20竜騎士
森の静寂を切り裂き、フィリップの体を眩い光の柱が貫いた。
光の粒子が収束し、白銀の鎧を纏ったような「竜騎士」の姿がそこに出現する。背中には光の翼を思わせるマントがたなびき、手にした剣は神聖な魔力を帯びて白く輝いていた。
「……冗談だろう。どうやら、俺らはとんだハズレクジを引かされたらしいな」
冷静さを欠いたシンの声が震える。隣のカイトも顔を引きつらせていたが、自暴自棄に叫んだ。
「そ、そんなの関係ないよ! 見た目が変わっただけでしょ。今のうちに叩き潰しちゃえ、シン!」
カイトが数枚のゲートをフィリップの足元に展開し、そこからシンの光波を流し込もうとした。だが、次の瞬間、二人の視界からフィリップの姿が消えた。
「――遅い」
音もなく距離を詰めたフィリップが、カイトの目の前に現れる。
「ひっ……!?」
カイトが咄嗟に二人の間にゲートを割り込ませ、フィリップの剣筋を逸らした。
ドォォォンッ!!
フィリップの剣が叩きつけられた地面は、まるで隕石が落ちたかのように巨大なクレーターを形成していた。その威力に、カイトとシンは全身に冷や汗を流す。
「化け物……本当に探偵かよ、こいつ……!」
二人は覚悟を決め、持てる全火力をフィリップに叩きつけた。四方八方のゲートから溢れ出す光の刃が、フィリップの体に次々と着弾し、激しい爆炎が森を包み込む。
「やった……これなら死んだはずだ!」
カイトが歓喜の声を上げる。しかし、煙が晴れた先に立っていたのは、傷ひとつついていない無傷のフィリップだった。竜騎士の加護を受けた鎧の前では、小細工のようなスキルは意味を成さなかったのだ。
「う、嘘だろ……化け物だ……化け物だあぁ!!」
恐怖に駆られたカイトに向かって、フィリップが無造作に剣を振る。直撃こそしていないが、発生した凄まじい風圧だけでカイトの体は木の葉のように吹き飛び、大木に背中を強打してそのまま意識を失った。
「カイト! ……貴様ぁ!!」
シンが必死の覚悟で横から切りかかる。だが、フィリップはその剣を指先一つ動かすような軽やかさで弾き飛ばすと、がら空きになったシンの腹部に拳を叩き込んだ。
「悪く思うな」
みぞおちに衝撃を受けたシンは、声も出せずに崩れ落ち、そのまま深い眠りについた。
二人が気絶したことを確認し、フィリップは深く息を吐いて変身を解除しようとする。しかし、その時。
グォォォォォ……!!
気絶したカイトのスキルが暴走したのか、周囲に開いた大量のゲートから、異形の魔獣たちが次々と溢れ出してきた。カイトが死んだときのために仕掛けていた、最後の保険だ。
「……執念深いな」
襲いかかる魔獣の群れに対し、フィリップは再び剣を構え直した。
一方その頃、教会から離れた荒れ地では、二つの影が激しく衝突していた。
いや、「衝突」と呼ぶにはあまりに一方的な蹂躙だった。
「はぁ……はぁ……、クソッ!」
ハルは息を乱し、膝を震わせながらキレウスを見上げた。
ハルの斧は、キレウスの重厚な大剣によってことごとく弾き返されている。ハルの体はすでに打撲と切り傷でボロボロだが、対するキレウスは呼吸一つ乱さず、無傷のままそこに立っていた。
「……こんなものか。貴様の力は、その程度の覚悟で燃えているのか」
キレウスが失望したように呟く。ハルは怒りに任せて斧を振り下ろしたが、キレウスはそれを素手で掴み取った。
「力も足りぬ。技も未熟。……そして何より、命を燃やす覚悟が足りん!」
キレウスの蹴りがハルの腹部にめり込む。ハルの体は砲弾のように飛び、背後の大木に深々とめり込んだ。
「……がはっ……」
頭から暖かい血が流れる。視界がかすみ、意識が遠のいていく。
半覚醒の状態を維持する限界時間は、とうに過ぎていた。右目の赤色が消え、元の黒色に戻っていく。
「やはり、貴様も我の求める『強者』ではなかったか。……期待して損をした」
キレウスが背を向け、去ろうとする。
ハルは、薄れゆく意識の中で激しい悔しさに身を焦がしていた。
無力。また、誰も守れずに終わるのか。神父を捕まえられず、アイリスさんやフィリップさんに迷惑をかけ、自分はここで野垂れ死ぬのか。
(……使うしかないのか。あの『スキル』を)
ハルの中に眠る、真の力。
それはハルを不幸にする呪いのような力だ。誰も得をしない、ただ壊すためだけの異能。
今まで、周りに迷惑をかけるのが怖くて封印してきた。
だが、今ここには誰もいない。このキレウスという怪物を止められるのは、自分しかいない。
「……迷惑、かける相手も……いねえよな……」
ハルはふらつきながら、ゆっくりと立ち上がった。
背中を向けたキレウスが、不意に足を止める。
――ゾクッ。
戦士としての本能が、キレウスの背筋を凍らせた。
背後から立ち上る、禍々しいオーラ。
キレウスが驚愕と共に振り返ると、そこには血まみれのまま、力強く大地を踏み締める少年の姿があった。
「ほう……。まだ立ち上がるか」
ハルがゆっくりと顔を上げる。
その顔に、もはや迷いはなかった。
右目だけではない。
今、ハルの「両目」が、深い闇の中で不気味なほどの鮮血の赤色に染まっていた。
「……お前誰だ?」
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