残念メイドとイーティング
「んぐ……ふあ?」
気持ちよく眠っていた私は、とてもいい匂いで目を覚ます。窓からは眩しいほどの月明かりが射している。
辺りを見渡してみると、ベッドの横のちゃぶ台的な机に何か置いてある。
「これはあの……あれだあれ。レストランのあれ」
銀色のドームに反射した私はとても間抜けな顔をしていた。
あれは料理の鮮度を保つために使われるクローシュ。中からは、食欲を掻き立てるとても良い香りが漂ってくる。なぜ私がクローシュなんて知っているのかというと……これが分からない。
「どこでみたんだっけぇ……」
モゾモゾと体を起こし、そのクローシュを開ける。
「ぱっかーん……まだあたたかい……死亡推定時刻はごごくじ」
ここで一つ豆知識だ。私は寝起きがカスで独り言が多い。
さて、ついに日の目を浴びた……月明かりを浴びたお料理の紹介だ。皿の上には知らない野菜と知らない肉の野菜炒めが入っていた。温かい。実に温かい。物理的にも精神的にもだ。
魔法がある世界だ。これは温度を保つ魔道具か何かだろうか。それとも普通についさっき作られ……
――いや待て。私はこの世界に来てから一度も魔法を見ていない。自分が撃ったのは例外だ。本当に魔法が存在しているのか? 私が転生最強スキルで魔法が使えるってだけでそこら辺は普通に中世な世界だったり――
「手作りかな? おいしそーー!!」
そこで気づいたのだが、クローシュはもう一つあった。スープ来いスープ来いスープ……。
「ぱかりとな……お?」
こっちはハンバーグ……らしきものだった。なんか、うん。ハンバーグってわかったのを褒めて欲しいくらいだ。
「誰かぁー、褒めてぇー……」
「スネ」
「そこは肘……じゃなくて誰だ!?!?」
顔を上げると、そこには昨日鏡に映った謎のメイド美少女がいた。ふふん、と自慢げなポーズをとっている。パーフェクトなドヤ顔だ。そしてジト目、かわよ。
透明感のある銀髪のサイドテールに水色メッシュが美しい。そう、メッシュだ。この短期間にメッシュを何回見るんだ。2回か。昨日のツーショットを入れても3回か。そんなに見てねー。
昨日は自分が思っていた以上に疲れていたらしくあまり気にしなかったが、相手は思ったより身長が高く、ちょっと首が痛くなってきたので立つ。
「お、おぉう……」
身長165センチの私より少し高い目線。おそらく170くらいだろうか。ホントに思ってたより高い。美少女は前言撤回だ。残念美人と呼ばせていただく。
「ラ オレ キラ!」
ドヤ顔のまま両手で料理を指差す残念さん。食べて食べてと言っているのだろうか。
「……」
「……」
沈黙が場を支配し……
「……食べましょう!!」
私は迷わず野菜炒めに手を伸ばした――
「――ッ!?」
――瞬間、野菜炒めが視界から消える。ハッ! なんと野菜炒めは残念の右手の中に!! 返しなーーー!!!
残ったのはウサギの原型を保ったハンバーグのみ。どうやったらこんなにも見事な挽肉が作れるのだろう。実に冒涜的である。もし漫画とかで敵がこれを出してきたら私絶対怒りのあまり冷静さを欠いて殴りかかって味方に止められるぞ。侮辱とかじゃなくて冒涜だ。生命を馬鹿にした料理だこれは。
「ふふん……!」
ウサギの末路を残念のドヤ顔と見比べる。……あんたも頑張って作ったんだな……言い過ぎたな……ごめんよ……。
「いただきます……」
覚悟を決めて肉塊を口に運ぶ。その瞬間、溢れ出す血と砂糖の甘みが私の口を埋め尽くした。
思わず顔を伏せると、乱雑に投げ捨てられた制服の上着が視界に入る。ポケットからはみ出したウサギの角に、――そしてついでに、盗んだ乾燥剤と角砂糖に――哀れみと涙と謝罪を、この馬鹿の代わりに送りたくなるような味であった。
顔を上げるとウサギハンバーグ冒涜エディションの断面から、謎の液体が飛び散って目に入る。血だった。
ツノトカゲかよお前はぁぁぁぁ!!!! ツノウサギのハンバーグの分際で!!
ハンバーグにもなれなかった可哀想な角ウサギに申し訳なくなってきて考えるのをやめた。
兎に角! 口直しがしたい、とてつもなく!!
ちなみに残念はというと、普通にカーテンを開け閉めしたり扉や引き出しをバンバン開け閉めしている。ポルターガイストかよお前は。表情はドヤ顔固定で死ぬほど楽しそうである。
と、いうことは野菜炒めはフリーだ! レッツイート!!
「うめぇぇぇー!!!!!!」
死ぬほどうまい。別人が作っただろ! まあ最初からわかってたけど!
私は必死に食い続けた。
「これが『くいあせり』ってやつ、か……」
私は天を仰ぎ涙を流した。
「クイアセリ!? オレ クリエ クイアセリ! ワカル!」
残念が食いついてきた。近い近い。めっちゃグイグイくるなこいつ。
そして、私が思うにこれは『美味しいでしょ! わっかるー!! 私の自信作なので! ふふん!』というニュアンスだろう。かなり自信がある翻訳だ。そして、この翻訳が合っているのならこんな料理に自信を持つなと言いたい。
カーテンが閉まり暗くなった部屋はランプの青い光で照らされている。
「そしてお前はさっきから近所迷惑だぞ!」
私にグイグイした後も無限に騒音を奏で続ける残念の額に、デコピンをぶち込んでやった。黙ってればクール系美人なんだけどなぁ……。
残念は吹き飛んで壁にぶち当たり、倒れ伏した。
……死んでない、よな?
思い返してみると、私の左手中指には謎指輪がついていたのだ。私ってば左利きなもので普通にこの指でデコピンしたが、そういえばこの指輪からはビームが出るのだ。
そう思い、左手に目をやると、指輪は謎の青い炎に包まれていた。めっちゃ燃え盛ってる!
「なにこれ!」
熱くはない! だが何これ!? いや熱くないからこそなんだこれ!?!?
幻覚かと思い辺りを見渡す。泡を吹く残念、閉じたカーテン、蒼く燃えるクローシュ、残されたウサギハンバー……蒼く燃えるクローシュ!?
明らかに様子のおかしいクローシュが目に止まる。こんだけ燃えてりゃそりゃあったかいわ!! いや、私は頭がいい。
おそらくこれは魔道具だ。




