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君と歩んだ地獄手記。  作者: 秋月
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第一章 八項 試練への霊界汽車の旅



お元気ですか?梅ちゃんにも私は元気でやっているとお伝えください。

さて、私は今東に向かって汽車に揺られています。私の知らない世界で、私と親友とだけの寂しい旅行です。私も驚いたのですが、死後の世界であっても遠い地への旅行や仕事があれば、簡単にどこでも自由に飛んでいけるというわけではなく基本はそちらと同じように、汽車や船を使って長い旅に出なければなりません。昔、あなたともしも死後の世界があるならという話をしましたね。そこで私は死んだらきっと空が飛べるようになるだろうからイカロスのように神のいるところまで飛んでやるさと言ったことをおぼえていますが、あの夢は死んだ今も叶わずのままです。しかし、感動することが一つありました。あの世では東へ向かって特別な汽車に乗ると時空を進めることができ、また逆に西へ向かうと時空を遡ることができるそうです。なので私は今、50年の時空を旅しています。

 基本私がいるのは異世界なのですが、面白いことに私のいる異世界には中世の建物や魔法使いは存在せずほとんど街というのもありません。もちろんそれなりに人はいるのですが、彼らがどこからきてどこへ向かうのか皆目見当がつきません。私のこの世界の唯一の親友である彼によると、異世界は異世界としてあなたといる世界と断絶されているのかというとそうではないらしいです。地方ごとにそちらへ向かう道が用意されえているそうなので、私は仕事でその道を目指して汽車に乗っています。何かあればまた手紙を送りますお元気で。

                                                                                                           麟太郎





麟太郎は彼の記憶の中にいる妻に対して手紙を書いている。もちろんこの手紙には行き先はない。書いては燃やすだけの何の価値もない手紙である。

もうすでに東に向かって三時間は汽車に揺られているだろうか。彼らにはお金がない為、彼らがいるのは客室でもない貨物室の中である。麟太郎はその為、貨物室の扉を少し開け少しの光を得ながら、獄卒のトランクの上で、獄卒に駅で買ってもらった便せんに彼の気持ちを妻に対する手紙を書いているのである。一通り手紙を書き終え、正面に目をやると獄卒が体操座りをした状態で寝ている。

「寝てる……」

「おい、寝てて大丈夫なのか」

麟太郎は不安になって獄卒の体を揺さぶった。

「ん?」

獄卒が顔を上げた瞬間、麟太郎が光源を確保するために開けていた扉の隙間から外のまぶしい光がちょうど獄卒の顔に当たり、獄卒は少し上げた頭をすぐに戻した。


「ん?じゃねぇーよ。この汽車、貨物だけしか載せてないんだろ?駅にちゃんと停まるのか?」

獄卒は頭を下げたまま、だるそうに少し空いた扉の隙間を指さした。

「ああ、扉はある。出ようと思えば出れるんだ」


麟太郎は獄卒が最後わずかに「降りる」と言っているのは聞き取れるのだが、肝心の前文が聞こえない。

「ああ、降りるのは分かっている。どうやって降りるんだと聞いているんだ」

また獄卒はごにょごよ言っているが今度はなんとなく聞き取れた。

「ん?」

一瞬聞く耳を疑った。

「お前今、「飛び」降りるって言ったか?」

まただるそうに獄卒は一心不乱に頭を振り続けている。

「はぁ?お前一回起きろ」

麟太郎は獄卒の腕をガシッと掴み上へ引き上げた。

「飛び降りるのか?」

「そうだといってるだろ?」

「どうするんだ、外を見てみろ結構なスピードあるぞ」

獄卒は軍帽の庇をもって狭い扉の外からか車掌のような感じで顔をのぞかせた。

「そろそろだ行くよ!」

「行くよってお前」

次の瞬間、獄卒は彼のトランクを扉から放り投げ続いて彼自身の体も汽車から放り投げた。


麟太郎は一人取り残された。

しかし、呑気にしている余裕はない。もし、獄卒から離れすぎると壁にぶち当たり、続いて追いつく貨物室の壁に押しつぶされてしまうからである。

「クソッ」

麟太郎は汽車から飛び降り受け身をとって着地した。


麟太郎が立とうと手を地面に着いたとき彼の肘に硬い感触があった。

「あっぶね」

何と、彼のいる数センチ左には獄卒の張る結界があったのである。



遠くから獄卒の麟太郎を呼ぶ声が聞こえる。

「おーい、大丈夫かい?」

ああ、もしここであいつを殺れるならどんなに楽なことか。


近づいていくと獄卒の顔にはさっきのような睡魔と戦うようなしんどそうな様子はなく、いつもの獄卒の姿に戻っていた。

「ここからどうするつもりだ」

「歩きかな」

獄卒は駅の売店で買った地図を見ながら答えた。

「どのくらいかかる」

「ざっと三時間かな。でも途中で荷馬車や車が捕まればもっと早くつけるよ」




麟太郎と獄卒は一帯草原の道なき道を進んでゆく。目指すは凶悪な亡者が存在する世界、極寒の地シベリアの裏の世界である。



第一章 完 








おまけ

ホテルにて


「ボリスはあの後どうなった」

麟太郎は獄卒と部屋に帰ってきて部屋に着くなり尋ねた。

「俺が責任をもってあの世の審判を受けさせたよ」

「それで結果は?」

獄卒は少々食いつき気味の麟太郎の質問に圧倒されたがいつも通り穏やかな口調で答えた。



「無事、転生することが決まった」

「良かった」

一瞬張り詰めた空気がほどけた瞬間であった。


麟太郎は軍帽を机に置きまた、不思議そうに尋ねた。

「一つ疑問に思ったことがある」

「なんだい?」

「どうして僕がボリスと交渉している時、僕は君から離れることができたんだ?君がボリスをあの世へ連れて行っている時もそうだ」

「簡単なことさ。君の魂をあの場所に結びつけた」

麟太郎はその言葉に驚いた

「それじゃ!」

「もし君が交渉に失敗していたら、君は確実に死んでいて永遠とあの世をさまよい続けることになっただろう」

続けて獄卒は言う

「でも君は失敗しないだろ?」

本当にあの博打に勝ったことに胸を撫で下ろすばかりだった。


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