第七話
今までとは比較にならない速度。
目の前に現れた男の剣が顔の横を突き抜ける。
じんわりと熱い空気。
もう一本!
意識を突き出された剣からこれから来る一撃に戻す。
剣は下から斬り上げられてくる。
本能。そう表現するしかない速度で後に下がる。
顎先に熱風が吹き上げる。
体勢を崩し、しっかり立て直す暇も無い速度。
一撃目を捌いては、後に下がるしか出来ない。
じりじりと・・・・・・ではなく大きく下がる。
一歩二歩と下がったら三歩四歩と踏み込んでくる。
捌ききれない。
そう思ったら一気に持っていかれる。
挫けそうになる心を強く、
パニックになりそうな頭を冷静に、
悲鳴を上げそうな体を動かし対応する。
過去に聞いた言葉が浮かぶ。
それが出来れば理想だが、実際、そう、簡単に・・・・・・。
縦横無尽、変幻自在。
そうありたい剣の動き。理想に近づく為に振るう剣。
振る度にそう思う。が、現実は厳しいな。
目の前の男一人相手に苦戦している。
体にも痛みが増している。捌ききれない分は間違いなく受けているが、動きを止めるほどではないようだ。
「もう少し」
そう言われて、後に人の気配を感じた。
「僕に構わず行けそうな気がするけど」
「そうだね。もう時間も無さそうだし」
くるん、と回ったかと思うと視界から姿が消えた。
「そう簡単に抜けるとでも!」
消えたのではなく、見えないだけ。
死角に入りこんだ男の背中に振り返り一閃。
鈍い感触と痺れる衝撃が手応えを感じた。
足元で聞こえる金属音。僕の一撃は男の武器を弾き飛ばした。が、もう一本がある。
男を追いかける。
僅かの差が広がり、差は広がる。
でも、走る事を追う事を止めない。
剣を振りかぶる男の背中目掛けて、剣を投げつける。
振り返り様に剣を打ち落とし、振り返ると、躊躇い無く剣を振り下ろす。
目の前には両手を広げたクレアがレイリッシュ卿の前に立っている。
男は振り下ろした剣をそのままに、にやっと笑って、
「面白いな」
こっちはそんな余裕ないよ。
「見ず知らずの人間の為に命張る奴なんてモノは小説や漫画だけだと思ってたよ」
クレアの頭に手を置いて、
「なかなか面白かった。また会えるといいな」
爽やかに微笑み、
「さて、騒がしくなるな」
階段向こう。隣のホームに大勢の警官が集まり始めた。
「じゃ」
風のように警官の群れに突入し、嵐のように蹴散らして進んでいくのが見えた。
警察署で事情を聞かれるが、それはこっちが聞きたい。
事情聴取が終わり、クレアと二人でレイリッシュ卿の滞在ホテルに案内される。
クレアはまだ緊張が解けないようで、強張った顔のままだ。
いつも通りと言えない事もないが、そう言うと脛を蹴られそうだ。
「君達がいなければどうなっていたのか、礼を言わせて欲しい」
深々と頭を下げる卿。
回りにいる強面も一様に頭を下げる。
「いや、偶然なんで」
「卿の持っている運命が私達をの時あの場所に引き合わせてくれたのでしょう」
布教活動のような事を言うクレア。
柔らかい笑顔でクレアを見つめる卿。
卿と言うからにはもっと尊大な態度かと思いきや、それとは程遠い印象の卿。
「狙われる心当たりが無いと言えば嘘になるが。これ以上は警察に任せるしかない」
男が持っていたの光学武器が出始めた頃のモノで、かなり使い古されていたとの事。
もうどうでもいいけどね。
「とにかく、君達のおかげだ。何か礼をさせて欲しい」
「これでいいかな?」
「いや~。充分ですよ」
一時間もしないうちに、礼は車になった。
真っ黒な車体が光を反射して眩しい。
見た目は小さいが、中は広い。車内で寝るのも窮屈しなくて済みそうな所が嬉しい。
「では、道中のの御無事を」
卿は宿舎に帰り、僕達は車に乗り込みマグニフ街道を目指して車を発進させる。
~後書~
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では、次回作もよろしくお願いします。