第1話
「こ、ここは…………?」
あたりを見渡すも、広がる景色は一面真っ白で何もない世界
そうだ。
確か、車道に飛び出した猫を助けようと思って…………
(ここが死後の世界か?)
「あ、こちらへどーぞー」
「へ?」
先ほどは何もなかったはずのところから声がする。
恐る恐る振り返ると、なんの変哲もないビジネス用のデスクとパイプ椅子――
そして明らかなサラリーマン風の男が座していた。
「あ、どーぞ。お座りください」
何がなんだかわからぬまま、男に促されイスに座る。
(なんだ?一体なんなんだ?)
「日野 優也さまですね? 此度は転生おめでとうございます」
「は、はぁ……」
「えーと、転生先がですね…………」
男は何やら、引き出しの中から探し物をしている。
「あ、あったあった。猫を助けられたということで、実はこの猫ですねキヤト王国の姫君が日本に転生されたお姿でして…………」
男の説明は続く。
「助けてくれたお礼に是非、キヤト王国のある世界に転生していただきたいとのことでして…………」
「ち、ちょっと待ってください!」
流石に話の腰を折るしかなかった。
「どうかなさいましたか?」
「転生? 王国? 姫? すみません、さっぱり状況が飲み込めなくて…………」
そこまでいうと男は苦笑いを浮かべ顔を押さえた。
「すみません! 説明不足でしたね……異世界転生ものが流行っていますので、すでにご承知のものかと……」
男は襟を正し、改めて説明をし始めた。
「まず日野様は、猫を助けようとした結果トラックに轢かれお亡くなりになりました」
(あぁ、やっぱり僕は死んだのか…………)
「あ、あの猫は無事だったのですか?」
「はい、ピンピンしてますよ!」
よかった……
僕の行動は無駄じゃなかった。
それが知れただけでも満足だった。
「それはよかった……」
「はい。その功績を讃え、神が日野様を異世界に転生させるとのことです」
「本当に異世界転生なんてあるんですね……ラノベの世界だけかと……」
「っち。異世界転生知ってんじゃねーかよ」
「ん? 何か?」
男が何か言った気がしたが、聞き取れなかった。
「で、転生先というのがその助けた猫――姫君がいた世界なのでございます」
「なるほど……。それじゃその世界の女神様とかにチートスキルとか貰えるんですね!」
まさか、本当に異世界転生があるなんて!
内心はワクワクが止まらなかった。
「あ、女神は来られませんよ。我々がいますので」
「……え」
待って聞いてた話と違う。
「最近はですね、異世界転生も多くてですね……神代わりに我々”入管職員”が対応してるんですよ」
(入管職員……?)
「え、じゃあ、特殊なスキルとかもらえないんですか?」
「あ、それは普通にありますよ。こちらの中から1つお選びください」
そういうと男が一枚の用紙を取り出した。
なんだか少し雑になってきてないか?
「あ、あの……転生先ってどんな感じなんでしょうか」
「っち」
ん? 今舌打ちしなかったか?
「えーと、資料によるといわゆる獣人が支配する世界のようですねー」
「魔法とか魔王とか……」
「あ、そういうのは一切ないですね。ケモみみがいっぱいいるだけで基本は地球とさほど変わないっすねー」
「そ、そんな…………」
せっかくの異世界転生なのに……。
膨大な魔力持ちとかで無双したかったのに……。
「転生先を変えることって……」
「あ、無理っすねー。で、スキル選びました?」
目に見えて雑になってきたなこいつ
「ちょっと待ってください、まだ全部見てな――」
「あ、もう時間なんで適当にこちらで選んでおきますね」
時間? なんの話だ
「それでは、新たな人生……お楽しみくださーい!」
ぽちっ
男が机の上にあったボタンを押した瞬間、眩い光が僕を包み始めた。
「ま、待って心の準備が――」
僕が言い終わる前に世界は暗転した…………。
* * *
「海堂くん、お疲れー! 今日何件目? あ、コーヒーどうぞ」
熱々のコーヒーを差し出してくれたのは同僚のアリスさんだった。
「ありがとうございます。さっきので12件目です……。本当勘弁して欲しいですよ……。」
「海堂君の窓口は地球からの転生案件が多いもんね……」
「そうなんですよ……。面倒くさくて最後雑に転生させちゃいました」
「まぁ、入管あるあるよね」
「アリスさんのところはどうですか?」
「私のところはね………相変わらず悪役令嬢転生ばかりよ……」
「それはお気の毒に……」
アリスさんは乙女ゲーム出身で、本来ならヒロインのアリスさんが王国の王子や大貴族の息子達を囲う逆ハーレムを築くはずなのに、悪役令嬢に転生した転生者が攻略キャラを次々とものにしたせいで行き場を失った経緯を持つ。
そんな彼女が悪役令嬢転生担当なんて酷すぎる。
「ふふっ。いいの別に……。本来なら平民の私が王子と結婚なんて普通ならありえないもの……」
そう口にするアリスさんだが、その背中からは黒いオーラが出ている。
アリスさんが転生したら大変なことになりそうだ。
「にしても、もう少し采配を考えてほしいですけどね」
「そうね……。でも、それより私は人員を追加して欲しいわ…………」
「間違いないっす。ところでこの間の――」
猛烈な爆発音が事務所内に響いた。
驚きのあまり、事務所内で仕事をしていた他の職員全員が音の方に視線を向ける。
その視線の先には、転生者を導く部屋、”転生部屋”に続くゲート。
そして、煙が漏れ出すゲートから転がるように現れたのは、光り輝く鎧に包まれた勇者――カイン君だった。
「カイン君! 大丈夫?」
「海堂さーん……助けてください……」
慌てて駆け寄ると、震え声で瞳を潤ませるカイン君が縋り付いてきた。
「ちょ、ちょっと落ち着いて! どうしたの?」
「転生してきた魔王が、僕のことを自分の世界の勇者と勘違いして攻撃してくるんですぅ」
まぁ、露骨に勇者っぽい格好してるもんね。
「バカね。だからその鎧脱いだら?っていつも言ってるじゃない」
アリスさんも駆けつけ声をかける。
「そんなことしたら、僕のアイデンティティはどうなるんですか!」
「いや、知らないわよ」
「とにかく、僕が対応してくるから、その間に気持ち落ち着かせて? ね?」
「海堂さん…………」
上目遣いで見つめてくる美少年――
さすが、世界に選ばれた最強の勇者、なんか芽生えそう。
「海堂君! カイン君に甘いんじゃない?」
「まぁまぁ彼も若いですし……とりあえず行ってきます」
僕は急いで、スーツの上着を手に取りネクタイを締める。
この異世界出入管理局、通称:入管ではこれくらいのことは日常茶飯事だ。
(さぁ、今日はどんな魔王が転生してきたのかな……)
今日も異世界転生は止まらない




