王女様とワンダリング
「おはよふ」
さて今日も爽やかな朝がやってきた。憂鬱だー!! 学校だーー! カーテンを開けて制服を……
と思ったのだが、私はすでにほぼ着替え終えていたしここは我が家ではなかった。寝ぼけた頭で考える。思い出す。
「そうだ私は異世界、ここは琴波」
じゃねえ。学校に行かなくていいんだよもう!!
あの憎き英文法ともおさらばだ! 私は日本人なんだよ! 生涯外国なんて行く機会ほぼ無いし、今は便利な翻訳アプリもある。さーって今日はなにをしようか。冒険者にだってなれちゃうんだぜ私は。勉強? 受験? 二次関数? 何だそれ。
そうして部屋中を転がりまわっていると突然扉が開かれる。
「ベガ! コトノセ!」
入ってきたのはリアルーナ嬢だった。とっても元気にご挨拶のようだ。
はい英文法よりカスーー!!! 私は日本人なんだよ!異世界行くなんて意味わからないし、この惨状で翻訳スキルが無いの欠陥すぎるぅー。
「いや翻訳スキルが無いから惨状なのか……おはようリアルーナちゃん。いや、べが〜」
翻訳スキルが先か惨状が先かの問題はさておき、とりあえず挨拶を真似しといた。リアルーナは驚きと感動を隠しきれないといった様子だ。
まあ向こうからするとチンパンジーがおはようって言ったようなものか。誰がチンパンジーだ。
「ラ ルイ コ カフ スルー! アー ケイロ!」
そう言うと、リアルーナは自慢げな顔で私の手を強引に掴み、部屋から連れ出した。まだ眠い。
「ルイ ガカ スルー スウー オコ、ラ カフ スルー!」
私はされるがままに手を引かれて進む。まるで探検隊だなぁ。未知を探検する子どもが一番美しい生き物だよ。
来る時は無理やりだったので周りを見る余裕なんてなかったが、ここは使用人の部屋らしい。周りの部屋からゾロゾロとメイドが出てきた。今が何時か知らないが、使用人の起床時間ということは結構早朝なのだろう。
使用人より先に起きる王族、印象はとっても良い。だが世話役には絶対なりたくないね。早起きを強要されるのだから。
「お、残念」
眠たげに目を擦るメイドや、キビキビと歩くメイドの中に見覚えのある姿を見つける。残念は、着替えて列をなすメイド集団の最後尾でこっちにダブルピースを向けていた。
すれ違いざまに残念を見れた! 今日は良い日になりそうだ。
軽く手を振りかえしたが、すぐに離れていってしまった。
「オレ サリ ガカ ツロ スルー サリ! カク オレ ガカ フラ! コトノセ ガカ ツウー オレ!」
ふむ、リアルーナが指差した先には浴室らしきものが見える。ここを使うのかな? 風呂があるのは嬉しいが……時間帯を考えないとメイド集団と重なりそうだ。
というか使用人にも風呂があるって、当たり前なんだけど凄いな王城。
私たちはまだまだ進んでいく。
「オコ ガカ アイア! クリエ クイアセリ!」
急に開けた場所に出た。日の光が入ってきてびっくりした。見上げると、吹き抜けっぽくなっていて日差しや風通しが良くなっていることがわかる。あと中庭が見えた。
ガラスがふんだんに使われている広間を見ながらそんなことを考える。きれーい。
そんな私の考えもつゆ知らず、ふんふふん、と鼻歌を歌いながら歩いていくリアルーナ。この子結構歩くのが早い……!
周りを眺めつつリアルーナに手を引かれていくと、中庭の大きな木にガラスのリンゴが実っているのが見えた。見間違いかと思ったが違った。いや、合ってたのか。窓ガラスはあれから作られてるのかな? いやはや不思議なもんだ。
「カク オコ ガカ キラ ライラ! キラ ガカ カイ ヤム!」
食堂らしき場所についた。そういえば朝ごはんはいつだろうか。夜食は食べたがもう空腹だ。
リアルーナちゃんもお腹が空いたのか、窓から食堂を覗いている。一緒に覗いてみると、奥の方で誰かが料理を作っているのが見えた。なるほど、厨房と繋がっていたのか。
うおー! 美味そうな匂いがここまで届いた。とても楽しみ。口角上がりまくりテンションもぶち上げだね!
と、思ったのだが私の笑みは崩れた。私は膝から崩れ落ちる。リアルーナちゃんが不思議そうにこちらを見る。
「あ、あ、ああ…………!」
厨房に、見覚えのある女が立っている――――
顔色ひとつ変えずにこちらにダブルピースする女。
――――残念だった。
「お前は厨房に立つなーーーー!!!!」
料理してる様子はないけどお前が厨房に立ってる事実だけで飯が不味くなる!!
というかなんで料理もしないのに厨房に立ってるんだよ!!! お手伝いか?
とにかく!! お前は料理に関わるなーーー!!!!
「そんでもってなんでこの距離でわかるんだ!!!」
残念はダブルピースのままスライドして、厨房の奥へと消えていった。等速直線運動をやめろ!!
リアルーナちゃんは驚きと疑問を投げつけるような表情でこちらを見ていた。ごめんね、急に大きな声出して。
残念に会ったのはやはり残念なことだったのか。残念自らが残念を作り出す残念ウロボロス。永久機関はここにあったんだ……!
その時、後ろから知らない女の声がした。
「カク ルイ リアルーナ、シル ナイラ。ベガ キラ ソナフ。ラアル アー オコ ケイロ」
リアルーナもその声に気づき返事をする。
「わあ! ツロスネ!」
そう言ってお辞儀をするリアルーナ。
「ライシロ」
礼を返す女。服装や所作から見て確実にメイドだ。
知らない声の正体はメイドの1人だったということだ。何かの報告だろうか。リアルーナちゃんは元気よく、それでいて礼儀正しくお辞儀をしていた。ということはおそらくそれに返したメイドの言葉は『どういたしまして』だろうか。
……まあ、気が向いたら解読してみよう。
いや、解読は絶対しなきゃいけないのだが。
考え事をしているうちにメイドが離れていく。
そして、またあちこち連れ歩かれるのかと思ったがどうやら違うらしい。リアルーナちゃんは相変わらず私の手を握ったまま、メイドについていく。どうやら食堂に入るようだ。
つまり朝ごはんであるやったぁ。




