第二十六話 修学旅行と恋の魔法(6)
ギリギリの時間に彩芽たちと合流し、途中わたしたちを追い抜いていたらしい澪音から「ちっ。デート満喫してんじゃないわよ」と睨まれる。カナデは何も言い返さず、どこか余裕のある表情のまま、わたしの横に立っていた。
「美奈ちゃんがいなくて寂しかったよ。まあでも……彩芽と二人のデートも、悪くなかったよね」
「凪ちゃん、何言ってるの? いいから、もう行くよ」
凪が彩芽の肩を抱こうとすると、彩芽は身を翻してその腕を避ける。でも、その頬が少しだけ赤くなっている気がするのは……どういうことなんだろう。自分が恋愛の当事者になってから、他人のそういった行動に少しだけ敏感になった気がする。
そのまま五人で目的地であるお店を目指し、ガラス作りの体験を行った。器用なカナデはガラス作りですら簡単にこなし、ストローのような吹き竿に丁寧に息を吹き込んでいて、誰よりも綺麗な形に作り上げた。さすが、トランペットをやっているからそういうのも上手いのかなと思ったら、澪音のものは不格好で、楽器の上手さはあまり関係がなさそうだった。わたしのは……息を入れ過ぎたらしく、ボウルのように真ん丸になってしまったけれど、カナデが可愛い形じゃんと励ましてくれた。
班行動を終え、バスに揺られてホテルに着く。学校が貸し切ったホテルは普通のシティホテルで、部屋割は二人組か三人組だった。正直、大部屋じゃなくて助かった。大部屋だったら居心地が悪すぎて、わたしたちはどうやって過ごしていたか分からない。部屋に着くなりカナデは片方のベッドに勢いよく倒れこみ、疲れたと言って動かない。わたしはそんなカナデを眺めつつ、スマートフォンを開く。画面を見ると、メッセージアプリに通知が来ていた。
『おっす~美奈氏、楽しんでる? こっちは日菜子氏と柊氏と一緒の部屋で、お菓子めちゃくちゃ持ってきたから、後で松波奏と一緒に遊びにおいで~。部屋は634号室だから、ムサシで覚えてよ!』
若葉から送られた吹き出しについ笑ってしまい、カナデに声を掛ける。寝ぼけたカナデは適当な返事をしていたけれど、若葉に『あとで行くね』と返して画面を閉じた。それから、夕食の時間になっても寝ているカナデを叩き起こし、バイキング会場に足を運ぶ。色とりどりの料理が並んでいて、全部食べたいくらいだったけれど……あんまりお腹を膨らませたら、あとで困る。そう思って、少しだけお皿に取った。
「ミナ、少なくない?」
わたしのお皿を見て言ったカナデに、まだあんまりお腹減ってないのと嘘をつく。本当は、たくさん食べると下腹がぽっこりしてしまうから、自重しなければいけない。だって、この後……お風呂に入らなきゃいけないし。
腹五分目くらいで部屋に戻り、荷物を漁ってお風呂に入る準備をする。部屋にもお風呂があったけれど、ホテルの最上階には大浴場があった。カナデがどちらに入るかは聞いていないけれど、大浴場に一緒に行こうって言われたらどうしよう。当のカナデは再びベッドの上に寝ころんで、穏やかな寝息を立てている。