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学園で生活し始めてから二週間が経った。
予定通り編入できることとなり、今日から制服を着て、他の人と一緒に授業を受けることになる。
正直、山奥で暮らしていた時も、それ以前も、知らない人と話した経験がほぼないため、とても緊張している。
ノアさんやクロ先生、シュカ先生は優しかったが、他の生徒はどうだろうか。
もし、仲良くなれたら、友達になれるだろうか。
闇魔法が嫌いな人ばかりだったら、そもそも話をすることもできないかもしれない。
そんな不安と期待で頭がいっぱいになりながら、まず私は職員室へ向かった。
魔法科は、その年の初めの魔力量によってクラス分けされる。
私は魔力量が多いらしく、一番上のクラスに入ることになってしまった。
とはいえ、来年からは成績も加味されたクラス分けになるそうだ。
一番上のクラスはA組。
なんと、そのA組の担任はシュカ先生だそうだ。
それもあって、ノアさんは魔力測定の時にシュカ先生を呼んでくれていたらしい。
職員室に入り、中を見渡すと、待っていましたとばかりにシュカ先生が手を振ってくれた。
私は一目散に先生の元へ向かう。
「おお、良かった。制服似合ってるじゃない!あら、なんだか前よりちょっと大きくなった?前はあんなに細っこかったのに、ちゃんと食べてるみたいで安心したわ。もっと大きくなるのよ〜!」
「は、はい…ありがとうございます。」
シュカ先生は満足げに頭を撫でてくれる。
思わず、嬉しくて口元が緩んでしまった。
「同じクラスの人にはエリナが闇魔法を使うってことはすでに言ってあるわ。自己紹介の時に言いづらかったら無理に言わなくていいからね。何かあったらすぐに私に言うこと。いいわね?」
「はい。ありがとうございます」
お辞儀をすると、シュカ先生はふふっと笑った。
「ほんと、同じ年の子と比べてしっかりしてるわね。感じの悪い生徒もいるかもしれないけど、ちゃんと仲良くなれる子もいると思うわ。そんなに不安がらなくても大丈夫よ、ほら肩の力抜いて」
そんなに緊張しているのだろうか。
言われた通り肩の力を意識して抜いてみると、意外と強張っていたことに気がついた。
「じゃあ、いきましょうか。私と一緒に教室に入れば大丈夫よ。私が自己紹介するように言うから、そうしたら名前と…あとはまあ好きな話をすればいいわ。好きな食べ物とか、うーん、あとは何があるかしら…出身とか、特技とか…?…ふふ、思いつかないなら無理に話さなくてもいいわよ」
シュカ先生の話に何を話そうか悩んでしまった。
食べ物も、最近は何を食べても美味しいし、出身は言っていいのかわからないし、特技も…これと言ったものが思いつかない。
「まあ、自分から話さなくても興味を持った子が話しかけてくれると思うわ。ほら、着いたわよ…大丈夫?」
かなり緊張してきてしまった。
慌てて深呼吸をする。
「だ、大丈夫です!」
「ふふ、じゃあ入りましょうか。」
シュカ先生の後に続いて教室に入ると、中には20人ほどの生徒が居た。
みな、一番上のクラスということもあって、属性の特徴が髪の色に出ている子が多くてわかりやすい。
ほとんどの生徒が様子を伺うようにこちらを見るなか、一人の栗毛の女の子がぱあっと笑顔になったかと思うと、こちらに手を振ってくれた。
ぎこちなく手を振りかえすと、別の席から睨むような視線を感じた。
そちらを向くと、氷のようなツンツン頭の男の子と目が合ったが、すぐにそっぽを向いてしまった。
「みんなおはよう。出席を取る前に、前に話した編入生を紹介しよう。エリナ、自己紹介をお願いできる?」
こくんと頷いて、大きく息を吸う。
「エリナです。えっと、仲良くしてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」
結局緊張して何も話が思いつかなかった。
勢いのままお辞儀をして顔を上げると、クラスの人が拍手をしてくれた。
「一応、みんなも名前だけ自己紹介をしてほしい。」
シュカ先生がそういうと、一人ずつ立ち上がって自己紹介をしてくれた。
とはいえ、人数が多くてさすがに全員は覚えきれなかった。
印象に残っていたのは、先ほど手を振ってくれた栗毛の女の子と、睨んできた氷頭の男の子だ。
栗毛の女の子はリーネというらしい。
氷頭の男の子は、シモンというらしい。彼は無愛想に名乗ると、一瞬睨んできてから席についた。元々そういう目つきというわけでもなさそうだ。
それからもう一人、真っ白な長髪の男の子が印象に残った。彼が動くと、なんとなく周囲の魔力が動いた気がして、驚いた。
「じゃあ、シュカの席はあそこだから、席について。今日の連絡事項は……」
シュカ先生に言われた通り席に着く。
シュカ先生が気を利かせてくれたのだろうか、リーネさんの隣の席だった。
朝礼が終わると、一限まで少し時間が空く。
「…ねね、エリナちゃん…だよね?なんかわかんないことあったらなんでも聞いてね!よろしくね!」
「う、うん…よろしく」
隣のリーネさんが話しかけてくれた。
彼女は彼女のふわふわの栗毛を体現したみたいな女の子だ。
それを聞いたのか、リーネさんの前の席の子が振り向いて話しかけてくれた。
「気をつけてね。この子、面食いなの。編入生ちゃんが可愛いから、友達になりたいってなったんでしょ?」
前の席の女の子は深緑色の綺麗な長髪をハーフアップにしている、少し気だるげな印象の子だ。
「そんなことないよ!?いや、そんなことはあるんだけど、そうじゃなくても声かけてたからね!?」
「まあ、それもそうでしょうね。エリナって呼んでいいかしら。私はヴェール。ヴィーって呼んで」
「う、うん。よろしく、ヴィー?」
いきなりちゃん付けでいいのだろうか、と思って呼んでみると、ヴィーは満足げに頷いた。
「私はリーネ!好きなように呼んでね!」
「え、えっと、じゃあ、リーネ?」
「うん!私もエリナって呼んでいい?それとも呼び捨ての方がいいかな?」
「エリナで大丈夫だよ」
「わかった!エリナ!」
ふんふん、とリーネは随分嬉しそうだ。
早速友達ができて私も思わずニヤニヤしてしまった。
ノアさんはしばらく遠出をすると言っていたが、帰ってきたら二人のことを話したいな、と思った。




