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くノ一その一今のうち  作者: 大橋むつお
54/96

54『帝国キネマ撮影所 杵間所長・1』

くノ一その一今のうち


54『帝国キネマ撮影所 杵間所長・1』 





 忍者の性で直ぐには入らない。




 スス……




 一度右に、瞬間で左に重心を移し替えて走る。


 仮にわたしに目を付けている者がいたとしても、最初の右への動作に引っ張られ、わたしが消えたように見える。


 忍者がドロンと消えて見えるのは、たいていこの手にひっかかっている。忍者が化けたり消えたりするのは、大方こういう錯覚を利用している。そうではない術もあるんだけども、それは秘密。


 撮影所の南辺に沿って走る。


 南側は緩い下り坂になっていて、150メートルほど行ったところで低い崖。


 崖の縁に塀が伸びている。塀に沿って200メートル。


 切れて右側が上り坂。上って150メートル。突き当たると長瀬川で、そのまま南に走って、もとのゲート前。


 ざっと30000平米、大き目の高校、小振りの大学程度の広さ。


 所々で、電柱や木のてっぺんに上がって様子も見た。


 二階建ての本館が東西に延びて、ゲートに至る所で「L」の字に曲がって、曲がった角のところが正面玄関。


「L」の字に向き合うように二棟の大きなスタジオ。


 上空から見れば「に」の形に見えるだろ。


 その「に」の字の内側も外側にも気配が無い。


 撮影所なら、たとえ休みでも、道具を作ったり照明の仕込をしていたりするだろうに……ここから先は入ってみなければ分からない。




「こんにちは……すみませ~ん……」




 玄関入った受付で声をかけるが、受付の中は弱く点けられたストーブの上でヤカンが湯気を上げ、掛け時計がコチコチ鳴っているだけ。


 しばらく覗き込んで振り返ると『第一スタヂオに居ります 杵間きねま』の張り紙。


 壁の『第一スタヂオ⇒』の案内に沿って「に」の下の横棒にあたる第一スタヂオ向かう。


 巨大な格納庫という感じ。


 正面が大きな引き戸式の扉。扉には『第一スタヂオ』と白ペンキで書かれていて、『第一』の下にドアがある。ドアのうえには『撮影中』の赤ランプがあるんだけども灯ってはいないから大丈夫なんだろう。


「失礼します」


 小さく声をかけて中に入る。


 甲府城の時と同様、片目をつぶって慣らしておいたんだけど、スタジオの中は真の闇で役に立たない。


 令和の時代なら『非常口』のランプぐらいは点いているものなのだけど、スタヂオと旧仮名遣いで書くぐらいだから、そういうヤボはしないのか。


 敵意も殺意も、人の気配さえ感じない。


 忍者になって半年、こういう気配の無さはかえって要警戒なんだけど、あえて力は抜く。


 おそらく杵間さんは、この闇のどこかに居る。




 カチャリ




 音がしたかと思うと、スタジオの床に光の柱が立った!


 思わず後ろに飛び退ると、光の根っこから人影が上がってきた。


「あ、これは失礼しました」


 人影が口をきくと同時にスタジオの常夜灯が灯って、地下の点検口から人が上がってきたところだと分かった。


「すみません、声はかけたんですが無断で入ってきたようになってしまいました」


「いえいえ、守衛室にいたんですが、スタヂオの電気点検が残っていたのを思い出しましてね。昭和五年の火災は漏電が原因でしたので思い出すと居てもたっても……いや、失礼しました。所長の杵間です」


 ハンチングを脱いだ顔は声よりも更けていたが「さあ、こちらへ」と入り口に進む足腰は少年のように軽やかだった。




☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち

風間 その子       風間そのの祖母(下忍)

百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち

鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫

忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔

服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一

十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下

杵間さん         帝国キネマ撮影所所長


 


 

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