卒業
快晴の今日、皇立アカデミー卒業の日。
愛おしい番に逃げられたクロード殿下に伴う形で留学したのは去年の事。
3年間のモラトリアムとなるはずが、1年の過酷な勉強づけの日々だった。勉強が得意なユリウスにとっては苦にもならなかったが、脳筋エドワードにとっては実に大変そうだった。
そのエドワードが単位を無事取れるようにサポートしたのも今となっては楽しい想い出だ。
皇国の春は淡い紫の花が咲き乱れる。
朝焼けの淡い紫からピンクのグラデーションの空を紫の花吹雪が舞う光景が美しい。
この光景も今日で見納めか。
隣で眠る黒豹の獣人エドワードが眠たげに身動ぎする。
身動ぎしたせいで、掛布がめくれしなやかな筋肉に覆われた身体が露わになる。
朝日に照らされ、筋肉のラインの凹凸が際立つ美しい肢体に目を奪われる。
くぅー、これが男の色気なのか?子供の頃から見慣れている男の僕でさえ見惚れるくらいなのだから、そりゃ女性陣がメロメロになるはずだよな。
男らしく短く刈り上げた黒髪に切れ長のキリッとした瞳が素敵って、この国でも人気だもんな。
去年、エドワードがいきなり発情した時はやばかった。外で少し発散してくるって言ったエドワードを引き留めたのは、心の奥底に巣食う恋心ゆえだったのか。
以来、黒豹の溢れる性欲を受け止めてきた。こんな、ただれた性活も今日で卒業だ。
エドワードと結婚すると信じていた子供の頃には戻れない。実は文官トップの我が宰相家と武官トップのエドワードの家の関係は険悪だ。
それに我が国では同性婚は認められていない。
そもそもエドワードとは性欲処理だけの不毛な関係。
エドワードへの想いは心の奥底へ閉じ込めて封印してしまおう。
帰国したら、エドワードは豹獣人としてハーレムを作るだろうし。僕は宰相家の次期当主として政略的に有利な妻を娶らねばならない。
この1年彼を独り占めできた幸せだけをかみしめて生きよう。
エドワードが眩しげに眇めた瞳がこちらを捉えた。
「ユリウス」
低く掠れた声すら男の色気になるのか。このフェロモンだだ漏れスケコマシ野郎め。
何だか無性に腹立たしくなって、そっぽを向いた。
グイッと二の腕を掴まれてベットの中に引き戻された。
「エドワードっ」
せっかく整えた髪が無駄になるじゃないか。抗議しようとした口を塞がれた。コイツは……。すぐ盛りやがって。
「ユリウス……」
おねだりするような視線にユリウスは屈した。昔から、エドワードのおねだりには弱い。惚れた弱みだよな。
「あとで、ブラッシングしろよ。」
「完璧にしてやるよ。だから、俺のも頼む。」
コイツは自分のブラッシングは面倒くさがって、僕にさせるくせに、意外と器用でユリウスの絡まりやすい細い髪も綺麗に整えてくれるのだ。
本当はブラッシングって親子か番同士がする行為だからな。僕は、お前の母親じゃないんだからな。
どさくさに紛れて、エドワードのビロードのようなすべすべのちいさな耳に触れた。可愛い。獰猛な瞳で自分を組敷いている野獣が愛おしくてならない。
神様、これが最後だから、だから……。
ちらりと枕元の時計に視線を走らせた。卒業式までまだ時間はある。
ユリウスは、エドワードに身を委ねた。