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くノ一その一今のうち  作者: 大橋むつお
44/96

44『まあやと朝ごはん』

くノ一その一今のうち


44『まあやと朝ごはん』 





 気が付くと相変わらずの真っ暗。



 でも、瞬間で分かった。ここは甲府城の地下ではない…………昨日訪れたばかりの甲斐善光寺の戒壇巡りの中だ。


 忍者の五感は常人の倍は鋭い。特に肌感覚と嗅覚は数倍の鋭さがある。


 例え同じ闇の中に居ても、肌で感じる空気とニオイが違うんだ。


 善光寺の戒壇は人の出入りが多く、その出入りによって、寺院特有の抹香や木の匂いが混ぜられて独特なんだ。たった今まで居た甲府城の地下にはそれが無い。それに、あれだけ押し寄せてきた水のニオイや土砂の埃臭さがまるでしない。


―― 気が付いたか ――


―― どうして、善光寺の戒壇? それに!? ――


 そうだ、意識を失ったのは課長代理に当身をくらわされたからだ。


―― あれは佐助の幻術だ ――


―― あの謝恩碑の、すごい勢いで流れ出した水が? ――


―― ああ、一種の暗示だ。あれの暗示にかかると、実際に水が無くても溺れ死んでしまう ――


―― リアルの水が無くても? ――


―― そのには、まだ佐助の術への耐性がないから眠らせるしかなかった。坑道の一つを抜けるとここまで来てしまった ――


―― すみません、不覚でした ――




 朝になって参拝客が入って来るのを待って戒壇を出る。




 一晩闇の中に居たので、薄暗い金堂の中でも強烈に眩しく、数分ご本尊を拝むふりをして目を慣らせてからホテルに戻った。


 夕べは遅くまで撮影準備をしていて、この日の撮影は午後からになっていたので助かった。


「照明の多田さん、お父さんが危篤だそうよ」


 朝ごはんのバイキングの列に並んでいると、お手洗いを済ませてきたまあやが報告してくれる。


「多田さんは残って仕事するって言ってたらしいけど、監督が『親孝行してこい』って、叱るようにして帰したって」


「え、そうなんだ!」


 まあやは自分の身内の事のように眉を顰め、わたしは―― あのオッサンか! ――とビックリした。


 ほら、夕べ稲荷曲輪の井戸から下りた時、上の蓋を閉めた奴。課長代理は「ロケチームの中に居る。朝になれば分かる」って!


「でもね、わたし、多田さんの顔思い出せなくて……」


 まあやは、人気俳優なのに気配りの行き届いた子で、キャストやスタッフの全員の顔を憶えている。


 当日限りのアルバイトや仕出しの役者にも、ちゃんと挨拶をして記憶に留めようとする。


 さすがは豊臣秀吉の末裔だと感心した。


 これが戦国の世で、本人に欲があれば天下が取れる。


 そうなれば、参謀の黒田官兵衛は……課長代理。


 わたしは豊臣家筆頭忍者の猿飛佐助……ダメだ、すでに木下家の方にクソ猿飛が居る。


 多田と聞いて、ちょっと自負するところもある。こういう間諜めいた奴は印象を薄くして気取られないようにしている。じっさい、このまあやが顔を憶えられない程度には。


 でも、わたしは多田の顔も印象もしっかり記憶している。


 風魔そのいち、少しは自信を持っていいかもしれないと密かに自負した。


「あ、野菜も食べなきゃダメでしょ!」


「朝から野菜なんて食べられないよ(^△^;)、あ、ちょ……もう」


 まあやのトレーにサラダと野沢菜の漬物を載せてやる。


 まあやの数少ない欠点。たった今もお手洗いに行ったのに、まさに手を洗っただけだ。


「野菜食べないと、しっかりしたウンチ出ないんだからね!」


「え、あ、ちょ(;゜Д゜#)」


 ワハハハハ


 わたしの遠慮のない声とまあやの慌てぶりに笑いの満ちるダイニングだった。


 


☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち

風間 その子       風間そのの祖母(下忍)

百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち

鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫

忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔

服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一

十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者


 

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