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夜風


 ・・・・・・・・・・・・・






 ・・・・・・・・・・・・・






 ・・・・・・・・・・・・・




 静寂の中、私達が来た方向から大きな音が聞こえました。






 ドクン・・・・ドクン・・・・・。






 またも動悸が・・・・・。






 振り向くハク・・・・・。目を大きく見開いています・・・・。






 いつもの凛としたハクの雰囲気ではなく、冷や汗をかき、不安でした、私の心の中は恐怖と不安しかありませんでした。






 蛇に睨まれた蛙状態。戻る事も、前に進むのもおぼつかない状態でした。






ハク「・・・お父ちゃん・・・・・。」










ダマテ「ちっ!・・・もう来たのか・・・・。思ったよりかなり早いな・・・。ハク、とにかく俺達はこの先にある山に向かうんだ。山なら身を隠せるし、かなり遠回りにはなるけど、山の向こうにペンさんが昔使っていたボートがあるはずだ。聞いた事がある。」






ハク「・・・ダマテ、無理なのかな?・・今戦っても。」






ダマテ「・・・ハク、おやっさんが何のために体を張ってくれたと思う?おやっさんの娘だろ?・・分かるだろ意味が。」






ハク「・・・・うん・・・。」






 悲しさと悔しさで勝手に涙がこぼれてきます・・・・。こんな感情のままこの島から逃げる事なんて出来るのでしょうか・・・・。






 ダマテは・・・自分だけはしっかりしようと・・・・どんな時も自分だけは・・・・・。最後に父から頼まれたのです。「娘を守ってくれ」とただその一言だけ。その時確信しました・・・。おやっさんはもう・・・・死ぬんだ・・・。決心してるんだ・・・。






 どう考えても・・・死ぬんだ・・・。俺がそのおやっさんの意志を継いでいかなくてはいけないんだと・・・・。






ダマテ「・・・気持ちは一緒だ。必ず、いつか必ず・・・・あいつらに一矢報いよう。やり返してやろう。・・・・ノブハラ達もいるんだ、どうにかなるさ。」






 2人で坂道の先にあるこの島の山へ急ぎました。






 ・・・・・・・・・・






 ・・・・・・・・・・






 一方・・・・・・・・












 海岸側にて・・・・・・。






ノブハラ「・・・・・・」






ハネダ「・・・・・・・・」






アリタ「・・・・・・」






 島の異様な様子に身を隠しながら慎重に動いている3人が居ました・・・・。






ノブハラ「この山の向こうに、ペンさんが使っていたボートがあるって聞いた事があるんだ。」






ハネダ「俺も聞いたことある。」






アリタ「そのボートに乗って、ハクと一緒に逃げる・・・・。」






ノブハラ「そういうことだ。恐らくダマテの兄貴と一緒にハクもそのボートに向かっているはずだ。」






ハネダ「みんな、シッ・・・・ちょっと待て。誰か来た。」






 スーツ姿の集団がこちらに向かって歩いてきました。






ノブハラ「ん?・・・・・・・・」






ノブハラは・・・固まりました・・・・・・。






アリタ「ノベタン?・・・どうした?」






ノブハラ「・・・・は・・は・・・ハイバラだ・・・・。ハイバラが来てやがる・・・・・。」






 目の瞳孔が開き、ノブハラは完全に固まります・・・・。






ハネダ「ノベタン?・・・隠れろよっ・・・・」






 ハネダはノブハラの頭を無理矢理抑えつけて、3人で岩場に隠れました・・・・。






ハイバラ「ほんとにネズミみたいな奴らだよな・・・・。完全に身を隠しやがった。これだから田舎者は苦手なんだ。」






イツキ「・・・ダマテと、威勢の良い小僧に、デブとノッポ。そして娘のハク。全員で5人逃げてますね。・・・兄貴、2手に分かれますか?・・・」






ハイバラ「・・・そうだ・・・・。俺はなんだか少しやり残したことがあるから、一度街に行く。イツキ達は海岸側を頼む。」






 ハイバラは来た道を戻り、歩き始めました。






イツキ「分かりました。どうせ船に乗って逃げるんだから海岸を見張っといて間違いないですね。・・・・アカマツとテンは西側で、俺とサキヅカは東側だ。えっとな・・・5人居るうちの、特にダマテってのには充分気を付けろ。リーダー格だ、容赦するなよ。俺達がこの島に来てんだ、奴らを逃がすなんて事は許されねぇからな。」






他の3人「はいっ!」






アリタ「やばいな、こっちに来るぞ。」






ノブハラ「舎弟のイツキまで来てやがる・・・・・。」






 街灯ではっきりと顔が見えました。あの顔・・・ノブハラにとって人生で一番残酷な出来事に関わっていた人間・・・・。忘れるわけがありません・・・・。






ハネダ「ノベタン・・・なんかさっきから、あいつらを知ってるような感じだけど??」






ノブハラ「・・・ハイバラは・・・昔、俺の兄貴がやっていた店を潰したんだ。兄貴はあいつに・・・騙されてたんだ。・・・・その後兄貴は行方不明・・・。・・・・とんでも無い奴が島に来ちまった・・・・。」






ハネダ「お、お兄さんの?そういう事だったか・・。・・・・俺達だけでやれるか?あいつを・・・。」






ノブハラ「・・・・ここは俺達も街に出よう。ハイバラが1人で向かった方向に行こう。あいつを倒さないと、俺達の島がとんでも無いことになってしまう・・・・。幸いイツキや他の連中と別れて海岸側に来ているから、今なら1人のはずだ。」






 ・・・・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・・・・












 3人は岩陰を伝って、なんとか街側に出ました。






 身を屈めながら、早歩きでハイバラが向かった方向に急ぎます。






ノブハラ「確か・・・こっち側に向かっていたような・・・・。広すぎて向かった先がわからねぇな。」






アリタ「ノベタン、3人かたまっていると隠れる事も出来ないし、街中だと目立ちすぎる。ここは一旦バラバラになって、15分後に俺達しか知らない『隠れ家』に集合しよう。」






 アリタの案で3人が散り散りになり、ハクとハイバラを同時に探すことになりました。結果はどうであれ15分~20分後には必ず島の地図や様々な道具を置いている隠れ家に集合する事を約束しました。敵の位置と、ハクの位置を知る事が重要です。ハクを見つける事が出来ればその場で連絡し、ハクを守る為に合流する事になります。






 ノブハラは会社の方面、アリタは島の中心街方面、ハネダは自分たちの寮の方面へそれぞれ向かいました。






ノブハラ(ハイバラ・・・・・どこ行きやがった・・・・・。ノコノコと俺達の島に・・・・あの野郎・・・・。)






 ・・・しかし先程から変な匂いがこの付近に立ち込めているのでした・・・。なんの匂いでしょうか?・・・・






 ・・・・・・・・・・・






 パチパチ・・・・・・パチパチ・・・・・






 街灯もさほどないのに・・・・こんなに明るい・・・・・。






ノブハラ「・・・・・まさか・・・・会社が?!」








 まさかと思い、路地を変えて見上げると・・・












 ・・・・俺達の会社が燃えていました・・・・・。燃えさかっていたのです・・・・。






ノブハラ「う・・・嘘だろ・・・・・・・。」






 その場に手をつき、絶望しました・・・・・。これでもう戻る場所は無くなりました・・・。






 ・・・・・・・・・・






 ・・・・・・・・・・






 ポタ・・・ポタ・・・・






 肩に触れる水滴・・・・・。






 大泣きのノブハラはその異様な手触りの水滴、取れない汚れに気付きました。






ノブハラ「・・・・!!!!・・・・・・」




 ・・・・・・・・・・・・






 ・・・・・・・・・・・・






 ・・・・・・・・・・・・






 ・・・・・・・・・・・・






 ・・・・・・・・・・・・

 





ノブハラ「・・・ペンさん!!!」




 うっぼ!・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・






 ペンの亡骸は、空き家の屋根に吊るされていました・・・・・。






ノブハラ「ああああああああああああ!!!!!・・・・ペンさん!!」






 取り乱し、激しく嘔吐し、頭を抱え込みその場に倒れこんでしまいました。






 地面を思い切り殴っているノブハラ・・・・。








ノブハラ「・・ペンさん・・・・ペンさんが・・・・・。・・くぅっ・・・・・。なんで・・・・」






 涙が一気に溢れ出して、目から零れ落ちました。






 ペンとの思い出が頭の中を駆け巡ります・・・・。








 しかし、泣いても誰も助けてくれることはありません。








ノブハラ「あんまりだ・・・・・酷すぎる・・・。・・・・・何もそこまでしなくてもいいじゃあねぇか!!・・・ペンさんが何したって言うんだ!!・・・俺達が何したって言うんだ!!・・ただ仕事をしていただけじゃあねぇか・・・・・。たったそれだけで・・・・ペンさんは・・・ペンさんは・・・・・。怖いけど、愛情がある良い人だったのに・・・・・。・・・悪魔だ・・・・あいつは悪魔だ・・・・。醜悪だ・・・・。」






 元々、上司のペンから何を頼まれていたのか、冷静になり、特にリーダーのノブハラはそれに気づかなくてはいけませんでした。特化しなければなりません。特化する事が出来ないのであれば、もう目前に迫って来ている強大な敵を倒すことは出来ないのです。


 ペンは初めから分かっていました。






 この場でいくら号泣しようが、むせび泣いても、状況が変わる事は一切ありませんでした。


 戦いの始まりをノブハラは3人の中でいち早く確信しました。いつもとなんだか違う、異様なこの島の空気を感じながら、若者達は今宵、大きく生暖かい夜風を切っていました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 緊張感と危機感が強く描かれ、ハクの恐怖とダマテの冷静さの対比が際立ち、彼らが直面する危機の深刻さが伝わります。ノブハラの過去の因縁が再び浮上し、ペンの死に絶望する彼の姿が印象的。 人間の脆…
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