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幻想にさよならを  作者: 猪西
第一章 見習い編
19/23

19変身


 夜空に穴が開いたかと思うと、暗闇の中からハルの体が放り出された。

 ハルは、地面の衝撃を逃がしながら、しなやかに着地を決める。


「……危ねぇ。半覚醒の状態じゃなきゃ、今ので足の骨が折れてたぞ」

 

 荒い息を吐きながら周囲を見渡すと、遠くに小さく、先ほどまでいた教会の尖塔が見えた。どうやら、絶望的な距離まで飛ばされたわけではないらしい。

 

 ハルが教会の方向へ駆け出そうとしたその時、背後の闇から低く、地を這うような声が響いた。


「――お前が我が相手か」

 

 ハルは弾かれたように振り返った。

 大きな木の根元に、一人の大柄な男が座っていた。男は夜の闇に溶け込むような黒いローブを纏い、その胸元には奇妙な紋章が刻まれている。天秤の皿の片方に「羽根」が、もう片方に「蛇」が乗った不気味な印だ。

 男がゆっくりと立ち上がる。その動作一つ一つに、鍛え抜かれた戦士特有の威圧感が宿っていた。


「我が名はキレウス。己を研磨する刃を求める者なり」


 男は真っ直ぐにハルを見据え、その瞳に宿る闘志を隠そうともしなかった。


「お前が我が求める『強者』かどうか、その身で確かめさせてもらう!」

 

 キレウスは暴風のような勢いでハルに飛びかかってきた。ハルは驚きながらも、本能的に横へ飛び退いて拳を躱す。キレウスが踏み込んだ地面は、衝撃で大きく陥没していた。


「……ッ! お前も神父の仲間か!?」


「仲間、か。……それは、お前が我に勝てば知れることよ。問答は無用、全力で来い!」


 キレウスは再び鋭い踏み込みを見せる。ハルは「クソッ!」と毒づき、右目を赤く染め、戦斧を強く握りしめた。

 

 同時刻、教会の中では、アイリスの横に立ったフィリップが冷徹な殺気を放っていた。

 神父が、苦々しげに顔を歪めて問いかける。


 「……貴様は何者だ」


「ゴミに答える名前など持ち合わせていない」


 フィリップは吐き捨てるように言い放った。その言葉に、神父の眉間が怒りでピクリと動く。


「……さて、アイリス。どうする?」

 

 フィリップがアイリスに視線を送った、その瞬間だった。

 フィリップの姿が掻き消えるように消滅した。それと同時に、教会の扉にいたシンとカイトの二人組も、歪む空間の中に姿を消す。

 アイリスが周囲を警戒し、神父を睨みつけた。神父は懐から小石を取り出し、アイリスに向かって無造作に放り投げる。


「フンッ!」

 

 アイリスが仕込み刀の鞘で石を弾き飛ばすと、石は空中で火花を散らし、小規模な爆発を起こした。


 「……あらら」


「女。お前の相手は私一人で十分だ。さっきの男は、あの二人が始末してくれるだろうから、安心していいぞ」

 

 神父の余裕ぶった態度に、アイリスは冷静に刀を抜き放ち、剣先を神父の喉元へ向けた。


「あら。わたし的には、あの二人も含めた三体一の方が楽しめたのだけれど。あなた一人じゃ、私の稽古相手にもならないわよ?」


「……戯言をッ!!」


 神父の顔から余裕が消え、教会の中に無差別な爆発が巻き起こった。

 

 一方、フィリップは教会のすぐ近く、深い森の入り口へと飛ばされていた。

 霧が立ち込める静かな森。その静寂を切り裂くように、背後から鋭い光の刃が飛来した。

 フィリップは後ろを向いたまま、首をわずかに傾けてそれを躱す。


「おっ、驚いたなー。まさか後ろを向いたまま、シンの『光波』を躱すなんてね!」

 

 木々の上から、カイトの陽気な声が聞こえてくる。その隣には、無表情のシンが剣先から光を散らして立っていた。


「……無駄口はいい。さっさと終わらせるぞ、カイト」


「はいはい、分かってるよー!」


 カイトが手を振ると、フィリップの真横に小さなゲートが開いた。そこからシンの放った光の刃が、予想外の角度で飛び出してくる。

 フィリップは流れるような動きでそれを躱すが、次々と彼の周囲にゲートが出現し、死角から光の刃が嵐のように降り注いだ。

 

 前後左右、上下。全方位からの波状攻撃。

 しかし、フィリップはその全てを、まるで未来を知っているかのような最小限の動きで躱し続けていた。


「すごいすごい! 僕たちのコンビ技を初見で全部躱すなんて、お兄さん相当強いんだね!」


 カイトが感心したように声を上げる。しかし、その声には残酷な響きが混じっていた。


「でも、逃げてばっかりじゃ勝てないよ? まあ、その方がこっちは楽でいいんだけどさ」


 それに対し、フィリップの口元が不敵に歪んだ。


「お前らの連携……ゲート使いのお前が俺の死角を狙い、光波のスキルで攻撃をする。単純だが厄介なやり方だな」

「……だが、残念だ。あまりにも、弱すぎて話にならない」


「なんだと……!?」

 

 カイトの顔に苛立ちが走る。激昂してゲートをさらに開こうとするが、隣にいたシンが鋭く叫んだ。


「カイト、来るぞ! 構えろ!」

 

 フィリップが静かに剣を抜いた。

 その瞬間、剣の刀身から淡い光が溢れ出し、一匹の小さな、透き通るように白いドラゴンが現れた。それはフィリップの肩の周りを優雅に舞い、キン、と澄んだ鳴き声を上げる。


「……まさか、それは……『精霊獣』か!?」

 

 シンの声が驚きで震える。精霊の中でも、実体を持って戦うことができる最高位の存在。


「クズでもそのくらいの知識はあるみたいだな」

 

 フィリップの横で舞う白いドラゴン。その存在だけで、周囲の空気が神聖な重圧に包まれていく。フィリップは二人を見据え、氷のような声で告げた。


「おい。お前ら、少しは頑張れよ。……さもないと、一瞬で終わるぞ」


「……カイト、気張れ! 死にたくなければ全力だ!」

 

 シンの制止も聞かず、カイトが狂ったようにゲートを展開する。

 それを見つめながら、フィリップは静かに呪文を唱えた。


「――変身」


 白いドラゴンが光の粒子となってフィリップを包み込む。

 森の中に、眩いばかりの光が満ち溢れた。



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