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くノ一その一今のうち  作者: 大橋むつお
77/96

77『国境警備司令部は日暮里に似ている』

くノ一その一今のうち


77『国境警備司令部は日暮里に似ている』そのいち 





 日暮里に似ている。


 峠から見下ろして、そう思った。



 日暮里から東に向けて関東平野は低くなっている。口の悪いお祖母ちゃんは「日暮里から転げ落ちてたどり着いたところが埼玉だ」とか言う。「その高低の境目に山手線を通して東西両方の発展を計ったのは偉いけどね」と鶯谷を過ぎて日暮里に向かう電車の中で言っていた。忍者を引退したお祖母ちゃんは、ひところ日暮里の繊維問屋から真田紐を織る仕事をもらっていた。月に一度品物を納めに行くときに連れて行ってもらって、そういう話を聞いた。


 ここの高低差は山手線から見た、それの十倍はあるだろうし、下った大地の広さは関東平野の比ではないけど地形としては相似形だ。


 旧ソ連の構成国だったA国B国の草原が地平線の向こうまで広がっている。


 山手線に当るのがA国B国との国境線だ。


 日暮里駅は、ざっくり言って、文京区と荒川・台東の二つの区の結節点にある。この日暮里駅に当るのが高原の国の国境警備司令部。その司令部に向かう峠道で馬の足を止めている。


「北がA国、その南がB国、さらに、その北西が草原の国だ。B国はその中でも一番小さな国だが、ここを突破口にして攻められたら厄介だ」


 そう言えば台東区は、東京23区の中でいちばん小さい。


 今の状況は、埼玉県が台東区と荒川区を嚇して山手線の内側に攻め込もうとしているのに似ている。


 そう思って振り返ると、先の方だけ小さく見えている王宮の塔がスカイツリーに見えなくもない。


「B国は小さな国でな、歴年、草原の国や我が高原の国によしみを通じて国を維持してきた。おおむねうまく立ち回ってきたが、二度ほど国策を誤って他国に併合されている。大事になる前に手当てをしたい」


「B国に特別な思いをお持ちなのですか?」


「母上は、B国から嫁がれた……わたしの血の半分はB国だ」


「そうだったんですか……」


「ひいお婆さまが日本人であったことに興味はない。それよりも、この身の半分を形作っているB国を救ってやりたい。いくぞ!」


「了解」


 

 峠を駆け下りて国境警備司令部は目と鼻の先だ。


 対戦車壕と鉄条網が二重になった先、我々の接近に気付いて、司令部のゲートと監視哨で人が動きだした。


 


☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち

風間 その子       風間そのの祖母(下忍)

百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち

鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫

忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔

服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一

十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下

杵間さん         帝国キネマ撮影所所長

えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手

豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟

ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)

アデリヤ         高原の国第一王女


 

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