第二話
潮風が駆け抜ける港。
タラップを降りる顔には楽しげな笑顔がよく似合う。
狭くは無かったが、閉ざされた空間から解き放たれた体を思いっきり伸ばす。
「やっと着いたな」
隣できょろきょろ見回している相方に声を掛ける。
「ここは通過点であって。終着じゃない」
スタスタと先を歩く。
「おい。もうちょっと、こう・・・・・・新しい大地に足を踏み入れる感動とかさ」
「急げよ。キカ」
「あ、ちょ。待って。クレア」
風になびく赤髪にきらきら光る深紅の瞳が荷物を抱えている僕を見る。
港のターミナルで手続きを終え、市街へ向かうバスに乗る。
世界有数の港湾都市。ディート。それを裏付けるビル郡の間をバスは走る。
「リアブル大橋」
港がある北部からリアブル大河に架かる全長二百メートル近い橋を越えてディート南部へ入る。
北部とは違い、工場が多く並び、社名の入った車が多い。
工場地帯を抜けて、バスが辿り着いたのは、
「凄い数の人だな」
「あぁ」
いつもは冷静なクレアも少なからず驚いている。
ディート駅。マグニフ横断鉄道の始発終着駅。人も物もここから海を渡り、ここから大陸を渡る。
「ここから鉄道に乗るの?」
「ここから近い。行くぞ」
荷物を担いで歩いていくクレアを追い掛けていく。
「アイツはもう少し、人に合わせるって事を学ぶべきだな」
少し先にある横断歩道を渡った所でこっちを見ているクレアと目が合う。
聞こえたのか?
「どこが少しだ」
かれこれ一時間の徒歩。
朝この街の港で爽やかな風に吹かれていたのに、もう陽が傾き始めている。
これは僕の予測だが、迷子かもしれない。
駅周辺をうろうろしてる感じが消えないのも無理は無い。
なぜなら、線路からそんなには離れていないし、気付けば線路に沿って歩いている。駅に向かって。
「見えたぞ」
涼しい顔で歩いているクレアに負けじと歩くが限界がある。精神的にも肉体的にも。
風に潮の香が混じる中、見えたのは木々に囲まれた館。
「結構大きいな」
「マグニフにある支部をいくつか束ねているからね」
「ほ~」
ローナス教団ディート聖堂と書かれた門をくぐる。
門から少し歩いて、更に門をくぐる。
少し赤く染まった五階建てくらいの建物。その頂にローナスのシンボル、球形に二筋のリングが輝いている。球形は世界を、二つの輪は一つは知恵を表し、一つは団結を表すそうだ。
吹き抜けの玄関。正面に五大神が闘っている絵画がある。
「これは」
「偉大なる世界の創造主であり守護神」
「いや、それは知ってるが」
なんとも言えない威圧感。
立派過ぎるのも考えものだな。
「少し待て」
クレアは玄関横にある受付みたいな小さな窓越しで何か喋っている。
吹き抜けの空間。壁に沿って階段があり、陽が入ってきて気持ちいい。
「キカ、ここにサインを」
言われたままにクレアの名前の下にサインする。
「はい。お部屋の場所は・・・・・・」
クレアが部屋の場所を聞いている間も玄関からその先へと視線を向ける。
清潔感と圧迫感を感じるのは、信心が足らないせいなのか?
「許可が出た。入ろう」
「どこ? 部屋?」
「違う」
吹き抜けの玄関を越え、中庭にでる。
整えられた中庭。緑が夕日に映える小道に砂利を踏み歩く音に小さな風音が響く。
礼拝堂へと続く道。
言葉は無い。喋るのも気が引ける空間。辿り着いた礼拝堂のドアをクレアが開く。