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くノ一その一今のうち  作者: 大橋むつお
81/96

81『サマル王子だっちゃ』

くノ一その一今のうち


81『サマル王子だっちゃ』そのいち 






 かつて潜入した草原の国は買ったばかりの緑の絨毯のようだった。



 それに比べ、救護トラックの荷台から見えるB国の草原は廃棄寸前の玄関マットのように禿げてみすぼらしい。


 大昔、国境など無かった時代はひとくくりの草原でそれほどの優劣は無かったんじゃないだろうか。


 よく見ると、擦り切れた草むらの間にひしゃげた軍用車両や赤さびた何かの残骸が見える。


「旧ソ連時代、この辺りは演習場や射爆場だった。戦術核の実験場にされたこともあって、まだ十分に回復してないのよ」


 いつの間にか目覚めたアデリヤ姫が説明してくれる。


「でも、ほら……」


 王女が指差した向こうに王都が見え、王都からこちらは青々と草が茂っている。


 トラックに乗っている避難民も、やっとオアシスを見つけた砂漠の迷子のように安堵の表情になっている。


「サマルが旗を振って作った草原牧場、日本人が見れば立派に見えるかもしれないけど、国土面積の2%にも満たない。普段はサマルの箱庭と呼ばれてるけど、まあ、今度の避難民を収容するには十分ね」


 さらに進むと、カーキ色の軍用テントの群れが見え始める。


 テント村はまだ設営中のものもあって、兵士たちが設営と難民受け入れに分かれて忙しく働き、一部のテントでは先客の難民たちが荷物を整理したりテントの中を整えたりしている。




「え……」




 中央のテントで地図を睨んでいた将校の一人が顔を上げた。


 なにかのコスプレかと思うほどに髭も軍服も似合っていない将校は少佐の階級章を付けていて、初めてジャンボリーに参加したボーイスカウトのように可愛く力んでいた。


「続けていてくれ」


 そう言うと、少佐殿はトラックから下りたばかりの我々のもとに寄ってきた。


「大変だったねみんな、テントは設営中だが、君たちが入る分はもうできているよ。准尉、みんなを案内してあげてくれ」


「イエッサー!」


 ベテラン准尉のおっさんが――あとはお任せを――という顔で敬礼し、部下の兵隊に指図する。


 ボーイスカウトは、部下たちにウンウン頷くと、わたしたちのところに寄ってきた。


「なんで、アデリヤがいるんだ?」


「どこか話の出来るところに案内してちょうだい、少佐どの」


 ボーイスカウトは髭を捻ると、偉そうに後ろ手組んで真新しいテントの一つに歩いて行った。




「お久しぶり。思ったとおり、段取りのいい皇太子殿下ね、髭も良く似合ってる」




 けして誉め言葉ではない挨拶をすると、傲然と睨み上げるアデリヤ姫。


「国民の保護は国家第一の責務だからね。こちらは、ただの侍女には見えないけど?」


「日本から来た映画の撮影隊のメンバーだ」


「ああ、やっぱり映画は作るんだ。高原の国は平和主義の原則を貫くんだねぇ、うんうん」


「主演女優鈴木友子の付き人で、風魔そのいちと申します」


「そのいち……微妙に長いねぇ、ソノッチって呼んでいい?」


「はい、みんなにもそう呼ばれています。殿下は日本人の愛称にも詳しくていらっしゃいますね」


「うん、日本のアニメやラノベは大好きだっちゃ。ぼくの日本語イケてるだっちゃ(^_^;)?」


「はい、とてもお上手です」


 ――だっちゃ――って、いつごろのアニメだっちゃ!?



「それで、どうすんのよB国は?」


「あ、だから難民の保護を……」


「そんなもん、サマルがやらなくったって、工兵隊の一個大隊もあてがってりゃできるでしょ。いま、大事なのは……」


「あ、ちょ、アデリヤ!」


 意外な力でサマルを外に引っ張り出すと、テント群の向こう、城壁の向こうのそのまた向こうに聳える王城を指さした。


「あそこでは、A国に倣って草原の国に味方するか、我らの高原の国に味方するか、伯父さんの国王や大臣たちが頭をひねってるんでしょ!」


「ああ、アデリヤとは従兄妹同士だし、今までのこともあるし、悪いようには決まらないよ。それに、草原と高原って、よく似てるし。ひらがなで書いたら『そ』と『こ』の違いだけだから。な、似てるってことは、きっとうまくいくってことで……」


「漢字で書いたら、草原の国は『草』よ、クサ! クサの味方する奴はウンコだからな!」


「ウ、ウンコ……!(꒪ꇴ꒪〣)」




 過去になにか確執があったのかウンコの破壊力はすごく、完全にアデリヤ王女がマウントをとった!




☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち

風間 その子       風間そのの祖母(下忍)

百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち

鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫

忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔

服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一

十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下

杵間さん         帝国キネマ撮影所所長

えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手

豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟

ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)

アデリヤ         高原の国第一王女


 

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