表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くノ一その一今のうち  作者: 大橋むつお
57/96

57『ホームズのメモ』

くノ一その一今のうち


57『ホームズのメモ』 





 スタジオに入ると、幾つもあるセットの中、ホームズの探偵事務所だけに明かりが灯っていた。


 雑然としたところは相変わらず。でも、二回目なのか、メインのテーブルは直ぐに分かった。


 板ガラスと緑のフェルトの間には、様々なメモやら地図やら領収書やらが挟まれていて、大方は黄ばんでしまった中に、まだ白さを保ったメモが目に留まった。


――お宝は大阪城内にある模様だが、大阪城のどこであるかは不明――


 なんだ、そのことは、とっくに知っている。


「下に、もう一枚あります」


 えいちゃんが見つけたそれは、黄ばんだメモの中に紛れていて、一見しただけでは分からない。横着なのか、探偵らしく擬装したのかは判断しにくい。


――空堀の坂道で木下の連中が目撃されている――


 空堀の坂道!?


 これは有力な情報だ!


「えいちゃん、大阪城に行くよ!」


「はい!」


 足元に注意しながらセットを出る。ホームズの事務所も散らかってるけど、スタジオのフロアは照明のケーブルや道具やらが散らばっている。隣のセットにも明かりがともったので、比較的楽にスタジオの扉にたどり着けた。


 大阪の地理には不案内だけど、大雑把には調べた。地理情報の収集は忍者の基本。


 大阪は東京に比べて300平方キロメートルも狭く、山手線と環状線の内側で比べると大阪は東京の半分も無い。


 下手にタクシーを待つよりは公共交通機関を使った方が早い。


「あ、ここから先は……」


 撮影所の門を出たところでえいちゃんが立ち止まる。


「どうした?」


「わたし二次元だから、このままリアルには出られません」


「え、あ、そうか」


 えいちゃんはポスターから抜け出したばかりで、まだ奥行きが無い。わたしには、横向きであろうと後ろ向きであろうと、平面の側を見せてくれるので、二次元だと言うことは忘れていた。


「よし、じゃあ、こうしよう!」


「え、あ、ちょ……」


 四の五の言わせず、えいちゃんをクルクル巻いてカバンに突っ込む。学校帰りにアキバでポスターをゲットしたJKの感じだ。


 撮影所の前の橋を渡ると長瀬川沿いの二車線の道路、右を向くと緩くカーブした先に長瀬駅が見える。


 とっとと歩く、ちょうど下校時間と重なって、駅に向かう高校生や大学生に紛れる。


『地味に目立ちますね』


 丸めたままのえいちゃんが心配する。わたしは東京の制服のまま、地元のK付属高校の制服とは、ちょっと違う。


「大丈夫よ、これでどう?」


 制服は変えられないけど、少しだけ背中を丸めて緊張感を抜き、歩く速さを高校生たちに合わせる。


『あ、溶け込みましたね!』


 骨柄はまあやにソックリだけど、顔のパーツは地味子そのもの。周囲の人たちは犬が歩いているほどにも気を停めない。


 面倒だけど切符を買う。ICカードだと履歴が残るからね。


 長瀬駅は先頭車両が地獄のように混む。


 スタスタ歩いてホームの後ろの方へ、ちょうどやってきた上六行きの普通に乗る。


 電車は長瀬駅を過ぎて高架になる。途中JR東線を跨ぐので、けっこう高く、進行方向左側の窓からは大阪の街が一望に見渡せる。


 ああ、あれがあべのハルカス……ビルとしては日本で一番高い。


 他に高いビルが無いので格好のランドマーク、少し北に目を向けると通天閣、ちょっと低くて地上に降りたら目印にはなりにくい。大阪城はもう少し北……これは見えない。


 ざっと見渡して環状線の内側なら、自分の脚で走っても40分もあればどこにでも行ける。


 この任務、あたりを付けるところまでなら比較的簡単に済むかもしれない。


 少し冷静になったところで、景色が回る、布施駅が近づいて電車は大きく西に首を振った。


 鶴橋に向かって環状線に乗り換えれば、三つ目が大阪城公園。


 しかし、大阪城の中心に至るには手前の森ノ宮駅で降りた方が早い。


 ざっと下調べしただけだが、もう半分済んだような気になった。


 


 

☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち

風間 その子       風間そのの祖母(下忍)

百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち

鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫

忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔

服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一

十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下

杵間さん         帝国キネマ撮影所所長

えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ