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残念なベッドメイキング


 不穏な空気を見せた朝食だったが、その後は何事もなく1日が終わった。


 やったことといえばトイレとかけっこくらいだ。


 トイレは使用人棟全4階の各階に設置されており、膨大な数の執事、メイドの生活状況が豊かなものであることがわかる。下水がしっかり整備されているのだ。王城だからかと思って窓から城下町の様子を眺めてみたが、夕陽を受ける街並みはとても綺麗で、中世ヨーロッパの様に糞尿を垂れ流しになっている様子は見当たらなかった。中世ヨーロッパがそこまで酷かったかは別として、これなら衛生面はかなり信用できるだろう。後は便座の形状だ。真ん丸でどこか可愛らしさを感じさせるフォルムをしていた。吸い込まれる様な深みを帯びた逆円錐型の便座を覗き込むと、まるで銀河系の様な楕円を描く内部構造が私を見つめていた。ただでさえ転生という神秘に晒されていた私は宇宙の広大さに触れ、自分の小ささを見る。なんという技術力だ。ここまでの陶器を作り出すとは。この国のトイレへの真剣さは我らが日本にも勝るとも劣らないのではないか。それでもやはり現代日本で暮らしていた身としては不便さを拭えないが、尻は拭えた。なんとウォシュレットが存在したのである。第一印象は「意味がわからない」だった。どうしてこんな世界にウォシュレットがあるのか、どんな技術でこのウォシュレットは存在しているのか、その他疑問は多かったが周辺をくまなく調べることで、その殆どが解決した。【水の魔石】である。便座の中に不自然に青く光部分を発見し、注意深く、溜まった水に触れぬよう細心の注意を払って確認したところ、このウォシュレットは魔道具であることがわかったのだ。いや、正確には魔道具らしき何かである。明らかに人工ではない、自然にできた石の様なそれが、私が便座の横の丸いマークに触れると同時に丁度良い、心地良い勢いで水を噴出していた。そしてこの丸いマークだが、私は最初、興味本位で、利き手である左手の人差し指で触れたところ、現状のウォシュレット発見に至った。つまりこれは【少量の魔力を消費し魔石を発動することで水を射出する魔法陣】だと予想された。いや、これを水と言うのも烏滸がましい。あれは水の域を超えた物質だ。ほのかな温かみを帯びたそれは私の心を溶かし、現状を整理するささやかな時間という贈り物を授けた。冷静になった私は異言語について一定の理解を示すことができた。勿論意味を理解したのではなく、これからこの世界の文化に寄り添っていこうという一種の意思表明としての理解だ。決して普段あんまりウォシュレットの感覚が好きじゃないのにこんな世界で来ると思ってない予想外のタイミングで来たからびっくりして全てを知った猫みたいになった、わけではないのだ。


 かけっこは中庭でリアルーナちゃんと行われた。私が勝った。



 〜〜



「ふあー疲れた」


 各フロアのトイレをくまなく――勿論男性用も間違えたという言い分で侵入した――調べ終えた私は、言い表せない達成感と共に自室へと帰ってきていた。


 そういえば夕食はまたあそこなのかな?


 と、思ったが私の部屋のベッド横にある低い机に、またクローシュが置かれていた。夕食は自室で食べるのだろうか。まあいい、食べましょう!

 ちなみに昼食はパンを渡された。


「ぱかりとな」


 銀色の壁が取り払われ、勢いよくシチューが流れ出て来た。どうやって入れたんだよ。


 シチューが顔にかかった私はとても美味しそうな顔面をしている。まずい、早く顔を洗わなければ残念が来るかもしれない……! あいつなら私の顔を舐め回すくらいはする!!


 私は早めに浴場へ行くことにした。残念が風呂上がりの魅力たっぷりな私に欲情して襲ってきたら投げ飛ばそう。

 いや、あいつなら普通に風呂を覗く。そうするという確信が私にはある。


 

〜〜



 朝に案内された風呂へ向かうと、ちょうどメイド達が出て来た。

 だが風呂に入っていたわけではなさそうだ。どうやら風呂の準備をしていたらしい。

 

 つまり私が一番風呂だ。やった!!!





 ではなかった。


「……」


 服を脱ぎ、全裸で意気揚々と喜び勇んで風呂の戸を開けた私だったが、目の前に人がいることに気づき羞恥心が芽生える。


「なんのぴーすだよ」


 そこでは残念が残念な胸部を見せつけながらダブルピースをしていた。かわよ。


 一緒に入ろうかと思ったが残念はもう風呂を上ってしまった。手を振られたので振りかえしておいた。


 さあ、アクシデントはあったがこれで1人だ!


「ひろーーい!」


 浴槽はとんでもなく広い。私1人で使うの贅沢すぎるー!


「まあ、まずは体を洗おうか」


 私は銭湯に行ったことは無いが、流石に常識として髪顔体は洗って入る。あと湯船に髪はつけない。


 そういえば石鹸等はどうしているのかと思ったが普通にあった。この世界の技術力で作れるのか、と疑問に思ったが、私はそもそも石鹸の作り方を知らない。きっと出来るのだ。

 ただ、シャンプーはなかった。仕方ないので石鹸で髪を洗う。


 そういえば下手に石鹸で髪を洗うとタンパク質が溶けてギシギシになる……みたいな話を聞いたことがあるが定かではない。

 多分滅茶苦茶痛むのはわかるが、どういう理屈かはまあ、髪のみぞ知るってことだ。


「ふふん」


 体を洗い終えて湯船に浸かる。


「あたたたたたたけええええ」


 すごーーーーーい!!


 疲れきった体にお湯が染み渡る。思っていたより疲労が溜まっていたらしい。一瞬意識が飛びかけた。

 もう出たくないよここを!


「はあああああ……」


 感嘆のあまり声を出すと部屋中に響き渡った。たのしい。


「ららららら」


 風呂で歌うと気持ちがいいっていうのは本当だったんだ! 迷信だと思ってたぜ。たったの5文字発するだけでこの快感、コスパ最強か?


 

〜〜

 

 

 体感で20分ほど入っていたが流石に手がふやけてきた。

 そろそろ出ようかと思ったところで、人が入って来る気配がした。キャーーー!!


「ん? ルイ リーリ?……カク リラル ノ……ルイ コトノセ?」

 

 入って来た金髪の女が何か話し、私の名前を呼んだ。

 知り合い……ではないし恐らく王様あたりから聞かされたんだな。

 どうしよう。無視して上がるってのも感じ悪いし……。


 少し悩んだ挙句、軽く会釈をして風呂を出ることにした。


「あはは……い、いい風呂でしたー」

「? カク アクライラ」

「あはい、マジでそう。本当に」



〜〜

 


「うおおおおお」


 命からがら風呂を出た私は、最速で服を着て部屋まで駆け抜けた。メイドは1人見たら100人いると思った方がいいのだ。


 駆け抜けた、と言っても室内で全力疾走するわけではなく早歩き程度だ。

 部屋に戻る途中、メイド集団とすれ違った。朝も思ったが、一概にメイドといっても一人一人微妙に個性が違う。数人の仲がいいグループがいくつかあるのだと見受けられた。


 しかしどのグループの中にも残念の姿はなかった。


 ……あの性格だし……と思ったがあいつは1人抜け駆けして風呂に入っていたしもう寝てるんだろう。

 いや、嫌われてるから1人だけで風呂に……かわいそうすぎて涙が出る。いや嫌われてるやつは一番風呂できねえよ。

 残念について物思いに耽っていると部屋についた。


 最近ずっと残念のこと考えてる……もしかしてこれが、――――


 


 ドアを開けるとそこにはベッドで転がりまわる残念の姿があった。

 ドアを閉じ、隣の部屋を開ける。

 中にいた茶髪の女の子が咄嗟にお菓子を隠した。

 再び私の部屋のドアを開ける。

 残念がベッドに体を擦り付けている。


 


 ――――憎しみ……!!


 

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