この一瞬
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県大会の1回戦を突破し、日陰でポカリスエットを飲んでいるこば・・・。
午後には2回戦が始まります。
監督から呼ばれ、普段ショートを守るナナイも次の試合リリーフピッチャーで投げるように指示がありました。交代のタイミングは監督が決めるとの事。こばはナナイが投げる時は代わりにショートに入る事になりました。
深津「ナナイさん、少し投げときましょう。」
ナナイ「おっしゃ、そうしよう。」
投球練習を始めるナナイと深津・・・・。
こばは午前午後と連投になる上に、次の相手は今年の代替わりで急激に強くなったチームでした。今回も気が抜けません。
少年野球では代替わりで急に強くなるという事はよくある話のようです。県大会まで上がってきているという事は確実に実力があるチームです。去年からスタメンで出ている選手も何人かは確実に居るでしょう。
少年野球で所謂上手な選手はピッチャー、キャッチャー、ショート、センターのいずれかを守る事が多いそうです。この4つのポジションを守り、かつ打順でクリーンナップ(3~5番)を任せられている選手は本当に攻守に渡って注意が必要なのです。
そんな話をしていると、もうこば達の試合が始まっていました。
こば「見た事ある子らばっかりだな。」
ナナイ「確かに。」
こばとナナイは少し前に県選抜のセレクションに参加したことがありました。そこで見た事のある顔ぶれが相手チームに沢山居たのです。
彼らと一緒にプレーをしましたが、守備が鍛えられている事だけは分かっていました。打撃はどうしてもセンスが問われますが、守備は練習で上手くなる事が出来ます。逆に言うと練習をしなければなかなか守備は上達しません。
早速初回にその守備に阻まれます。
1回表
ファーボールで歩いたナナイを一塁に置き、こばの打順が回ってきます。
「4番ピッチャー こばくん」
カキーン!!
こば(おっしゃー!!抜けた!!・・・・)
パシッ!!
得意の引っ張り打ちで放った、ライト線を痛烈に転がる打球に長身のファーストの選手が飛びつきます。
アウトー!!
こば「え?!・・・・・」
ナナイ「惜しい!!」
バーフィー「こばー!!いいぞー!!切り替えて守備行こう!!」
バーフィーからグローブを受け取ります。
深津「こばさん、ドンマイです。」
こば(デカいのに滅茶苦茶動きが良い・・・・。かなり鍛えられてるな・・・・。)
嫌な予感は的中し、次の回の5番深津、6番バーフィーのいい当たりの打球も全て相手に捕られてしまいました。
バーフィー「くっそぉ・・・・」
こばのいう守備が基本というのはこういう事なのです。守ることで相手の攻撃を封じます。いくら打てても、守備が悪ければスタメンではなかなか使って貰えません。或いは監督からしたら、とてもスタメンで使いにくい選手になってしまいます。プロ野球のようにDH制(打撃専門で守備につかない)が無いので必ず全員守備につかなくてはいけません。
4回裏・・・・
0-0
いよいよ、エースこばが相手打線につかまります。
ただでさえ暑いのに、このプレッシャーで汗が止まりません。
ヒットとファーボールで、1アウト満塁のピンチでした。
キャッチャーの深津から前進守備(1点もやらない戦術。)の指示が出ます。
バーフィー「こば!!ここ一番のボールで行こう!!」
こば「わかってるぜバーフィー!!」
仲間から励まされます。
ここまで来たのに・・・負けたくない・・・・。
みんなそう思っています・・・。
気持ちは相手も同じなのです。絶対に負けたくありません。
努力してきたと言っても、それは全員してきているのです。幼くとも少なからず何かを犠牲にし、野球に限らず、何かと真剣に向き合っているのです。自分の可能性を信じてやり続けるのです。
悔しい思いをしてきたと言っても、それをまたバネに変える力が有り、本番でその力を惜しみなく発揮できる者が次に生き残るのです。
キィィーーーーン!!!
深津「ショート!!!」
ナナイ「くっそー!!!」
ナナイの飛びつきは届かず、ボールは外野に転がります。
2点先制されてしまいました。
こば「くぅー・・・やはり強いな!ここまでくると!!」
打たれて当然悔しいですが、全員何か納得したような表情でした。
打たれて悔しいからではありません、負けそうだからではありません。自分達の通常の力では及ばない所まで来たという事をここで認識したのです。
バーフィー「良い球だけどなぁ!!俺の今日の一押し、こば。」
こば「あっ深津が・・・。」
キャッチャーの深津が監督に呼ばれます。監督が首を傾げながら話してる所を見ると、どうやらこばは交代のようでした。
こば「マジかぁ。でもナナイを信用してるぜ俺は!!」
こばとナナイが入れ替わりました。
ナナイ「任せろこば!」
第2ピッチャーのナナイが入り、こばがショートにつきます。
ナナイがその後1点取られるものの、ショートに入ったこばのダイビングキャッチなどでピンチを切り抜けます。
ナナイ「ナイスこば!!」
こば「3点ならまだいけるぞ!みんな!」
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いよいよ最終回になりました。
ナナイの好投で相手の攻撃は4回に取られた3点止まり。
しかしこちらの出塁はナナイのファーボール、バーフィーのワンヒットのみで、今日もクリーンナップを任されているこばも深津も良い当たりは出ているものの、珍しくノーヒットでした。
この回で最低でも3点取らなければ、敗退が決定します。
監督「集合。」
全員「はいっ!!!」
全員監督の元へ集合します。
監督「こばやナナイ達6年生は最後の大会。ここでどういう攻撃をするかで決まる。・・・こば!」
こば「はい!」
監督は話し始めます。
監督「昔お前とナナイが入団した時に話したかもしれないが、俺は大学野球を経て大手に就職した。野球で就職したからにはその会社の看板を背負い、当然ながら活躍を求められる。いつも今日打たなくてはクビだと思い、俺はいつも今日この日が最後だと思ってやっていた。・・・今なら俺が言ってる事少しはわかるよな?重責でプレッシャーを今感じていると思う。初の県大会、しかも相手が強いと尚更感じるだろう。今という時は二度と来ない、この一瞬というのは今しかない。後悔しては駄目だ。小学生なんだから、別に次があるからいい。勝ちにこだわらなくてもいい。お前らのお父さんお母さんの中にはそう言ってくる人も居る、・・・というか居た。
・・・・残念ながら俺が知ってる野球はそんな甘ったれた競技じゃない!!俺は少なからず食う為にこれをやってきた!!次があると思ったら大間違い!!次なんかもうないぞ!!
今この瞬間で全力を尽くせない人間は野球だろうが、なんだろうが、たかが知れてる!!お前達の魂を今日応援してくれている両親に見せてやれ!!!!」
全員「はい!!!」
バシッ!!
バシッ!!
最後に監督は6年生全員の背中を強く叩きました。
こば、ナナイ、バーフィーの心に火が付きました。
ネクスト・バッターズ・サークルに入る前に、こばーずの応援席を見ました。自分の両親やナナイ達の両親の顔が見えました。試合に出ていないチームメイトの両親も見に来ていました。
応援されています。みんなの思いがこの買って貰った感謝の野球道具に乗り移ります。
監督の言う通り、この瞬間は二度とないのです。気づけば6年生、後輩達も俺を見て野球をしています。そして気づけばもう、最後の大会。最後になるかもしれないから、この「こば」の野球を見せなくてはいけません。
7回表
「3番 ピッチャー ナナイ君」
いよいよ2回戦 最終回の攻撃が始まります。
ナナイの顔に笑顔はありません。微動だにしません。
今思えば本当に野球は厳しかったです。「グラウンドで歯を見せるな」と言われ、先輩に影で思い切り殴られた事もありました。
その面構え、この面構えこそ覚悟の証なのです。
どうやら全員腹を括る準備ができたようです・・・・。
こば「ナナイ・・・頼むぞ・・・・。」
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是非、立ち寄ってみて下さい。
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