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城下町でリーディング


「ルイ カイ ツロ!」

「……あはいはいそうですよねーマジでそれガチで」


 どうやら何故か、本当に何故か信用を得られたらしく、お嬢様の方も降りてきてめっちゃキラキラした目でこちらを見ている。照れちゃうねーまじで。


「ルイ ガカ オレ ガキ……」


 お嬢様を何とかあしらっていると、馬車を直していたらしいイケメンが身振り手振りで馬車に乗れ、と伝えてきた。


「ほいほいお前はガキじゃないですよーっと」


 乗ってみてわかったが、この馬車だいぶ豪華だ。中は思ったより広い。揺れたらちょっと許せないけど。私は乗り物酔いが酷いタイプなのだ。


「にしても豪華な割に人は少ないなー」


 驚いたことに乗っていたのはこの2人だけだったのだ。イケメンが御者的なのもやっていたっぽい。見た目からして平民ってわけでもなさそうだし、護衛の1人くらいついていてもいいのではないだろうか。まあお忍びで、っていう線もあるか……


「聞いてもどうせ伝わんないし気にしない気にしない……」

「ラル ジル ス?」

「ん? ああいやもうナイスでグッドよ!! イエスイエス!!!」


 なんか疑問系だったし笑顔でサムズアップさせていただいた。どうやら身振り手振りは伝わるらしく、返事をもらったイケメンは安心した様子だった。そこまで畏まらなくてもいいんだけどな……


「カク ライ ト ルイ アー アリンドル……アリンドル ガカ ライ カクラ!」

「アリンドルが名詞っぽいことだけかろうじてわかった」


 本格的に準備が完了したらしく、何やら必死にジェスチャーで伝えてくるイケメン。おそらく、もう出発すると言っている……と思う。マジで確証がない。というか必死すぎて怖い。獣でも来たかと思った。


「ヒヒーン!!」

「うおっ……」


 こんな近くで馬見たの初めてだけどめっちゃ怖いわ。あと馬の鳴き声はそのままでよかった。クックドゥードゥルドゥーとか鳴き始めてたら私が泣いてた。


 馬車が進み出した時、隣にピッタリと座っていたお嬢様が何かを思い出した様子で話し出す。


「カク! ライ クウー ゼ ナラ!」

「ああ! セル!」


 前の方からイケメンの納得したような声が聞こえてきた。


「おほん……ライ ガカ ラアル リサリ、リアルーナ アリンドル!」


 お嬢様は胸に手を置き、礼儀正しくお辞儀をした。


 出た、アリンドル。何だそれは……!!


「カク オレ ガカ ライ ノ キラ スルー サリ、アレクサ」


 次にお嬢様はイケメンの方を指してそう言った。


 なるほど……ちょっと予想できた。これはたぶん名前だ。アレクサ。聞き馴染みがなくもないような名前だなー……そしてどちらかと言うと女性っぽい響き。……もしかしてボーイッシュな女性だったとか……?


 気になってイケメン……仮称アレクサを見ようとしたがよく見えなかった。まあいいや。


 それでこのお嬢様の名前がアリンドルか!謎が解けたよ謎が。


「……あ、私も名乗らねば。あー……私、異瀬琴波、コ ト ノ セ コ ト ハ。よろしくー」

「コトノセ!」

「そう、コトノセコトハ」


 流石は巷で評判の語呂が良い私の名前だ。きゃーきゃーときゃっきゃするアリンドル(仮)。

 

 ふと、ガタゴトと音を立てながら流れて行く景色を眺めてみる。改めて見ると綺麗なものだ。青い空、鮮やかな緑の大地、遠くの方にウサギも跳ねている。ウサギしかいねえのかこの世界は。ごめん馬もいたわ。


「ヒヒーン!」

 

 ふう……まあこれでなんとかひと息つけるね。アリンドルちゃんなんて一息どころか五億息くらいついてるよ。めっちゃ寝てるわ。自己紹介して早々に寝るとは……まあ盗賊に襲われてたのもあるし疲れてるのかも。そっとしておこう。

 


〜〜

 


「ヒヒーン!!」


 はい私も普通に寝てましたと。


 馬の鳴き声で目を覚ますと、ちょうど門が見えてくるところだった。商人らしき人物や荷物を積んだ馬車、剣や弓を持ったザ・冒険者といった風貌の屈強な男たちなど、多種多様な職種の人々が並んでいる。入門の手続きか何かだろうか。私たちもその後ろに並ぶ。


 と、思っていたのだが。


「華麗にスルー……」


 私たちの乗る馬車は門を素通りした。

 門を潜った際、何やらすごい視線を浴びていた気がする。やはり順番抜かしはダメだ。

 私はバス通学だったのだが、よく学校帰りのバスを待つ間、順番を抜かされて腹を立てていた。ちなみに、そんな私は終点のバス停から家までの間で轢かれた。人生の終点だぜ。


 変な思い出に耽っていると、馬車から見える景色が急に華やかになった。本格的に生活区に入ったのだろう。魔物が存在する世界だ。パッと見、城が真ん中にあるようだったし、危険が近い外周ほど生活ランクが低いのだろう。絶対内地で暮らしてぇー。安全第一安全大好きだもの。だって私冒険者とかあっても絶対な…………るわ。

 

 それはなる。普通になるわ……! しかもちょうど今、剣のマークがデカデカと掲げられた『それっぽい』建物が横を通り過ぎた。やっぱり建物も全部ファンタジーだなあ……


「ここが異世界の街……」


 とっても昔に一度だけ旅行で行ったことのある海外を思い出した。読めない文字と聞きなれない言語が飛び交っている。露店らしきものも見えたが、売っているものは食べ物らしきもの以外、ほとんどその用途すら想像がつかない。唯一わかったのはウサギの丸焼きが売られていたことだけだ。美味しそー。あとで食べたいなー。

 

 人通りがかなりあるにも関わらず、渋滞も無くスルスルと進んだ馬車は、途中でやってきた執事のような風貌の老人が城へと運んで行った。馬ーーーーッ!!!!!!



〜〜

 


「やっぱり読めないか……」


 城へと消えた馬車。城前の看板には、漢字の『蚊』と『踏』の混ざったような字が書かれている。おそらくこれで何文字かの単語だったりするのだろう。しかも綺麗な混ざり方じゃ無く、重なった気持ちの悪い形。見ていると不安になる公用語だ。来る途中にもよく見かけた混ざり合った漢字。その他にもいくつか違うような文字も見た。日本のようなものだろうか。ローマ字、カタカナ、漢字、といったような。だがカタカナ擬きやローマ字擬きは見なかった。ローマ字は仲間外れなのだろうか。1人だけ仲間外れって流石に酷すぎない? 馬も悲しんでるぞきっと。


「ヒヒーン……!」


 そんな鳴き声が聞こえた気がした。フォーエバー、馬……。


「城下町 読めない文字と 馬の声」


 異瀬琴波、心の一句。


「ラル ス?」

「ああいやいや! 何でもないよ」


 ぶんぶんと手を振り回して滅茶苦茶何でもないアピールをする。だんだんなれてきたぞ!結構伝わって嬉しいね!!


 さて、謎の老人に馬が連れ去られてしまった以上、今ここにいるのはアレクサ私アリンドルだ。右から順にそう並んでいる。私から見た右だ。私の右手側にアレクサがいる。


 そして私から見て正面に城がある。馬を連れ去った魔王が根城とする魔の城……なんてことはなさそうだ。


 なんだか……嫌な予感がしてきた。


「カク……んんっ……ラ、ライ ガカ リアルーナ アリンドル。オレ カクラ ノ ラアル ノ リサリ――」


 アリンドルちゃんは私たちの前、つまり城を背に立つ。そして胸に手を当て、改めて自己紹介をする。しているのであろう、分からないが。


「――カク ライ ガカ ラロル」


 丁寧なお辞儀と共に、衝撃的なカミングアウトをした……んだと思う。これが普通の異世界転生ならば……そう、最高にして至高の翻訳スキルがあれば、盗賊に襲われていたところを助けた女性が実は王女とかでハーレムに……あれ?これって?


 隣でパチパチと拍手をするアレクサ。目の前で私の反応を待つアリンドルちゃん。いやアレクサさん、アリンドル様と呼ばせていただこうか……。


「もしかしてあなた方王族とその付き人なんじゃ」


 


 ――そしてこの日、アリンドル王国にて、勇者が誕生したのであった。

 だが! 私の新しい人生、その1ページであるこの瞬間を、私は何一つ理解できていなかった。

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