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くノ一その一今のうち  作者: 大橋むつお
32/96

32『王子を逃がす』

くノ一その一今のうち


32『王子を逃がす』 




 街を出てからどうするんだろう?



 敵の大方を撒いて、あとは街を抜け出すばかりになった。


 社長は、ざっくりとした指示しかしない。


 敵の出方で、戦術を変えなければならないこともあるし、一人が捕まった場合、全てが敵に知られてしまう恐れもある。


 そのために、頭の忍者は、いくつもの手立てを組んでおく。松ぼっくりの他にも、社長は手立てをしているはずだ。


 だから、一瞬頭に浮かんだ―― どうするんだろう? ――は胸の底に沈める。


―― 間もなく、ラクダが走り出して追跡の車が出る。その一台を奪う ――


「「「承知」」」


 わざわざ声に出したのは、王子に聞かせるためだ。素人の王子は先が読めなければ不安に思って混乱する。混乱した人間を無事に逃がすのは難しい。だから声に出した。闇語りした社長も含めて。


「わたしはラクダで」


「「承知」」


 わたしのアドリブに、社長も嫁持ちさんが返事。




 ンゴオオオオオオ!




 グロテスクな声をあげてラクダたちが駆けだす。社長がなにか仕掛けていたんだろう、あれは、人間で言えば「イテエ!」と悲鳴をあげたみたいだった。


「「「散!」」」 


 一頭残ったラクダの背に跨って腹を蹴る。


 ンゴオ!


 ラクダに乗るのは初めてだけど、馬の要領と変わらない。わたしに御せている、社長は一番穏やかな奴を残してくれたんだ。


 シュッ シュッ


 空気を裂くような音。


 パンパン 


 一秒遅れて銃声。


 ……300メートルは離れている。草原のわずかな高低差を読みながら走る。


 ブオーーー 


 車の追跡も始まった、月明かりもある。姿をくらますのが肝要だ。


 ブオー


 車の音があさっての方角に外れる。よし、あの稜線を超えたら、もう一度方向を変えよう。


 セイ!


 勢いをつけて稜線を超える。


 ズサッ!!


 ラクダの着地にしては音が大きいと思ったら、社長たちの車が目の前で停車。


 運転席から嫁持ちさんが飛び出す。


 目線で分かる―― 交代 ――のサインだ。


 ラクダの背中に王子を乗せ、嫁持ちさんが鞭を当てて先に進む。


「あのグリーン手前のバンカーに車を落とす。そこから一打でオンしてパーセーブだ。キャディーを見失うな」


 ゴルフのような事を言う。要は、車を捨てて真っ直ぐ突き進み、嫁持ちさんと合流のうえ、王子を城内に送り届けるということだ。


 


 ズザザザザ! ボン!




 バンカーを転がり落ちたと思ったら車はボンネット付近で爆発炎上してしまった。


 なるほど、これなら追跡者も城の者たちもバンカーに目を奪われる。


 90度回り込んで西門を目指す。


 嫁持ちさんが間に合って、西門は開いている。


 ギイイイ ガチャン!


 だが、今の爆発で警戒されて、あと50メートルというところで門が閉じられてしまう。


 社長が懐に手を突っ込む。コンマ二秒遅れて、社長に倣って鉤爪を出す。


 


 カラン




 鉤爪を投げる寸前に城壁の向こうから鉤爪が投げ出され、ガチッと胸壁を噛んだ。


 エ?


 ほんのコンマ2秒ゲシュタルト崩壊。コンマ3秒後には社長に倣って後方に飛び退る。


 トン


 かそけき音をさせて飛び降りてきたのは嫁持ちさんだ。


―― 罠だ! ――


 忍んだ叫び声で後ろざまに飛び退り逃走退散の姿勢!


 トン


 黒い影が城壁から飛んで、わたしたちの前に立ちふさがった!


 無言で立ち上がったそいつは…………嫁持ちさんが送り届けたばかりの王子だった!


 


☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち

風間 その子       風間そのの祖母(下忍)

百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち

鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫

忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔

服部課長代理       服部半三(中忍)

十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者


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