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Verschiedene Orte, Verschiedene Worte ①


 襲撃者、もとい、襲撃ドラゴンを消し飛ばした日の午後、私は考えていた。

 

 殺人。


 フィクションやニュースの中の出来事だと思っていたそれが今や身近になっている。思い返してみれば私が転生した日、昨日……いや一昨日? 変な生活習慣で日付の感覚が曖昧になってるな……。最初にレーザーを放ったあの時からそれはどんどん近づいてきていたのだろう。時速37.6キロでズンズン進んできていたに違いない。私はそこまで早く進めないし、立ち止まることも多い。

 

 鬱々としてきた私は気晴らしにあの黒鎧の話し方? についてずっと考えることにしたのだが、当然何も得られなかった。


 だが百聞は一見にしかず、答えは思考ではなく会話の最中に出たのだった。



〜〜

 

 

「ふほふんあは()ふへふふふいはへい」


 部屋には誰も入ってくることがないことが分かり安心しきっていた時、不意にかけられた言葉である。もちろん発したのは残念だった。

 私は『お前は呑気でいいな、食ってから話せ』と言い、残念が食べていたパンを無理やり押し込んだ。パンは私の昼食だった。残念はむせていた。


「? ルイ トノハ () ワカル スルー?」


 残念は頑張ってパンを飲み込んだ後、なんとか何やら言葉を発した。

 

 私は理解に苦しんだ。

 だが「は」「を」と来たらこれはもうあれだ。助詞的な……なんて言うのかはわからないが日本語に翻訳されたとみて間違いないだろう。そうに違いない。


「わたしはぺんです」

「ワタシ ガカ() ペンデス?」

「お、おおおお!?」


 ちょっと叫んでみただけだったのだが思わぬ収穫を得ることができた。これはどうやら、中途半端ではあるもののこちらが日本語で話した言葉もこの世界の言語に自動的に翻訳されているらしい。「るいがか」だの「くいあせり」だの言う羽目にならなくて本当に良かった。


「正直聞くのはもう慣れたし飽きた。でも言うのは本当に勘弁なんだよねー」

「ショージキキク ガカ() モウナレタシアキタ。デモイウ ガカ() カンベン!」


 残念は渾身のドヤ顔と共にそう言い放った。

 私は残念の頭を撫でた。ちなみに今残念は、ベッドに座る私の目の前であぐらをかいて座っている。

 

 ……なんと言うことだ。これは素晴らしいぞ。

 残念が復唱を覚えた。この一見ちっぽけな事実が私の心を大きく癒した。自分の発言を真似されるのが嬉しいのは初めての経験だ。


「私とあいつ、どっちが大切なのよ」

「ワタシ () アイツ、ドチガタイセツナノヨ」

「すごい」

「スゴイ」

「えらいぞことはちゃん」

「エライゾコトハチャン!」


 おお、おおおおおお……!!


 私はしばらく残念に私を称賛させた。

 残念は恐らくその目的に気付いたのだろう。こんなだが勘のいい子だ。


 残念はそれまで学んだ日本語に混ざって、恐らくこの国の言葉で似たような意味のもの――すなわち褒め言葉を幾つか話していた。

 優しい声だった。


 私はちょっと泣いた。



 〜〜



「……もういい。ありがと」


 自分の口から出た言葉に驚く。こんなツンデレヒロインみたいなセリフが飛び出すなんて。

 ……いや、普通に冷たい言葉遣いだな。


 私は残念の胸から離れ、立ち上がって軽く伸びをする。


 メイド服の優しい肌触りとふんわりとしたフローラルな香りに誘惑され、私は残念の胸で泣いてしまった。なんか癪だなぁ。


 残念は私の様子を見た後、直ぐにカーテンを開け閉めし始めて元の騒音女に戻っていた。


 ……まったくひどい女だ。女心を弄んでおいてポルターガイストごっこにご執心とは。


 残念が大人しく、そして優しく私に泣かせてくれたのは時間にして5分にも満たなかっただろう。

 だが、その5分が私にとってはとても長く、大きな時間だったように思う。


 カーテンレールの喧騒の中、ボスン、と小さな音を立てて仰向けにベッドに倒れる。


 ……残念は相変わらずうるさいな。

 私に気を遣っているのか、ただの馬鹿なのか。



「ふんふふんふふ〜ん」



 十中八九馬鹿だ。

 まんまとこいつの術中にハマるところだった。


 いい雰囲気に流されそうになったのもあるが……やはり悩みを打ち明けられる友達というものは大事なのだろう。


 ……正直もう残念を友達と認めるしかないところまで来ている。

 友達とは絶対認めたくないけど、もし……そう、もし残念がドラゴンに食われたりしたら普通にギャンギャン泣く。それくらいには残念のことを大事に思っているのだろう。


 そこまで考えて、ふと中指の指輪を見る。

 

 今日のことで改めてわかった。この力はとても強力だ。


 相変わらず蒼く輝く指輪。今まで割とどうでも良かったこれに命を助けられた。

 そして命を救った。

 自意識過剰な部分もあるかもしれないが、多かれ少なかれ私が助けた命は居ることには居るだろう。

 

「ライ ガカ() スネ〜! カイ スネ〜! ふんふふん〜」


 はぁ、すっかり言葉も上手になって。

 だが、私も負けてはいない。


「ライが私、スネは……褒める感じのニュアンスだよね!」


 そう、ついに私は寄り添う覚悟を決めたのだ。

 言葉も頑張るしこの指輪でどうにか出来るところまではやってやる。

 


 …………いや、自画自賛やばすぎだろ。

 


「冷静になった私はそう考えた……」


 料理と挙動以外は素晴らしいことで有名な残念さんの自画自賛はさておき、今後の方針を考えることにしよう。


 まず、とりあえず今日は寝るとして……明日は何かメモができるものが欲しい。これは言葉の練習用だ。流石にあの謎の文字を読んだり書いたりすることは難しくとも、リスニングは出来なくもないだろう。対応言語表を作り上げてやるぜ。読み書き方面はいずれ絵本とかで勉強したいんだけど。


 次に本格的に体力をつけたい。これはマストだ。言うまでもなく、このファンタジー世界でファンタジーアニマルやファンタジー人間と戦うには力が足りないのだ。指輪でビームが打てるとはいえ、ビームが効かなかったり、万が一にも無くしてしまった場合打つ手がない。ま、気休めにもならないと思うけど。


 あー、そして今思いつく限りでは最後……ずばりコミュニケーションをとろう。

 最初は残念から始めようと思う。次はリアルーナちゃん。残念はまあ……何とかなりそうな気するけど、他は厳しいなぁ。

 実は残念はかなり聞き取りやすく話してくれているのである。

 気が利くいいやつだし愉快でクールで可愛いしお洒落だしメイド服似合ってるんだけど…………


「残念なんだよなあ……」

 

 いやでも実際結構危なかったよ? 残念がイケメンだったらと考えると……


 

「……残念イケメン、うーん」

「?」

「ああいやいやなんでもないよ!」


 突然名前を呼ばれた残念はふりか……えり私を見る?


 ん?


「おーい、ざんねんやーい」

「ラ?」

「……」

 

 どうやら残念は『残念』を名前と認識しているらしい。

 いや、私がそう呼び始めたんだけど……犬か何かかよ。かわいいやつめ。


 

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