第二十八話 繋いだ手の未来(4)
「……カナデ! ソフトクリーム総選挙だって! すごいすごい、どれも美味しそう。ねえ、どれから食べに行く?」
「ミナったら、はしゃぎすぎじゃない……? それに、そんなに食べられないでしょ……」
翌日。修学旅行の最終日は、空港での自由時間に充てられていた。巨大な空港にはたくさんの店が入っていて、見て回るだけで、時間なんてすぐに消えてしまいそうだった。やっと二人で観光ができる嬉しさで、わたしはカナデの手を引いて辺りを歩き回っていた。
「ミナ、全部は絶対無理だから。いくつか行きたいところ厳選して」
「ええ……牛乳ソフトだけでもめちゃめちゃ種類あるし、メロンも捨てがたい……この動物が乗ってるのも可愛いし……悩む……」
柱に貼られたソフトクリーム総選挙のポスターと睨めっこしながら、真剣に考える。そんなわたしを、カナデはたいして興味無さそうに眺めていた。
「お土産も買わなきゃいけないんでしょ? あんまり時間ないよ」
「そういえばそうだ。うーん……どうしよう……」
「もう適当でいいでしょ。行くよ」
カナデがぐいぐいと腕を引っ張る。わたしは名残惜しさを感じながらも、カナデに手を引かれて歩き出した。人混みの中、たくさんの人とすれ違う。中には、同じ制服を着た同級生も。でも誰も、わたしたちのことを気に留めなかった。旅の終わりの浮かれた空気が、繋いだ手を自然に見えなくしてくれた。
結局、わたしたちはソフトクリームを三つ平らげ、たぽたぽになったお腹でお土産を吟味し、お揃いのぬいぐるみを買って笑いあった。帰ったら、カナデのくれたアザラシのぬいぐるみの横に並べる予定だ。飛行機に乗り込むとき、わたしはカナデの隣の席で過ごした最後のひとときを、ずっと忘れないように心に刻もうとした。
「ようこそ、東京へ」なんて書かれた到着口を潜り抜け、そのまま空港で解散となる。やっと解放されたわたしたちは、夢が醒めるのを拒むように、しばらく手を繋いだまま歩き続けた。空港内を散策して、途中でカフェに寄り道をして。二人きりの時間はあっという間に過ぎ去って、スマートフォンを見ると良い頃合いの時間になっていた。
「……そろそろ帰ろうか」
時間を気にしたカナデが、わたしの手を取った。わたしも仕方なく微笑んで、席を立つ。楽しい時間はいつか終わると分かっていても、やっぱりどこまでも寂しかった。
「……ミナ、そんな顔しないでよ。大丈夫。これから先、ずっと一緒にいられるよ。二人でさ……たくさん思い出作ろう」
宥めるようにカナデは言ったけれど、そのあとに小さく「……まあ、気持ちは分かるけど」と呟いた。カナデも同じ気持ちなのが嬉しくて、握った手に力を込める。カナデも確かに、五本の指でぎゅっと握り返してくれた。
家までの帰路は、カナデの隣にいてもちょっとだけ涙が出そうだった。でも……隣にいるこの手があれば、また明日からの毎日も、きっと少しだけ優しくなる。