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授業内容は思いのほか頭に入ってきやすかった。
ここ2週間の成果が出ているのかもしれない。
一学期の内容はほとんど導入のようなものだったのも良かったのかもしれない。
お昼休みはリーネとヴィーが誘ってくれて、一緒に食べることになった。
今日の学食はハンバーグかカレーの定食らしい。
二人ともハンバーグにするようだったので、私もハンバーグにしてみた。
席に着くと、二人から質問攻めが始まった。
「エレナは闇魔法を使うのよね?私、闇魔法使いは初めて会うわ」
「私も!怖い噂も聞くけど、すごい便利そうな魔法だよね!」
「う、うん。この学園には私しか闇魔法使いは居ないみたい」
二人とも、たくさん話しかけてくれるので正直助かったし、嬉しかった。
「エリナはどこの出身なの?私はね、王都生まれ王都育ちなの!ヴィーは隣町の出身」
「え、えっと…私は…」
私が言葉に詰まると、二人は不思議そうに顔を見合わせた。
ヴィーが首を振って言う。
「言いたくないなら言わなくていいわ。この学園、寮があるってこともあって、ちょっと特殊な事情の子も入ってきやすいの」
「う、うん!そうそう!ごめんね!えっと、今の話は忘れて!あ、そうだ!エリナは寮で一人部屋なんだっけ?最近誰かが空き部屋に来たって噂になってて」
二人とも気を使って話を変えてくれたようだ。
「うん。たまたま空いてたみたいで一人部屋にしてもらったんだ」
「おおー!良かったね!基本的にみんな平等になるようにってことで相部屋なんだけど、逆に部屋が余るんだよね」
「そうね。一人部屋希望の人が一人部屋を選べればいいのだけど、そうもいかないみたいね」
「ねー!私は相部屋の方が楽しいからいいけどね…あ!そうだ!今度エリナの部屋に遊びに行っていい?土日は許可取れば他の人の部屋に泊まりに行けるの!」
そんなシステムがあったのか。
私はまだまだ学園のルールのことはきちんと知らないなと思った。
「そうなの?じゃあ、遊びにきて…欲しいかも」
言いながら恥ずかしくなってしまって耳が熱くなる。
「うんうん!お菓子持ってくね!女子会女子会!」
「消灯時間過ぎてから騒ぎすぎると、また怒られるわよ。ちゃんと静かにやりましょうね」
ヴィーはふふっと笑った。
彼女は意外としたたかな性格なのかもしれない。
そろそろ昼休みが終わるので、3人で教室にもどった。
相変わらず食堂は人でごった返していたので、人の少ない教室に入るとなんだか安心した。
ふう、と一息ついて席に座ると、隣に座ったリーネにツンツンと肩を突かれる。
どうしたんだろうと思い、そちらを向くと、耳を貸すようにジェスチャーされた。
「あそこのシモンってやつ、あいつはいつも態度悪いからあんまり話しかけない方がいいわよ。私、最初に話しかけられた時舌打ちされたんだから!」
「そ、そうなの?」
小声で耳打ちされながら、氷頭の男の子の方をみると、また睨まれてしまった。
「ほら、いっつもあんな感じなの。なんかされたりしたら言ってね。私がはっ倒してあげるから!」
リーネはふんす!と気合を入れるようにガッツポーズをした。
「ふふ、ありがとう」
リーネはいつも笑顔なので、こちらまで笑顔にさせてくれる。
私が笑ったのを見て、リーネは目を大きく見開いてから、ニコッとピースをした。
ーーー
その日の放課後、私はノアさんに立ててもらった計画通り、自習をすることにした。
リーネは園芸部、ヴィーは馬術部に所属しているらしく、放課後は部活だそうだ。
見に来ないかと誘われたが、私は勉強に専念しなくては。
図書館で勉強してみようかな、と思ったのだが、存外人が多く、もっと人気のない場所はないかと探した。
寮まで帰ってもいいかと思ったが、せっかくなら学園で勉強したい。
食堂がある方とは逆に歩みを進めると、校舎の裏に中庭を見つけた。
校舎から繋がるテラス屋根の下に、ウッドデッキがあり、その上に石を磨いて作ったような古いテーブルと椅子が置いてある。
中庭は日差しが入ってきているものの、木もそこそこあって木陰になっている部分も多い。
特に手入れはされていないようで、雑草や野花が生えていた。
なんだか山で暮らしていた頃を思い出して、この場所で勉強しようと思った。
誰も来る人がいないようで、机に少し塵が積もっていた。
特に拭けるものを持っていなかったので、どうしようかと考えていると、なんとなく違和感を感じた。
テラスの外に生えている木の上に、何かいるような気がしてよくよく見ると、サラサラした白髪が垂れていた。
近づいてみると、同じクラスの男の子が木の上で寝ているようだ。
柔らかい日差しを受けて白いまつ毛が光っているように見えた。
名前を思い出せず、なんと声を変えようか悩んでいると、彼が目を覚ました。
「………?」
「えっ、えっと……」
彼は寝ぼけた目でこちらを見ると、不思議そうな顔をしたままこちらを見つめた。
私もなんと言っていいのか分からず、彼を見つめ返すことしかできない。
彼の瞳は金色で、まるで宝石のようだった。
しばらく沈黙が続いたのち、彼がひょいと木から降りてきた。
「…迷子…?」
「あ、いや、そういうわけじゃない、です」
「…そう…じゃあ何か僕に用事?」
「いや、そうでもなくて…えと、あそこで勉強しようと思ってたら、誰かいたから…」
テラスの方を指さすと、彼はゆっくりそちらを見てから私に視線を戻した。
「…邪魔だった…?ごめん」
「う、ううん。そういうわけじゃないの、人がいたからびっくりしただけ。邪魔しちゃってごめん」
「…そう」
彼はそう言うと、木の出っ張りに足をかけ、勢いをつけて木の上にひょいと登った。
「…僕のことは気にしなくていいから」
そう言うと、体勢を整えてまた目を瞑ってしまった。
結局名前を聞きそびれてしまった。
とはいえ、今の目的は勉強場所の確保なので、一旦教室に戻って道具を拝借して、机と椅子を綺麗にした。
ここなら落ち着いて勉強できそうだ。
持ってきた教材を開いて勉強し始めると、あっという間に夕方になってしまった。
少し薄暗くなってしまったので、夕飯を食べて寮に戻ることにした。
白髪の彼の方を見ると、いつのまにか木の下に移動していたようで、幹に寄りかかるようにして座っていた。
彼は戻らなくて大丈夫なのだろうか。お腹は空いていないだろうか。
ふと、気になって様子を見ていると、彼が視線に気づいてこちらを見た。
「…どうかした?…何か困ってる?」
「いや、そう言うわけじゃなくて…えっと、そろそろ日が暮れるから、どうするのかなって。」
「…」
彼は小さく口を開け、少し考えてから視線を逸らしてしまった。
私も人見知りだと思っていたが、彼は私以上に人見知りなようだ。
でも、先ほどからこちらのことを気にかけてくれていて、悪い人だとは思えない。
「あ、えっと、そうだ!名前!私はエリナっていうの。えっと…ごめん、あなたの名前もう一回聞いてもいい?」
声をかけると、彼はまたこちらに視線を向ける。
「…フィオル…よろしく」
「フィオル、よ、よろしくお願いします」
私がお辞儀をすると彼も座ったまま会釈した。
「…僕、寮に戻るから…道、わかる?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
彼はわかった、というふうにこくんと頷くと、そのまま校舎の方へ戻って行った。
名前を忘れていたことに気を悪くしていないかと思ったが、どうやら杞憂みたいだ。
私も荷物をまとめて校舎の方に戻ったが、すでに彼はかなり先まで行ってしまったようで姿は見当たらなかった。




