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くノ一その一今のうち  作者: 大橋むつお
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47『心の奥』

くノ一その一今のうち


47『心の奥』 






 心(甲斐善光寺の地下戒壇)の中は陰圧が掛かっていて、外の戒壇に空気が漏れないようになっている。


 だから、ニオイも気配も外に漏れることが無く発見が遅れた。




 しかし、陰圧が掛かっているということは、吸い込まれた空気がどこかに抜けているということだ。


 抜けていく方向に何かがある、恐らくは信玄の埋蔵金の大半を収めた洞窟が。


 甲府城の地下にあったのは、埋蔵金のパートワンというか見せ金だ。本命の埋蔵金に寄せ付けないためのダミーに過ぎない。


 


 立ったままの姿勢でじっと動かない。感度をよくするために両手をパーにして伸ばしている。




 動いてしまえば、空気をかき回してしまい、この微かな空気の流れを見失ってしまう。


 両手を広げて立っているなんて、忍者にあるまじき無防備さだ。


 腕のいい忍びが吹き矢でも吹けば逃げようがない。至近距離なら手裏剣でさえ避けきれないだろう。




 …………分からない。




 入り口は狭い分、空気の流れが早くて陰圧として空気の流れを感じられた。だが、ここは教室ほどの広さがあって両手を広げたぐらいでは空気の流れを掴めない。視覚的には右前方に窪みがあって、そこから先が続いているように見えなくもない。しかし、わたしも忍者。五感のうちで視覚が最も騙されやすいのを知っている。


 こういう場合、風魔忍者は裸になる。裸になれば全身の皮膚で空気の流れを感じられる。


 特にくノ一の胸の先は感度がいいとされる。


 服を脱いで胸を晒せば……いや、それは最後の手段だ。


 取りあえず袖をまくり、ジャージの裾をあげる……手首、肘の裏、ふくらはぎ、膝の裏側がひんやりして空気を感じる。しかし、流れを感じとるところまではいかない。


 ジャージの上をまくり上げ、腹と背中もセンサーにする。


 これで分からなければ……いよいよ胸を晒すしかない(#'∀'#)。


 


 え…………ちょっと混乱した。




 微かに空気の流れを感じるようになったんだけど、それは視覚情報とは真逆。


 左側の隙間も穴も見えない岩肌から風が流れてくるように感じる。


 


 とっさに前転すると同時に掴んだ石を岩肌に向かって投げた!




 スサ!




 小さく、でも鋭い音がしたかと思うと、岩肌がハラリと崩れ、そこから黒い影が飛び出した。


 崩れたのは岩肌に見せた布切れだ。


 


 セイ!




 手裏剣を投げると『ドス』っという音と手応えがし、影が立ち止まって、こちらを向いた。


 影の太ももに手裏剣が刺さっている。


「やはり、現役を相手にするには歳を取り過ぎたか……」


 そう言って太ももの手裏剣を抜いて、こちらを向いたのは意外な顔だった。


「………多田さん!?」


 それは、年老いたお母さんが危篤ということでスタッフから抜けた照明係りの多田さん。


 やっぱり、佐助の手下だったんだ。印象の薄い人で顔も思い出せなかったけど、今は、しっかり分かる。多田さん本人も隠そうとしていない。


「そのッチはいいものを持ってるよ、くノ一としても年頃の女の子としても」


「なっ(#・▲・#)」


 思わずお腹を隠してしまう。


「ふふ、岩陰に隠れて思わず体が熱くなって、それで見つかってしまうとは忍者としては失格だがね……」


 


 ピカ!




 その瞬間、心の中は無音の雷が落ちたように光に満ちてホワイトアウト!



 数秒たって目を開けると、心の入り口が開いていて、それまで影が潜んでいたところは岩肌に重なりがあって奥が見えないようになっている、覗いてみると、さらに岩の重なりがあって奥に広がっていることが分かった。


 


☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち

風間 その子       風間そのの祖母(下忍)

百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち

鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫

忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔

服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一

十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者


 

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