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君と歩んだ地獄手記。  作者: 秋月
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第一章 三項 交渉一日目

目の前にはまるで木を彫って作ったかのよう繊細だが、堂々とした石造りの館が現れる。多少なりとも薄汚れかつてのような煌びやかさに欠けるといっても、その重厚感と貫録は今の方が勝っているのだろう。


「この建物はなんだ」


獄卒は玄関の階段を上りながら言った。

「ここはかつてここら辺では一番大きな銀行だった。しかし、戦争の影響と革命の影響で経営難となって、今となってはそのままの状態で放置されている」


入り口をくぐると、薄暗く埃っぽい状態のロビーが広がっている。


「さて、亡者はこの中にいるはずだ。まず、交渉のためにも情報収集をした方がいいだろう」


散乱する木片と物置場と化したロビーをどうにか通り抜けて一階の左側の部屋へ入った。

そこはかつて、銀行員たちが働いていたオフィスという感じで机が横一列に並べられてそれの両側に向かい合うように椅子がズラッと並べられている。

タイプライターや書類が机の上に広がっている状態で放置されていることからすると多くの銀行員が逃げるようにこの銀行から去っていったのだろう。

机の上に無造作に置かれている書類の表紙の横には1905と記してあった。


さっき通ったのと違う比較的小さな扉を通ってロビーに出て、銀行員の受付側に回る。そうすると正面玄関からも見えていた木製の大きな階段が現れた。

「この広いのが二階にもあるのか」とボソッとつぶやき階段の一段目に足をかけた。麟太郎が一段さらにもう一段と階段を上るにつれ階段の軋む大きな音がロビー全体に響き渡り、いままで人々の記憶から消されていた空虚な空間の静けさを壊した。


突然、麟太郎から離れて歩いていた獄卒が急に麟太郎に近づいて言葉を発した。

「亡者にもいろいろな種類がいるが多くの亡者は生前多く過ごした場所や人の周りに留まろうとする傾向がある。あの亡者も例外ではないだろう」


階段を中段まで上がって吹き抜けとなっている二階を見ると亡者が部屋の前に警備員の姿で立っておりその亡者の目は確実に麟太郎たちを捉えていた。


「そんなところで何をしているんだ」

麟太郎は階段を駆け上がりながら大きな声で亡者に尋ねた。


「君たちこそこんなところで何をしている。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

亡者は右手に持っていたライフルを両手でもって構え、その銃口は麟太郎に向けられた。


ゆっくりと手を挙げながら麟太郎は言う。

「もうアンタは死んでいるんだ。早くあの世へ行って生まれ変わるなりした方がアンタのためになるだろ」


「もう死んでいる?何を言っている。私はこうして銃を持っているし、現に君たちは私が見えているじゃないか」


「いいから早く僕についてこい。後から愚痴はいくらでも聞いてやる」

麟太郎はゆっくりと亡者に近づきライフルを掴み、射線を自身から素早く外した。


「何を言っているのかわからない!私はここを離れるつもは微塵もない。早くここから出て行ってくれ!」

そういうと亡者は足を使ってライフルから麟太郎を引き離し再び構えて天井に向かって威嚇射撃をした。


サッと麟太郎に獄卒は近づいて言う。

「君の体はいわば器だ。借り物の体なんだ。撃たれれば当然、怪我もするし人間が一般的に言う死を再び経験することになる」


「つまり?」


「逃げないとまずいってことだ」

その瞬間亡者の持っているライフルが麟太郎に向かって火を噴いた。

幸いにも弾丸は麟太郎をかすめるのみで身体に直接の害はなく、麟太郎は肩にかすり傷を作るだけで済んだのだが、亡者は次弾を撃とうとリロードをしている。


「走れ!」

獄卒が叫んだ瞬間、麟太郎は階段を駆け下りた。

その間も亡者は射撃を止めない。


麟太郎が階段の中段に差し掛かった時、亡者の放った銃弾が階段の装飾に命中し、その木片がカッターの刃のようになって麟太郎に降りかかった。

そこから、オフィスを通り、散らかったロビーを抜け、いわば亡者の館というべき廃墟から転がり出るのであった。




麟太郎は亡者の屋敷の外でどうするべきか今一度思案に更けていた。


「亡者も元は人間だったんだ」


「そんなことは分かっている」

麟太郎は反射的に答えた。


「いや分かってない。君は表面的なことしかとらえていないんだ。案外人間は損得勘定だけで動くものじゃない」


麟太郎としては時短的猶予は多く残されていない。そのため、早々に解決したかった。


「仕方ないよ。日を改めよう」

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