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くノ一その一今のうち  作者: 大橋むつお
41/96

41『甲府城・2』

くノ一その一今のうち


41『甲府城・2』 





 え、わたしからですか?



 待ち合わせの稲荷櫓の前で落ち合うと「ノッチが想うところを聞かせて」と涼しい顔で言われる。


 三村紘一、いや、課長代理なんだから、なにか見通しがあってのことだとお昼ご飯もロケ弁一つで済ませた。


 もう一つや二つ食べたかったんだけど(忍者は食べられるときに食べておく=風魔流極意)、猿飛佐助たち木下の忍者たちとの戦いも予想される。食べ過ぎては体が重くなる。


「僕なりに見えてきたこともあるんだけど、十分とは言えない。被っても構わないからノッチの感想を聞かせてほしいんだけどね」


 脚本家三村紘一として喋っているから優しいんだけど、課長代理服部半三としての狙いが潜んでいる。


 上忍として下忍を教育すると意味もあるだろう、ゴクンと唾を呑んで答える。


「城はJRによって南北に分断されています。これは、単に鉄路施設の適地を選んだためですが、信玄公以来続いてきた武家勢力の命脈を断ち切るという明治政府の底意が窺えます。城址公園としての整備が行き届いていますが、石垣と城門の復元に重点が置かれ、天守閣の復元などの一点豪華主義に走らず、城としての構えに力が注がれていることが見て取れます。その中にあって、この稲荷櫓のみが独立した櫓として復元されています。これは、下を走る列車からの景色を意識したためだと思います。単に、近隣県民のみならず、通過する旅行客にもアピールする狙いがあるんだと思います……」


 パチパチパチパチパチパチ


「素晴らしい、ノッチは明日からでも甲府市の観光課長が務まりそうだ!」


 ムグ……これは誉め言葉ではない。肝心の事が抜けていることを「観光課長が務まりそうだと」冷やかしているんだ。


「ひとつ伺っていいですか?」


「なんなりと、でも、口を尖らせるのは止しましょう」


 プ


 目にもとまらぬ早業で頬っぺたを挟まれて空気が漏れる。


 アハハハ


 いっしょに笑ってしまう。くそ、なんだか年の離れたカップルみたいじゃないか!


「え、えと……あそこ、本丸に謝恩碑があるじゃないですか、明治の大水害で明治天皇が復興援助されたときの」


「ああ、山梨県民の謝恩の心が現われていて、けっこうな石碑だね」


「忠魂碑や兵隊さんのお墓もそうなんですけど、なんで、オベリスクの形になってるんですか?」


「あれはオベリスクでは無いんだ」


「でも、あの形はエジプトに起源があって、ワシントンDCとかにもあるじゃないですか」


 ちょっと主題からは離れているんだけど、カップル擬装としては適当だろう。


「あれは、方尖塔と云ってね、ちゃんと神道に則った様式でね、明治の初年には確立されたものなんだ。だから戦後は国家神道に繋がると忌避されて作られなくなった」


 へえ、そうだったんだ。


「でも、謝恩の気持ちを表すなら天守台の方が良かったんじゃないですか、天守台の方が高いし」


「甲府城に天守閣があったという確証は無いんだ。天守台までは作ったんだが、江戸城の天守も明暦の大火で焼けてしまったからね、遠慮があったのかもしれない……うん?」


「なんですか?」


「今度はノッチの手で僕の頬っぺたを挟んでくれないか?」


「え?」


「いいからいいから(^▽^)」


 言われて周囲に気を飛ばした……微かにだけど、こちらを窺う気配が二人分。


「いや、三人分だ」


 やっぱり課長代理は鋭い。ここは年の離れたカップルでいかなきゃ。


 膨れた三村紘一の頬っぺたを両手で挟んで圧を加える。



 プゥゥゥ~~



 抜けた空気は口からではなくお尻から出た(#^_^#)。


「もお!」


 直後、三人分の気配は霧消した。


 


☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち

風間 その子       風間そのの祖母(下忍)

百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち

鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫

忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔

服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一

十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

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