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スラム街流、葬式

「ここで、埋めてあげよう」


 俺達は、王都の郊外にある、ヘイホーが好きだった川と星が綺麗に見える小高い丘の上に来た。


 運んでいる間に、俺とトッポは、少しだけ、話すことができるようになった。


 ほんの少しだけ、心の整理がついた気がする。自分の心が、ヘイホーの死に、向き合い始めていた。


「ここなら、川も眺めることができるし、星も綺麗に見える」


 本当は、旧市街の近くにある、川辺に埋めたかったが、あそこは石で舗装されているので、埋めるのは、難しかった。なにより、人通りもあって、ヘイホーが静かに寝られないと思ったのもある。


「ヘイホー。絶対に、お前を見世物みたいにした奴を、この槍で突き刺してやるからな」


 トッポは、涙を流しながら怒りで、言葉を振るわせた。


「静かな場所で、眠らせてあげよう」


 人通りも少なく、虫や鳥の鳴き声や、川の流れる音しか聞こえない場所。ここなら、ヘイホーも静かに過ごせるだろう。


「ロック、トッポ、持って来たよー」


 フーミンが、丘を登りながらやってくる。スコップ三本を抱きかかえるような感じで持って来た。背中には、布を丸めて紐を使い、自分の体に結び付けている。


「フーミン。ありがとう」


 俺は、スコップ一本をフーミンから受け取り、穴を掘り始める。


「俺等も掘るぞ」


 トッポとフーミンも加わり、三人でヘイホーを埋める穴を掘り進めた。


「フーミン。布を渡してくれないか?」


「うん。いいよー」


 フーミンは、背中に背負っていた布を渡すため、結んでいた紐を解き、自分の体から引き離して渡した。


「布を広げるから、その上にヘイホーを乗せてくれないか?」


「任せろ」


 スラム街は、死者を火葬できる場所がない。そこで、スラム街の先人達が考え出して、生まれた死者を供養する方法がスラム街流の埋葬だった。


 大きな布を広げて、死者を包み込む。その時、一緒に天国へ持ってきて欲しいものがあったら、それと一緒に包んであげる。そして、王都郊外にある花も一緒に供える。


「もっと、しっかりした方法で供養してあげられなくて、ごめん」


 俺は、ヘイホーに謝りながら、花を添えた。


「みんなに黙って、秘密基地から、ヘイホーの好きな干し肉、ある分だけ持ってきちゃった」


 フーミンは、そう言うと、腰に付けていた小袋から、干し肉を大量に出した。おそらく、ヘイホーが、つまみ用として秘密基地に保存していた干し肉だろう。


「いいさ、それぐらい」


「今、俺達にできるのは、これぐらいさ」


 トッポは、そう言うと、花を添えて、ヘイホーを布で優しく包み込んだ。


「じゃあな。ヘイホー」


「天国で、俺達を見守っておいてくれ」


「いつになるか、わからないけど、また会おうねー」


 俺達は、それぞれ別れの言葉を言うと、三人で布に包まれたヘイホーを穴の中に入れる。


「みんな、スコップを持ってくれ」


 それぞれ、スコップを持ち、ヘイホーを入れた穴の中に土を入れた。


「本当に、これでお別れなんだな」


 ヘイホーを入れた穴は綺麗に土で埋まった。


「最後、楽しく分かれることができて良かったな」


「そうだね。喧嘩別れにならなくて良かったー」


 俺達は、ヘイホーを間に挟んで、星を眺めていた。


「昨日の宴会、笑顔でバイバイしたよな?」


「あぁ」


 俺の問いに、トッポは頷く。


「あの時、ヘイホーが見せた笑顔、忘れないで生きて行こう」


「うん。絶対に忘れなーい」


 フーミンは、いつもの口調で話した。


 その後、俺達は無言で星を眺め続けた。



「朝日だ」


 気付けば、俺達がいる小高い丘から、朝日が地平線から昇るのが確認できた。


「何時間も、ここにいたねー」


「あっという間だったな」


 俺が立ち上がると、トッポとフーミンも立ち上がる。


「ヘイホーまたな」


「また来るねー」


「じゃあな」


 俺達は、そう言うと丘を下りた。


「なぁ、ロック」


 スラム街に向かう途中で、トッポに話しかけられる。


「なんだ?」


「これで、終わるつもりは、ないよな?」


「あぁ、もちろんだ。ヘイホーを殺ったやつは、絶対に許さない」


 ヘイホーが眠るとこで、復讐話はしなかった。眠るヘイホーには、穏やかでいてほしかったからだ。


「それで、まずは何するのー?」


 フーミンも、俺の話を聞いてくる。


「それは、今日の夜に決めよう。一回みんな帰って寝るんだ。頭をリセットさせてからだ」


「わかった」


「りょうかーい」


 トッポとフーミンは、頷いた。


 悲しむだけ悲しんだ。今日からは、ヘイホーを殺した奴に復讐をする番だ。



「もうすぐで、夜だ」


 睡眠を取り、食事をした俺は、秘密基地に向かっていた。


「ロック」


 秘密基地へ向かう途中で、トッポに話しかけられた。


「トッポ、寝られたか?」


「あぁ、頑張って寝た」


 トッポは、そう言うが目のくまは、黒くなっていて寝不足なのは、見て明らかだった。興奮して、寝られなかったのだろう。


「なぁ、ロック」


「どうした?」


「ヘイホーを殺ったのは、通り魔だと思うか?」


「俺は、間違いなく、そいつだと思っている」


 通り魔の仕業と思われる、事件の次の日にヘイホーの死体が見つかった。ヘイホーは、人から恨まれる性格はしていない。見てしまったのだ。


 通り魔が、人をあやめるところを。


「正体は、誰だと思う?」


「わからないが、絶対に突き止めてやる」


 トッポと話していると、秘密基地にたどり着いた。


「ランタンが三つしかない」


 てことは、先にフーミンが秘密基地の中に入っているのか。


「おかしい」


 トッポは、ランタンの数を見て、一言呟いた。


「トッポ。おかしいって、なにがおかしいんだ? フーミンが、秘密基地に入っているんじゃないか?」


「いや、それはあり得ない」


 トッポは、何かを確信しているように言う。


「どういうことだ?」


「フーミンとは、さっき会っている。『先に行っていて』って、伝言も預かっているからだ」


「てことは」


「あぁ、秘密基地の中にいるのは、俺達以外の誰かだ」


 一気に緊張感が、増した。


最後まで読んでくれてありがとう 2023年11月12日

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