「そう! 顔面偏差値はもちろん高いし、アイドルは歌って踊るだけじゃなくて色々な仕事をこなすんだよ」
「歌って踊るだけじゃないんですか…………?」
と、とぼけた表情を見せるカイン君。
書類を胸に抱え首をかしげる仕草は、そこはかとなくあざとい。
「最近では、崖からバンジーしたりドッキリで池に落ちたり、ドラマに出たり…………」
「そ、それは大変そうですね…………」
「更に超有名人だから、女の子にもモテモテ。きっと精力の方も問題ない」
「本当、女神様の要望にぴったりですね! ありがとうございます!」
「いやいや、カイン君のためならこのくらいなんともないよ」
と僕が言い終えると、カイン君の表情に影が落ちる。
ん? なんか失言してしまったか?
「ど、どうした? なんか失礼しちゃったかな?」
「いえ、海堂さんはこんなに仕事できるのに……僕なんか全然で…………」
カイン君は剣と魔法の超絶王道ファンタジー世界の勇者だ。
彼もまた、チートガン詰み転生者によって魔王討伐の名誉を奪われ、ここにやってきた。
幼い頃から魔王討伐のための訓練しかしていない彼とって、この手の仕事は苦手以外の何者でもなかった。
更に、最近失敗続きで落ち込んでいるらしい。
ここは先輩として励ますしかないな。
「僕もそういう時期あったよ」
「海堂さんが……ですか……?」
「僕も来た当初はさっぱりだったよー」
(ほんとに地獄だった…………)
「それに、元の世界で似たような事務仕事してただけだし……」
実際やってること対して変わらないんだよなー。
「それに比べて、全く馴染みのない環境で頑張ってるカイン君の方が何倍もすごいよ!」
「そう……ですかね……」
これは紛れもない事実だ。
入管職員になってから、日も浅いのにもうPCを使いこなしてるし
僕でもたまに使い方わからなくなるのに……
「だから、自信持って! 君はすごい職員になれるよ」
「ありがとうございます! わた――僕頑張ります!」
大きな一礼をした後、銀色に輝く甲冑をガシャガシャ揺らしながらデスクへと戻っていく。
自信を取り戻せたようで何よりだ。
(さてと…………)
カイン君もいなくなったところで、僕は再びPCに目を向ける。
「あの勇者……まだハーレムやってるかな…………」
転生者の経過報告書……
今日は終わらなさそうだなぁ




