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君と歩んだ地獄手記。  作者: 秋月
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第二章 二項 3万3000フィート上空にて君を思う

事件発生翌日 

ユリアは両親の死など知る由もなく友人と旅行を楽しんでいる。その国は春には桜が色づき、夏には太陽の光に照らされ無数の鏡を纏った海がキラキラと輝く。そして秋には紅葉の顔を赤く染め、冬には一面銀世界が作り出す様々な顔を持つ美しい国である。彼女はその国の首都、東京に降り立った。

「あー、やっと着いた!」

ユリアは成田空港のターミナルを出るなり体を伸ばしながら言った。

「ごめん。私が検問に引っ掛かっちゃったせいで時間かかって」

「気にしなくていいよ。私も前来たときは検問引っ掛かっちゃたし」

ユリアは友人のクララにいらぬ心配をかけぬように気づかい言う。

「そんなことよりどこから周る?」

ユリアは念願の友人との日本旅行に心を躍らせながら尋ねた。彼女は明るい性格をしている。誰に対しても分け隔てなく接する優しいタイプの人間だから自然と彼女の周りには多くの人が寄ってくるのである。


彼女らが日本を訪れたのは暑い夏が終わり気温が一層冷え込む寒露のころであった。彼女らは一通り東京を観光してから一路、本命の京都へ向かった。彼女らが楽しい日本旅行を過ごす中、その様子は偵察を行う司法省の獄卒によって監視、報告が続けているのである。

その情報は逐一麟太郎たちにも伝達され、麟太郎たちは日本渡航を決定した。あの世の霊道経由で日本に渡るより現世のルートで日本に渡る方がはるかに早く、旅費もかからないとの理由により現世ルートの方が優れていると判断し現世から京都へ向かうことにしたのである。


ホテルで二人は丸テーブルを挟んで向かい合う。

「さぁ、どうする」

麟太郎は泳いで日本海横断は嫌だぞと念を送り、尋ねた。

「わ、わかってるよ」

焦りながら獄卒は答えた。何も、獄卒だってきつい旅がしたいわけではない。

「でも、心配しなくてたって君は今回執行官として任務にあたるんだ。前と違ってしっかりと給料も出るし、旅費もでる」

こんなにおいしいことがあっていいのだろうか?僕のノルマ達成に一つでも近づく上に旅費まで出るだと!しかも給料まで出るというじゃないか。

気を取り直して麟太郎は質問を続けた。

「ではどうする。船で行くか?船で行くなら一等客室をとろう」

「いや、旅費が出るとしても散財はできない。後で領収書を見せたときにこっぴどく怒られるのは俺だからね」

顔も変えず声にも出さないが麟太郎は「だろうな」と思った。

「麟太郎は知っているか?この世には航空機という物があるのだよ」

「コウクウキ?気球のようなものか?」

「はっはっはっ、君たちが射撃管制のために作ったような、ちんけな風船じゃない」

麟太郎は一瞬むっとしたが、獄卒は構わず続ける。

「航空機ってのはもっとでかくて速いんだ。シベリアから大阪までなんて一瞬だよ」

まぁ、樺太まで歩いていくとか、宗谷海峡を泳いで渡れとか言われないだけマシかと思い、獄卒からの侮辱も水に流した。









私は今、3万3000フィート上空にいます。わかりやすくメートル換算をすれば1万メートル上空となるでしょう。やっと、死んだら空を飛ぶという夢が叶いました。しかし、私の思っていた飛行とは違い、大空に手を羽ばたいて飛ぶわけでも地面を蹴って飛び立つわけでもありません。さらに驚いたことに1万メートルの天空にて私の友人はヘッドホンなる蓄音機を耳に着けて優雅に眠っているのです。全く彼の気が知れません。しかし、初めて空を知りました。窓を通してですが、初めて見る果てしなく広がる雲の海原は、この世のしがらみ全てを忘れさせてくれるようであります。また、航空機の小窓から迎える美しい日の出は私にグロリアスドーンと呟かせるものでありました。気が向けば再び手紙を書きます。お元気で。                                            麟太郎より




麟太郎の横では獄卒が涎を垂らしながら眠っている。麟太郎は窓を通して繰り広げられる雲からの日の出を頬杖を突きながら鑑賞していた。それは一枚の風景画のような美しさと優美さを持ち合わせている。しかし、実際の絵と異なる点はこの風景画が現在進行形で動いていることにあった。次第に日の出の第一幕が終わり、いよいよ太陽の上がりきる頃、機内アナウンスが機内に響き渡る。

「皆様おはようございます。機長の長谷川です。本日は大日本航空、84A便をご利用いただき誠にありがとうございます。当機は現在、高度33,000フィートを時速400マイルで飛行中です。現在時刻は午前8時20分であり、天候は良好で、追い風が吹いているので、予定より約10分早く大阪に着陸できる見込みです。日本の天気は晴れ、今日の午後の最高気温は23度とのことです。天気が良ければ、降下する際に街の素晴らしい景色を見ることができるでしょう。当機はまもなく着陸態勢に入ります。着陸の際はシートベルトをしっかりと締め、着陸し終わったのちもお客様の頭上にありますベルトのランプが消えるまで締めた状態でお待ちください」


ブーという飛行機の側面からの振動にビクッとした麟太郎であったがあたかも何事もなかったように獄卒を起こした。

「おい、着くぞ起きろ」

「ふぇぁ?」

「ふぇぁ?じゃない。さっさと起きろ」




それからしばらくして麟太郎と獄卒は大阪の地に足を下した。

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