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それから私は、彼に案内されるまま、学園がある王都へ行くことになった。
久しぶりに街で買い出しをしたり、誰かの作った料理を食べたりした。
宿に泊まるのは初めてだったので、すごく新鮮だった。
なんだか現実味がなくて、嬉しいと思いつつもまだ夢なんじゃないかと思ってしまった。
この国のことについて、全く知識のない私に、ノアさんは色々と話してくれた。
この国では、闇の魔法は嫌厭はされるものの、魔女狩りのように問答無用で処刑されることはない。
とはいえ、そもそも闇魔法を使える人は少ない。
ノアさんのように、見るだけで相手の属性がわかる人はたまにいるらしいので、そういった人には気をつけるように言われた。
この世界には、火、水、土、そして光と闇の属性があると教えてくれた。
火は物の温度を変化させたり、火そのものを扱うことができる。
水は、水そのものを扱える。そして、人や物を自分の魔力に水鏡のように映すことで、詳しく分析することができる。
土は、植物を成長させたり、土そのものを扱うことなどができるそうだ。
ノアさんは水属性で、特に魔力が強いので相手の属性も見られる、とのことだった。
魔力が強い人は体にその属性の特徴が強く出る。
ノアさんのような見た目の人には私が闇魔法を使えるのがバレてしまうかもしれない。
特に問題はないが、嫌っている人も多いのでできれば知られない方がいいとのことだ。
王都までは一週間ほどかかった。
転移を使えばいいのではないかと思ったが、水魔法の転移は、川や海がない場所ではほとんど使えないらしい。
馬車に乗って向かう道中、ノアさんに聞いてみたことがある。
「どうして私のことを助けてくれたんですか?」
「あれ、話してなかったっけ?うーんと、僕が大魔法使いになるための試練が、『闇の大魔法使いを誕生させること』なんだよね」
「この国に闇の魔法使いって全然いなくて、いてもそんなに魔力がない人ばっかりでさ。でもそういう試練が課されてる以上、素質がある人はどこかにいるはずだと思ったんだよ」
「だから、いろんなところを飛び回って探してたんだ。お隣の国は『魔女狩り』なんてものをやってるから望みは薄いかと思ってたけど、逆に教会を張ってたら闇魔法持ちの子をたくさん見つけられたんだよね。さすがに処刑されちゃうのは可哀想だな〜って君以外にも2人こっちの国まで連れてきたんだけど…」
「君はかなり魔力ありそうだし、僕が大魔法使いにするべきは君だ!ってピンときたんだよね」
「でもまあ、君が大魔法使いにならないって言うなら、また探し回らなきゃいけなくなるなぁ〜…あ、でも君はほんとに好きにしていいんだからね、これは僕の問題だから」
と言って彼はニコニコとしていた。
彼は若く見えるが、大魔法使いを目指すと言うことはかなり優秀なのだろうか。
魔力量が多い人の特徴にも当てはまる。
それまではぼんやりと、向いていそうだったら大魔法使いを目指してみようと思っていたが、そう言ってもらえるなら頑張ってみようと、この時に覚悟が決まった。
「私、なります。大魔法使い」
そう言うと、彼は一瞬目を見開いて、それから眉尻を下げて微笑んだ。
「良かった。じゃあ僕もできるだけ手伝うよ。勉強は教えられると思うし…大変だと思うけど、気長に待つから」
これから学園で学んで、研鑽を重ねて、試験を受けて、となると確かにかなり時間がかかるかもしれない。
でも、できる限り早く、恩返しをしようと思った。
ーーー
王都に着くと、私は学園の宿舎の空き部屋に住まわせてもらうことになった。
学園は、14〜18歳までの子供が通うことができる四年制。
魔法科だけではなく、剣術科、商学科、薬学科、など様々な学部に分かれているので、かなり規模が大きい。
編入という形になるらしく、しばらく手続きに時間がかかるそうだ。
9月から授業が始まるので、3月の今はすでに一学期が終わってしまっている。
それまではノアさんが今までの内容を教えてくれることになった。
ノアさんはここの卒業生で、昨年、飛び級で一年早く卒業したそうだ。
一週間の移動を終え、そろそろ日も暮れ始めていた頃、知らない国での生活を不安に思っていた私を、ノアさんが宿舎まで案内してくれた。
「宿舎の人には事前に話してあるから、一緒に挨拶に行こうか。あ、そうだ、忘れるところだった」
そう言って、ノアさんは鞄の中からチャラリと音がする巾着と、青いペンダントを出した。
「こっちは当面の生活費として使って欲しい。もし足りなかったら教えて」
そう言って巾着を差し出される。
「で、でもさすがに受け取れないです」
そこそこな金額が入っているように思える。こんなにもらっていいのだろうか。
「いいんだよ。お金を稼ぐ時間があるなら早く大魔法使いになって欲しいってだけ。それに、変な使い方をする子じゃないと思ったから」
そう言われて巾着を投げ渡され、思わず受け止める。巾着がチャラリと鳴った。
「それとこっちは、言語翻訳のペンダント。水魔法の反射や魔力が対象を映す性質を利用して作ってある。僕も普段付けてるから、僕の近くで話す時は要らないけど、他の人と話す時に必要だと思うから」
そう言って、深い海のような色の楕円の綺麗な石が嵌め込まれた銀のチェーンのついたペンダントを差し出した。
受け取ってみると、かすかにひんやりとしていた。
「これからはそれを付けるといい」
それから、宿舎の管理人に挨拶をしてから、今日は解散になった。
「一応、今のところは1人部屋だけど、しばらくしたら相部屋になるかもしれないって。明日は学園や街の案内をしようと思ってるから、今日はゆっくり休んで」
「ありがとうございます」
私は彼に頭を下げると、彼は微笑んで手を振ってから宿舎を後にした。
もらった鍵と同じ番号の部屋に着くと、中には左右対称になるように、ベットと机と椅子、タンスが二つづつと、入口の方に洗面台がおいてあった。
1人で使っていいと言われたので、なんとなく、右の側のベットに腰掛けてみた。
事前に服屋に寄って、いくつか着られる服を買ってもらっていたので、それをクローゼットに掛ける。
ノアさんには何から何までお世話になってしまっているので、落ち着いたら何かお礼をしたいな、と思った。
ノアさんは去年卒業したと言っていたから、私の四つ上だろうか。何をあげるのが良いのだろうか。
考えていたらあくびが出てきてしまった。
思っていたより疲れが溜まっているのかもしれない。
夕食はここに来る前に済ませてあったので、部屋にあるシャワーを浴びてからベットに入った。




