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赤い光

 一本の赤い蝋の光が灯る。間をおいてまた一本、一本と襖で仕切られた部屋に蝋燭が灯っていく。


 薄っすらと浮かぶ二つのシルエットは背丈こそ違うものの成人に近い人のものだったが、影は一部が繋がり時折影の角度によっては一つのシルエットに見えた。


 連なる影はゆったりとした足取りで進み、やがて一番奥の蝋が照らす灯りの元で止まった。影は分かれ向かい合い、やがてまた一つになった。


 淡い光が照らすのは二人の若者だった。そして、寄り添い合う二人は男女だった。総髪の男は照れているのを隠すように曖昧な微笑みを浮かべている。凛とした光の宿る黒目は力強く、しかし奥の方に慈愛に満ちた優しさをたたえている。対する女の髪は腰ほどまでに長く、男の瞳を見つめる視線には情熱が溢れていた。


 男が手を伸ばすと、女はそっと手を握る。男が歩めば女も足を前へと進める。今は二人しかいない部屋の中では畳を踏む音と二人のピタリと合わさった息遣い、それに静かに燃ゆる火の音しか聞こえなかった。


 不意に、男は女の身体を抱き寄せた。赤い光に映し出された女の驚喜の表情は、一枚の絵のように美しかった。





 ──火が燃える音が弓弦の混濁した意識をふっと浮かび上がらせた。揺れる視界と朦朧としたままの意識の中でまず感じたのは押し込められていた部屋が明るいということだった。


「うあっ……あっあっ」


 言葉にすらできず感情をそのまま声に出して放出するとずっと浸かっていた暗闇に抵抗するように手、腕、足、脚と少しずつ体を前へ前へと動かしていく。


 弓弦の沈んだ瞳に僅かに光が灯る。それは、上の部屋へと続く階段から漏れ出る赤い光だった。


 ようやくハイハイを覚えた赤子のように必死に四つん這いになって光の先へと向かおうとする弓弦の前に白い衣装を纏った足が現れた。骨の形が分かるほどにやけに細く色白でアザだらけの足だった。しかし目だけをぐっと上げて見ればその足は消えていた。


 次に進めば今度は制服を着た少女の姿が朧気に現れる。切れ長の瞳でどこか人を寄せ付けない冷たいオーラを纏っていた。少女が伸ばした手を掴もうとしたが、手が触れる直前にまたその姿は消えてしまった。


 弓弦は突然動きを止めた。急にむせて激しい咳が出てしまったのだ。何度も咳を繰り返して、深く息を吸い込んだ。


 見慣れた手が目の前に差し出された。もう一度手を掴もうと上げた顔が硬直する。「あの目」が自分を見ていた。体が強張り、麻痺したように力が入らない。


 今度は幻影は消えてくれなかった。いつまでもそこに弓弦に纏わりつくようにそこにいた。


 燃え盛る炎の音は大きくなり、光が強くなる。視界が急に黒い靄のようなものに包まれて、弓弦の意識は急激に遠のいていった。

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