幕間 ノア視点1
学園を卒業して、一応、飛び級で成績優秀だったこともあり、水の神殿で大魔法使いの試練を受けてみないか、と先生に言われた。
大魔法使いというのはもっと経験を積んでからじゃないとなれないのではないかと思いつつ、進められるままに神殿に行くことになってしまった。
この国の大魔法使いは10人もいない。そんなものになれるわけがないだろうと思っていた。
各地にいくつかある水の神殿はこの国にもあるらしい。
神殿に着き、中にあった水鏡に触れると、『闇の大魔法使いを誕生させろ』と文字が浮かんだ。
魔物の討伐や、魔法の発明などが求められる試練の中では明らかに異常な内容だ。
それに闇の大魔法使いというのは、歴史上に記録されている限り存在しない。
どうしてこんな内容が僕の元に舞い込んできたのだろうか。
とはいえ、大魔法使いになれれば色々な仕事が舞い込んできて仕事は安泰だろう。神託を受けられただけでも、名前に箔がつく。それだけでも価値があった。
案外、きて良かったかもしれない、なんて思いつつ、せっかくなので試練を受けることにした。
幸い、魔物の駆除や魔道具製作でそれなりに稼ぎはある。空いた時間に少しずつ探してみよう。
国内では闇魔法の適性が高い人は見つからなかった。
数日かけて隣国へ行き、転移地点を探すと、いい具合の古いものを見つけたので、補強して使えるようにした。
この国では闇の魔法使いへの差別が特に厳しいと聞く。
さすがに街中で闇魔法を持つ人に出会うことはなかった。
気を取り直して、この国で『魔女狩り』をしているという教会に張り込むことにした。
教会は闇魔法使いを見つけると、そこそこの兵士を連れて声高らかに『魔女狩り』を行うのでわかりやすかった。
何度か『魔女狩り』から人を助けていると、教会から目をつけられてしまったようで、少し動きづらくなってしまった。
次の『魔女狩り』は西の山奥の魔女を捕まえに行くらしい、と聞き、先回りしてその山まで行くことにした。
補給をしようと思った街で顔を覚えられてしまったので、しばらく野宿をする羽目になった。
土地勘もない山を探索していると、そのうち食料が尽きてしまった。
そんな折、小さくて色とりどりの魔力を僕の魔力が映した。
ふよふよとこちらの近くを飛んだと思うと、着いてこいと言わんばかりに飛び始めたので、着いて行くことにした。
しばらく歩くと、果物のなる木が生える場所に辿り着いた。しばらく休んでから、果物に手を伸ばそうと歩き始めたところで、誰かがこちらへ駆け寄ってきた。
彼女は何か僕に小さな声で話しかけると、どこかへ行ってしまった。
しばらくすると戻ってきて、水や果物を口に運んでくれた。
何か話したかったが、声を出すこともできないほど朦朧としていた。
彼女は黒く澄んでいて、引き込まれてしまいそうな魔力をしていた。時折ゆらめいて反射するのが、星が煌めくようにも見える。
僕はかなり疲れていたのだろうか、食事が取れた安心感からだろうか、黒い宝石のような魔力を目にしたまま眠りに落ちてしまった。
次に目覚めると誰もいなかった。
眠ったおかげか頭が冴え始める。彼女が教会が追っている『魔女』だろう。
彼女のものであろう足跡を辿って山小屋へ行くと、誰もいないどころか、たくさんの足跡が残っていた。
薄汚れてしまったローブを水魔法で洗う。
足跡を辿って追いかけると、一つの馬車に辿り着いた。
転移地点に近づいてくれたのは暁光だったなと思いつつ、まずは彼女を助けなければ。
護衛は2人しかいないらしく、手こずりはしなかった。
道に置き去りになってしまう馬には水を出しておいてやった。通りかかった誰かが連れて帰るだろう。
馬車のドアをこじ開けると、中に見覚えのある魔力を感じた。
静かで深い、星空のような魔力。
神託は彼女を指しているんだろうと直感が言う。
彼女は黒い肩ほどまでのストレートボブで、服もツギハギだった。
話しかけてもなかなか目が合わない。
しかし、目が合うとその魔力に引き込まれてしまいそうだった。
闇魔法使いを恐れる人々がいる気持ちもわかった気がする。
とはいえ、彼女は魔法を使ったことはないらしい。
話していると、少しずつ心を開いてくれるようになった気がする。
それまで一人で暮らしていたそうで、外に出るのは久しぶりらしい。
穏やかでまっすぐな子だった。
この子なら、大魔法使いになれるだろうか。
当面は彼女の手助けをすることになるだろうか。
僕も、なんとも複雑な試練を与えられたものだ。
言ってしまえば他人任せの試練でもある。
そんな愚痴を言っても仕方がないので、できることをやるしかないか。
彼女が学園で励んでくれることを祈ろう。




