第二十六話 修学旅行と恋の魔法(1)
廊下を歩くたびに、同級生たちの好奇の視線が背中に突き刺さる。
「あの子が、狂犬の澪音と喧嘩した……」
「不良の松波の友達だし……」
「狂犬の春日……」
ひそひそと繰り広げられるそんな会話に、なんだか背筋がぞわぞわとする。横を歩くカナデは声の主をいちいち睨みつけていて、わたしはその度にカナデの腕を取って、「大丈夫だから」と引っ張った。カナデが横にいてくれるから、どんな噂も耐えられる。
元々有名人のカナデは、きっと一年生の頃からこんな思いをしてきたのだろう。こんな噂、すぐに消えてくれたらいいのにと思うけれど……今までも別に学校が居心地良かったわけではないのに、更に肩身の狭さを感じてしまう。
「ミナ……」
何か言いたげにわたしを見つめているカナデに笑いかけ、脚を進める。何を言われても、わたしは大丈夫。そう思っていないと、いつかぽっきりと折れてしまいそうだった。
「カナデったら、そんな顔しないでよ。それにしても、“不良の松波”……カナデって最近全然サボってないし、なんだか不良感がなくなってきたね」
そんな冗談を言って、カナデの気を逸らしてみる。去年から不良として名前を轟かせていたカナデだけれど、二年生になってからはちゃんと毎日学校に来ているし、授業も受けているし、成績は優秀だし……ちょっと喧嘩っ早いところを除けば、すっごく優等生なんじゃない? むしろ、取っ組み合いの喧嘩をしたわたしのほうが、問題児で不良なのかもしれない。
「……別に元々不良じゃないし。それに、ミナがいなかったら、こんなところに好き好んで来ないよ」
「なにそれ。でも、わたしがいなくても、ちゃんと学校には来ないとだめだよ? 留年しちゃうよ?」
「そういうミナだって、去年はたまに遅刻してたでしょ? ミナも不良だ」
顔を見合わせて、お互いに笑った。やっぱり、わたしも不良か。そういえばそうだなあ。ここ最近はカナデと朝一緒に登校することで、わたしの遅刻癖もだいぶ改善されていた。カナデと二人で、このまま皆勤賞も目指せちゃうかもしれないな。
笑いながら、カナデは制服のネクタイを緩める。「こうしたら不良っぽいんじゃない?」と言い、わたしはその背中を軽く叩いた。わたしたちは、傍から見たら、問題児兼不良二人組なのかもしれない。まあ、もうそれでいっか。
誰にどう思われようと、カナデが一緒にいてくれる。それだけで、学校に来る理由になる。背中に貼り付けられた勝手なレッテルなんて、どうでもいい。不良とか、狂犬って呼ばれたって構わない。カナデが隣にいてくれるなら、それだけで、わたしは歩けるんだ。