第三話
中には人の気配が無く、左右に配置されたベンチがずらっと並ぶ。
壁際に階段があるが、二階と言えるほどではないが二列くらいなら座れそうな幅で壁からせり出している。
外とは違う空気が体にまとわりつく感覚。
「誰もいないが」
ここに物影に隠れている暇人もいないだろうな。
クレアは答える事も無く、正面に鎮座している五大神像の前に進んで、祈りを捧げている。
火を司るロフェン。
水を司るフォンテ。
風を司るラルバレッド。
大地を司るのはヘーリストル。
時を司るルティナラ。
その中央にはローナスのシンボルがある。
五体は中心の珠を守るよう円を描くように配置されている。
五大神が世界を築き、悪から守っている。
この世界のどこかで神と悪の戦いは続いていて、それを助けるのがローナスの教えだと、クレアはいつも言っている。
じっと祈りを捧げているクレア。
静かな空間。赤い世界から暗い世界へと時は進んでいる。
大きな窓からこれでもかと言うほどに入っていた光が徐々に弱まっていく。
「おい」
ゆすられて目を開けると、クレアの無表情な顔があった。
「お。おお。終わったのか?」
「あぁ。お前が寝ている間にな」
声が冷たい。
そして口元も。首元が若干濡れているのは気にしないでおこう。
「部屋に行こう」
クレアはさっさと礼拝堂から出て行く。
一つ伸びをして、クレアの後を追う。
陽も落ちて、荷物を置くなりさっさと風呂に入り上がったばかりのクレアが髪を乾かしながら、
「明日の昼には横断鉄道でジェリラックへ向かう。ここからだと一週間の鉄道の旅だな」
ベッドに寝転がり新聞に目を通しながら、話を聞いている。
予定はすべてクレアが決める。相談は一切ない。
「チケットは?」
「夕食は外に行くからその時にでもするから大丈夫。だから、お前もさっさと汗を流して来い」
一時間近くも入って置いて、偉そうに。とは思っても言えない僕。
やばい。慣れされてきたか?
聖堂で車を借り、明日乗る予定のチケットの手配を終えてからリアブル河を越えて港近くまで戻ってきた。
南部も混雑していたば、こっちも負けてない。
「さて、どこにある?」
わざわざここまで来なくても。と思ったが、
「どうせなら美味しいものが食べたい」
との欲求に負け、聖堂で話を聞いたら、
「それなら、港近くのルギー亭がお勧めですよ」
との事だったので、地図を描いてもらいここまで来たのだが、
「すごいな。この数は」
渋滞と停滞の繰り返し。
「あ。あったぞ。ルギー亭」
「どこ?」
「通り過ぎた」
後を振り返っているクレアの声が残念そうだ。
「これは、どこかで車を置いた方が良くないか?」
「確かに」
進むより戻るほうが難しそうだ。
「どこか、近くに止める所ないか?」
「さぁ? ここ始めてきたし」
「神よ」
手を握り、目を閉じて礼拝堂のように祈り始めるクレア。
そこまで神様も面倒見れないだろう・・・・・・。